26話 喧嘩別れ
とある家でどなり声が聞える。
「エルシ!駄目だって何度言ったら分るの!お母さんはそんな子に育てた覚えはないわ!」
「何よ…!駄目駄目駄目って!何でも駄目じゃん!私の勝手でしょ?!大体育てられた覚えもないもん!」
ふわりとした金髪の女の子が母に食ってかかる。
「お母さんはあなたを心配して言っているの!どうして分らないの」
「いつどこで誰が心配してほしいなんて言った?」
「ああ言えばこう言う!もう!あなたなんてうちの子じゃないわ!」
「……っ!…お母さんなんてもう知らない!!」
勢いよく身を翻し、家を出ていった。
エルシは、夫と離婚してから女手一つで育ててきた。
そんなエルシは突然、学校をやめてミュージシャンになると言うのだ。
まだ13歳だというのに、そんな計画性も実現性も薄い事など許せない。
心配しているというのに、どうして分ってくれないのだろうか…
***
数日間ずっと口のきかない日々が続いた。
ある日の昼、いつになく外が騒がしいことにふと気が付いた。
――何かあったのかしら…?
外に出て見るとどうやら近くで事故があったらしい。
耳にひそひそ話が飛び込んできた。
「交通事故があったんだってねぇ」
「ちらっと見てきたけど…怖くて帰ってきたわ」
「まだ子供だったらしいわね…かわいそうに…」
――え…
心臓がどくんと跳ねた。
何故か嫌な予感がする。
息を切らせながら走って行くとすぐに人盛りが見えた。
「ちょっと、すいません!」
人を掻きわけて進み、言葉を失った。
まるで悪い夢でも見ているかのようだ。
血の池に倒れる女の子。
血に染まる身体。
ふわりとした金髪が所々赤に染まっている。
「エルシ…!!!」
目を見開き、悲鳴に近い叫び声をあげた。
「嘘!嘘でしょ?!嘘って言いなさい!」
膝をつき、エルシの身体を力任せに揺さぶり叫ぶが、
エルシは黙ったままだ。
段々身体が冷たくなっていく。
母親はその場に崩れ折れた。
***
病院で母は、すっかり冷たくなったエルシの隣に座り呆然としていた。
ノックの音が聞こえ、病室に人が入ってくる。
「あの…これ…」
見知らぬ女が紙袋を手渡してきた。
緩慢な動作でそれを受け取り、まじまじと見つめる。
「…?」
「事故現場に落ちていて…では…失礼します…」
それだけ告げると帰っていった。
何だろうか。
開いてみると中からビーズで作った花形のキーホルダーが出てきた。
袋の中をもう一度見たとき、手紙が入っているのに気付いた。
開いてそれを読む女の、母の目がみるみるうちに震えだした。
【お母さんへ
お誕生日おめでとう
手作りキーホルダーだよ
この間はごめんなさい。我儘ばかり言って
心配して言ってくれていたのは、分ってるよ
お母さん大好き】
「――…!」
エルシからの手紙だった。
涙があふれ出す。
ああ、喧嘩をしたままだった。
仲直りもできなかった。
酷い事も言ってしまった。
私のせい、私のせい、私のせい。
「あなたは私の子よ…!私が…私が悪かった…っ」
プレゼントと手紙を胸に抱え、嗚咽を漏らしながら泣いた。
――だから、戻ってきて…!
+ + +
女の指がぎりぎりとフェルの首を絞めあげていく。
フェルが縛られたままの手でもがき、抵抗し、
苦しそうに顔をゆがめる。
フェルを押し倒した女の手に一層力がこもり、つめが食い込みフェルの首に血が滲んだ。
視界が暗くなって意識が遠のいていく。
「く…苦し…や、めて…」
フェルの一言にはっとした女の目が見開かれる。
苦しむフェルとあの日のエルシが重なって見えた。
『痛いよ…苦しいよ…』
「…!エルシ…?!」
「…?」
「あ…あ……」
フェルの首からフローラの手が離れ、彼女は震え慄きながら後ずさった。
「いやぁあああ!!!」
狂ったように叫び、懐からナイフを出し自分の胸に降り落とす。
床に鮮血が飛び散った。




