表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅玉の姫君  作者: 神奈保 時雨
第三章
16/61

リティシアの嘘


 蜘蛛を倒した後、魔法陣を使えないように処理したリティシアたちは、家路についていた。

 魔法陣以外に残されているものはなかった。少ししてからもう一度調べてみようという話にはなったものの、何かが見つかる望みは薄い。

 つまり、今回も証拠が見つかる可能性は薄いということだ。


(――予想が的中してしまうなんて)

 リティシアはアーシャの斜め後ろを歩きながら、そっとため息をついた。。彼女は彼の後ろ姿――もう翼は仕舞われていて目には見えない――をそっと見つめた。

 まさか人間界で天使と関わることになるとは、思わなかった。


(これはますます、あたしが魔族だとは明かせないわね……)

 リティシアは眉間に皺を寄せ、思案する。

 魔族が疑われているこの状況に加え――天使。魔族は他の種族に嫌われている。そしてそれが顕著なのが、天使だ。

 天使は他の種族を嫌い、積極的に関わることを規則で禁じていると聞く。自らの種を孤高のものと考え、独自の体制を敷いて生きているのだ。

 中でも、自ら魔族に関わった天使には、厳重な罰があると聞く。それにはそれで理由があるのだが――


(……今は天使の決まりごとを思い出してる場合じゃないわ)

 アーシャがいくら友好的で、自ら他種族と関わっている「変わり者」だとしても、天使は天使。これは何としても、黙っていなければならない。リティシアが思考すべきは、アーシャにどう隠すかだ。

 リティシアが魔族だと彼が知らなかったならば、他の天使たちもそのことでアーシャを責めることはないだろう。


「リティシア? どうかしたの?」

 リティシアの思考に、ふと柔らかい声が割り込んだ。彼女はそれにアーシャを見る。彼は歩く速度を少し緩め、リティシアの隣に並んだ。

「どこか痛む?」

「いいえ、そうじゃないのよ」

 リティシアはこの場を誤魔化すべく、言葉を探す。

「――そうだわ、アーシャ」

その途中、本当に言わなければいけない言葉を見つけ、彼女は再びアーシャを見た。

「――助けてくれて、ありがとう」

 その言葉に、アーシャは柔らかく微笑んだ。

「お礼はいらないよ。仲間なんだから、当然でしょ?」

 その返事に、リティシアも同じように微笑む。


 そして、心の中で小さく付け加えた。

(――ごめんなさい)

 自分が正体を偽っていること。魔族でありながら、人間のふりをしていること。

 ――アーシャに自分の正体が知られることが一大事であることを、リティシアは知っている。魔界にいるときに、他の種族の話は何度も聞いた。


 しかしながら、偽ることに対する罪悪感を、リティシアは確かに感じ始めていたのだ。

 アーシャに隠すならば、他の魔法使いたちにも隠しておいた方が安全だろう。リティシアが正体を明かす機会は失われた。それに少しばかり胸が痛んだように思えて、リティシアは密かに息をつく。


(元々隠そうと思って隠したことだし、いつか明かすつもりでもなかったはずじゃない)


 そもそも、エリセに初めて会った時から、リティシアは自分の種族のことなど一言も口に出していない。そういう方針で人間界を歩く、そのはずだった。

 その上、この一連の事件に関して協力しているのは、そうすれば自分にも利益があると見込んでのこと。元が打算あっての計画なのだ。


(何にしても……とりあえずは、父さまや魔族への疑念が晴れない限り明かさないと決めたはず。迷う必要なんてないわ)


「……リティシア、本当に大丈夫? さっきからちょっと怖い顔をしてるけど……」

「……え? ――ああ、ちょっと、ね。事件のことについて考えていただけよ」

 嘘ではないが、本当でもない。最近はそんな当たり障りのない言葉を吐いてばかりだ。

 そっか、というアーシャの返事に、リティシアはまた小さく後悔のため息をついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ