表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半堕天使フェル  作者: 蒼すだま
Ⅲ章
PR
20/41

19話 白いシャツ






柔らかな太陽の光がギリシャの町に降ってくる。

リギシャ独特の家の白い外壁が、太陽の光を反射して白く輝き、

今日も町からは賑やかな声が聞こえてくる。



「フェル起きろー。」


ソロンが、布団をかぶって丸まって寝ているフェルの肩をゆすった。

窓からは朝の光が差し込み、室内を明るくしている。


「んん…」


少し目を開けたフェルだったが、眩しさに目をぎゅっと瞑った。

無意識に布団を引き上げようとするフェルに、ソロンが身を屈め耳元で声をかける。


「ちょっと出掛けるぞ。支度しな」


出掛ける?どこにだろう?

そんな疑問を抱きながら、やっと明るさに慣れてきた目をうっすら開け、

そしてゆっくりと起き上がる。

ソロンがそれを見て優しく微笑み言った。


「おはよう、フェル」

「おはようございます…ソロンさん」


フェルも少し元気のない笑みをこぼし、小首を傾げながら応えた。

目覚める場所が自分の知らない場所、慣れない場所であるというだけで

言い表せないような不安や寂しさが胸を締め付ける。

早く帰りたい。でも何処へ―…

今は母に逢うために長い間いた天界を抜けたのだ。

黙って抜けてきた以上、天界には戻れないだろう。どちらにせよ堕天する身だ。

もうどこにも帰るところはない。

天界で半堕天使の自分には何処にも居場所がないのは当然のことで、それは人間界でも同じはずだ。

ソロンはフェルによくしてくれていて感謝している、それに嬉しい。しかし逆にフェルにとっては苦しかった。

半堕天使の自分を此処に居させてくれているとことが、心苦しかった。

何故見ず知らずの自分に優しくしてくれるのだろうか。

何故。

そこまで考えてはっとし、目を瞠った。

忘れていた。今はあの半堕天使の象徴である黒と白の羽根が無いということを。

ということは、ソロンは自分が半堕天使である事は当然知らないということになる。

少なくとも人間ではない事は分っているだろうが、半堕天使だと告げたらどんな顔をするのだろうか。

天界の神々や天使たちの”あの顔”が脳裏に浮かぶ。

やはりソロンも同様に露骨に嫌な顔をするのだろうか。

それを考えて恐ろしくなった。

怖くて怖くて本当の事なんて言えない…

掴んでしまった、このささやかな居場所さえも無くなってしまいそうで。



その時視界に白いものが飛び込んできて意識が引き戻された。

見るとソロンがカッターシャツとズボンとそれとリボンを差し出していた。


「その格好じゃパジャマみたいだから、これに着替えな。

俺の服しかないからな…少しばかりフェルには大きいかもしれん。」

「パジャマ…ですか…」


ソロンは昨日と同じく襟のついたシャツにズボンといった格好に対し

フェルは今まで着ていたボロボロの黄土色の服なのだ。

天界を出るときに着ていたローブはハンガーにかけて吊ってある。

フェルは自分の格好と服を見比べ、やがてすいませんと言いながら受け取った。


「……自分で着られるか?」

「き、着られますよ…」


何だか子供扱いされたような気がする。


「そうか。じゃあ俺は下で支度しているから、着たら降りてきな」


少し頬を膨らませたフェルを見て小さく笑いながらソロンは部屋を出ていった。

その様子に更に不満そうに頬を膨らますが、それはフェル自身は気付いていないのだった。

フェルは一旦服をベッドの上に置き、腕を伸ばして固まった寝起きの筋肉をほぐす。

たくさん眠ったので

お母さんを早く助けに行きたい。逢いたい。

それとセルザスとヴィアが心配でたまらない。

でも死神界に戻る術など持ち合わせていないし、どうする事も出来ない。

再び気分が沈みかけたが否定するようにぶんぶんと首を振り考えを回転させる。

――ヴィアさんは…迎えに行くって言ってた…

だから今はそれを信じて待つしかない。

気持ちを切り替え、フェルは天界での様々な想いの詰まった服を脱いで、

白いシャツに腕を通した。






  +  +  +






支度を終えたソロンは小さな棚の前で写真を見つめていた。

ついと目を細める。

その時上から足音が聞え、慌てて棚の引き出しにそれをしまい込んだ。

ほどなくして階段から白いシャツにズボン姿のフェルが見える。

やはり少し大きかったのかシャツの袖とズボンの裾を捲りあげ、

両手を胸の方にもってきて、気恥ずかしそうな顔をしている。

生まれて初めてこんな服を着たのだ。

ソロンが近づいて、ポンと頭に手を置いた。


「お、似合ってるじゃないか。…っと、おしいな…」


ソロンの腕が、すっとフェルの胸元へ差し伸べられる。

フェルはドキッとして半歩身を引いた。


「ボタン、かけちがえてる。」


瞬きをし俯いて見ると、確かに1つ飛ばしてボタンをかけていた。

不自然に布がうねっている。

自分がこうだと思っていても、相手にとっては全く違うこともある。

想いの違いは時として大きな歪みとして現れる。

ソロンはそれを手早く直し、これでよしと言いながら腰に手を当てた。


「あ、ありがとう」

「なんてことないさ。さ、出掛けるぞ」

「出掛けるって何処へ…ですか?」

「俺の仕事場だ。行くぞ。ていうか付き合え手伝え」

「は?」


思わずうろんげな顔をする。

え、さり気無く最後命令系だったし。


「冗談だ冗談、まぁ…とりあえず行くぞ」


いなずらっぽく笑いながらフェルの背を押すが

フェルは入口の陰に隠れて戸惑いの色を浮かべている。

首を引っ込め耳を伏せて、外の様子を窺う。

――どうしよう。外は人間がいっぱいだ。

ソロンは何も言わずに自分を受け入れてくれたが、

他の人間も同じとは限らない。

自分の耳は人間とは明らかに違う。見つかったらどんな目で見られるか…

何となく予想がつく。


その時上から何かをぽすっとかぶせられた。


「…?」


見るとソロンが被っているのと同じ麦わら帽子のようだった。

はっとしてソロンの方を見上げる。


「これなら大丈夫だろう?」


気付いてくれたことに吃驚しながら、こくりと頷く。

ソロンがフェルの手を握って引いてくる。

大きくて、少しごつごつしてるけど、でも不思議と温かくて優しい手。

それが不思議で繋いだその手をじっと見つめ、一緒に玄関をくぐりぬけた。


心地よくて、今くらいは全部忘れても…いいかな、なんて。

駄目かなぁ





















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ