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半堕天使フェル  作者: 蒼すだま
Ⅲ章
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第17話「禁術とセルザス」

巨大な鎌が振り下ろされ、地面と岩が粉々に砕け散り暗闇に轟音が鳴り響く。

黒い長髪の男は、相手に軽々と避けられちっと舌打ちをし、再び地面を蹴りあげる。

黒い髪をを靡かせながら、一気に間合いを詰め、もう一度鎌を振りかざす。

空中で鋭い金属音が暗闇に鳴り響く。


「何が目的だ…貴様は何だ」

「ふぅ~怖いねぇ~。早く言っちゃいなよー」

「…貴様…」


鎌と剣で小競り合いが始まる。

セルザスが力を込めヴィアを押し飛ばし、再び切りかかる。

鎌はリーチが長い故に中距離は得意だが、近距離は苦手だ。

ヴィアは鎌の持ち手を突き出し防御をする。

打たれる度に手に凄まじい振動が伝わってくる。


「ほらほらどうしたぁ!」


セルザスが余裕の笑みを湛えながら右から左から次々に剣を振り下ろす。

ヴィアは忌々しげに舌打ちをし、セルザスの剣を力任せに振り払い後ろに飛び退った。

飛び退ったところにいる天界兵が剣を振りかざし、今にも振り下ろさんとしている。

気配を感じ取り身を翻し、鎌で相手を突き飛ばす。

その兵の後ろにいた2・3人の兵も巻添えをくらい突き飛ばされた。

だがあっという間に天界の軍勢に囲まれてしまう。

休むことを許さないかのように、次々と兵が四方八方から襲いかかってくるのだ。


「…多すぎる…!」


襲い掛かる兵を横目で見ながら鬱陶しげに眉間にしわを寄せる。

鎌や足で、迫りくる兵を突き飛ばし、なるべく傷つけないようにする。

彼らに罪はない。兵たちはセルザスに操られているのだ。

禁術マリオネット。

その名の通り、全ての者の心を支配し、操り人形のように意のままに動かしてしまう。

だが禁術は天界のものではなく死神界のものだ。

なぜセルザスがそのような術を知っているのか。

彼の心を読んだかのように、セルザスはにやりと嗤う。


「水龍よ宙を舞え!ホーリーウォーター!」


セルザスの詠唱と共に聖法書が光り水のドラゴンが出現し、

まるで生きているかのように唸り声を上げヴィアに襲いかかる。

ヴィアは、何が”聖なる水”だ、と心中で眉をひそめながら、

襲い掛かってきた水のドラゴンをひと振りで粉砕する。

粉砕され飛び散る水滴の向こうに、また詠唱をしているセルザスの姿がある。


「まだまだ!炎鳥よ焼き尽くせ!ホーリーファイヤー!!」


セルザスの聖法書が再び光り、背後に蛇のようにうねり狂う炎が出現したと思うと

それは複数の鳥の姿に変化し、ヴィアに襲いかかる。

鎌を振り回し死神の持つ闇の力を解放し、襲いかかる炎に対抗する。

闇の力で包みこもうとするが、段々セルザスの放つ炎鳥に押されていく。

これほどまでの力とは、予想の範疇を超えている。

押し返そうと鎌を持つ手に力を入れた時。


「よそ見はいけないねぇ…」


いつの間にか間合いを詰めていたセルザスが斜め下でにやりと嗤う。

ヴィアが息をのみ、目を剥く。


「しまっ…」


横腹に大きく回し蹴りをくらい、空中から地面に叩き付けられた。


「…がっ…」


叩きつけられた衝撃で息が詰まり、口から生温かい鮮血がほとばしる。

激しく咳込みながらも立ち上がり、鎌を構えた。


「…今のは、切れば確実に殺せていたぞ?」


セルザスは下のヴィアを怪しく目を細めて見下ろし、

楽しんでいるかのような口調で告げる。


「ああ、お前などいつでも殺せるさ。

だがそれはフェルの居場所を白状してもらった後でだ」

「ふん…それは楽しみだな。…だが生憎教える気は毛頭ない」


毅然と言い放つヴィアと、苛々の募るセルザスの視線がかち合い火花を上げる。

先にセルザスがヴィアに向かい急降下し、剣を構える。

ヴィアも地面を蹴り空中へ飛び立ち、鎌を大きく振り上げ斜めに振り上げた。

その振り上げた軌跡から高濃度の闇の力が生じ、暗闇に赤黒い波動が放たれる。


「なにっ?!」


セルザスは咄嗟にかわせず、剣で防ごうとしたが弾き飛ばされた。

何とか空中で体勢を整え、眉間にしわを寄せる。

複数の兵がセルザスを護るかのように一気にヴィアに躍りかかる。

再び鎌を横に薙ぎ払い、闇黒の波動を放ち兵を吹き飛ばす。

方々に飛ばされた兵は痛みを感じないのか、むくりと起き上がり剣を構えた。

再び兵はヴィアめがけて飛びかかってくる。

これではきりがない。

だが傷つけられない以上、鎌や足で突き飛ばし気絶させるしか方法はない。

切りかかってきた兵をかわし、鎧の隙間を狙って攻撃をくらわす。

身を翻し、別の兵を蹴り飛ばし、岩にぶつける。

ヴィアを逃がすまいとするかのように、兵が周りをじわじわと取り囲む。

今はセルザスを止めようとしているのだ。

逃げるつもりはないが、これでは逃げようにも逃げられない。

攻撃を繰り返すごとに、

少しずつ、しかし確実に体力が削られ、息が荒くなっていく。


「はぁぁあっ!闇黒刃!(あんこくは)」


鎌を切り上げるように1周振り回し、暗黒の波動を放ち、一気に兵たちを吹き飛ばす。

ヴィアは上がった息を整えながら、怪訝に眉をよせた。

――兵が、立ち上がってこない…?

その時後ろから拍手と共にセルザスの声が聞こえる。


「素晴らしいよ君は。ここまで粘るとはねぇ」


振り向くとセルザスが剣を振りかざし、凄絶に笑っていた。

咄嗟に後ろへ飛び退るが、剣をかわし切れずに胸に斜めに紅い筋が走る。

血が流れ出してくる。血の量は多いが傷は深くはない。


「…浅い」


ふっと余裕の笑みを浮かべた瞬間、

嫌な音と共に、鈍い衝撃が身体を貫いた。

衝撃で身体がのけ反る。

鈍い痛みが体中を走り、後から襲ってきた痛みに大きく顔をゆがめた。

鉄の味が口の中に広がり、咳と共に口から傷口から生温かい血がほとばしる。

身体が焼けるように熱い。

ゆっくりと下を向き、胸から突き出た固い物を掴む。

血で赤く染まりぬるぬるとしている。


「…!」


ようやく状況を理解したヴィアが愕然とした。

痛みをこらえ首を回し後を見ると、真後ろに兵が剣を持ち立っている。

その剣は吸い込まれるように自分の背中から胸へ突き抜けていた。

ごほりと再び血を吐き、力を振り絞り兵を蹴り飛ばす。

小さくうめき声を上げ、剣が刺さったままの身体をくの字に曲げた。

それを見たセルザスが凄絶に嗤う。


「ははっお前本当に目障りだなぁ。

そうだ。どこにやったかと聞いたが、そんな事分りきったことだ」

「なん…だと…」


剣でふさがれているとはいえ、傷口からとめどなく血が流れ出し、

赤黒いしみが広がる。死へと誘うかのようにじわじわと広がっていく。

セルザスが顎をしゃくり、目をきらりと光らせ、にやりと笑う。


「人間界だろう?」

「…何故っ!うっ…」


痛みで再び顔をゆがめる。


「俺は、フェルの幸せを願ってるのだよ…ふふっ」


片手で顔を覆い狂ったように嗤いだした。


「お前、俺が分らなないとでも思ったか!魔法陣見れば一発だよ!あはははは」

「だが…正確な、場所、など…わからない…だろ…あいつは、俺が守る…」


荒い息になりながら、ヴィアがなおも挑発するような口調で言った。

それを聞いたセルザスが急に笑うのをやめ、地を這うように低く抑揚の乏しい声で喋り出す。


「ふっ、大体の場所は分る。後は手当たり次第に探すさ。

そしてフェルの母親に巡り合わせてあげるのさ。

これはね、復讐なんだよ!復讐!俺を裏切った奴らに対してのな!

皆憎い…!あの女も!そいつが残した子どもも!ふふっ…ふはははは」



裏切られて、裏切られた。

セルザスが腹を抱えながら、再び狂ったように嗤う。

顔を覆った指の隙間で、セルザスの目が怪しくきらめいたのを、ヴィアは見た。

セルザスは愕然と目を見開くヴィアを見下し、突然自分の剣を彼に突き刺した。

ヴィアは身体がほとんど動かず、避けることはできなかった。

再び鉄の味が口の中に広がる。

そのまま勢いよく剣が引き抜かれる。


「…っ!」


顔をゆがめ、うめき声をあげる。

大量の出血と共に、口からも血が溢れ出る。

傷口を押さえ、セルザスを睨みつけた。


「さっき避けられたからなぁ~お返しだ。じゃぁな」


うっそりと嗤いながら言い放ち、

手をぶらぶらを軽く振りながらセルザスは飛び去って行った。

ヴィアは動くこともできず、痛みで引き攣った呼吸を繰り返す。

意識がもうろうとしてくる。

奴の姿も満足にとらえられない。

俺は死ぬのか。

身体の感覚がわからなくなってきた。

飛ぶ力も失い、暗闇へと落ちて行く。

――ごめんなさい…あんまり、なおらなかったの…

本当に悲しそうな顔をした子どもの姿と、

どこか哀しい顔をした半堕天使の少年の姿が脳裏に浮かび重なって揺れる。

出来ることならば、昔から変わらない優しいあの子を

護ってあげたかった。


昔、酷い怪我を負い天界に逃げ込んでいた時に、

あの子は使い慣れない聖法書片手に

一生懸命傷を治そうとしていてくれたっけ。


一人かと聞くと、寂しそうな眼をして頷いていたっけ。


『フェル…』


遠のく意識の中、彼の無事を祈りながら。

何もできなかった自分を悔みながら。


ヴィアの姿は闇へと消えて行った。




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