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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
1章 《素直な気持ち》
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第19話 『あんたはあたしの』

最近セリフが長く書きすぎる気がする。


そんなわけで、1章完結です。


 

 その後、藍と無事合流することが出来た。

 唯、藍の制服が先ほどよりも汚くなってる気がした。


「別になんでもないわよ。その辺ウロウロしてたらこうなったの」


 本人曰く、そうらしい。

 その後、何故か携帯電話をもっていたエレアとティアラさん(こちらはスマホだった)とメアドを交換した。ここ圏外なのになあ。

 あ、因みにユリィちゃんは持っていなかった。一人だけ寂びそうだったので撫でてあげたらすぐに笑顔に変わった。勿論周りの人の表情も変わった。アリスだけがいつもどおりのニコニコ笑顔だったが。

 エレアは疲れたから帰りますー、と行きと同じく馬車で帰宅し、ユリィちゃんたちも城に戻る前に僕たちの帰る手伝いをしてもらった。


「あれ? そういえばこんなに夜遅くなっちゃったけど、ユリィちゃん大丈夫なの?」


「それには心配ありません天白様。私の部下で変装が得意、もとい変装だけしか取り柄のない奴がおりますので」


「なんとなく納得できたけど、もうちょっと言い方を変えてあげて!」


 その変装が得意な人のおかげでユリィちゃんは怒られずに済みそうだ。

 そして、無事に人間界へと帰ることが出来たのだ。

 そのまま藍に話さなければいけないことがあるので、アリスには先に帰ってもらう事にした。

 そういえば、アリスは態々僕のために来てくれたのに悪いことしちゃったなあ。

 不満そうな顔一つしなかったアリスに対する罪悪感が増していく。後で撫でてあげないと!

 昔、藍とよく遊びに来ていた公園のベンチへと僕たちは腰掛けた。

 僕は藍に僕が隠していたことを全て話した。

 僕が竜人であること。入学式からの出来事のこと。ツッキーたちの正体のこと。魔法のこと。

 藍は途中で口を挟みながらも全て聞いてくれた。



    ◆



 回想終了。

 

「魔法についてはラルク先生に言っとくから、あの人から聞いてね。僕あまり詳しくないから」


「別に良いけどね。でも大丈夫なの? ツッキーや舞ちゃんのことを勝手にバラして」


「ツッキーは大丈夫だと思うけど、舞は……土下座かな」


「まあ、土下座なんてさせるようなことはしないと思うけどね」

 

 先に連絡しとけー、みたいなことは言われるだろうな。

 でもさ、ちゃんと話す上で知らせとかないといけないところだってあったんだもん。


「異世界に、魔法に、ドラゴン……」


 藍が俯いてぶつぶつ呟いて、すぐに顔を上げてふうとため息を吐いた。

 

「なんかもう完っ全にファンタジーね。もう宇宙人が侵略してきたとか言われても驚かないわよ」


 宇宙人はファンタジーじゃなくてSFだという野暮なツッコミをしたらおそらく叩かれる。


「それで、あのデカイ岩の化け物は一体なんだったの?」


「わからない。ティアラさん達が言うには、誰かの手によって作り上げられた魔物らしいけどね。犯人は何がしたかったのかもよくわからないし」


「もしかしてあたしが取り込まれることを予測してたのかしら?」


 それもわからないな。まあ、現時点じゃあわからないことだらけだな。


「でも、あの苗木って人は……」


「ああ。あんたの話に出てきた人ね。確か不潔だとか」


「不潔じゃなくて不吉! ……その人がちょっと怪しいんじゃないかって思うんだ」


「ふぅん。……と言っても、あんたしか会ってないし証拠もないから確信は持てないわね」


 あの苗木って人は結局何者なんだろうか。

 一体何が目的であそこにいたんだろう。


「ま、いいじゃない。そんな不潔な男のことなんてほっときなさい」


 いや、最初に藍が巨人のことを訊いてきたからこんな話になっちゃったんじゃなかったっけ?

 しかも不潔じゃなくて不吉……。


「……そういえばさ、あんたなんでこの事黙ってたのよ? 別に隠すことなんてないでしょ」


「いや、それは…………ほら、僕が人間じゃないことが知られたら、藍たちが離れていくと思ってさ」


「はあ?」


「そう思ったら、怖くって」


「………………馬鹿じゃないの」


 藍が拳を握りながら立ち上がった。

 その表情は怒りに燃えていた。

 今にも殴りかかって来そうな剣幕だ。


「あんた馬鹿じゃないの!? なんであたしがそんなちっぽけなことで離れて行くのよ! あんたはあたしを信用できない? あんたが人間じゃないといけない理由があるの? あんたが人間であろうとする意味があるの? そんなことちっぽけなこと気にすんなよ! 男だろ!? もっと堂々としろよ! あんた馬鹿だろ! バーカバーカ!」


「…………ごめん」


 ああ、そうだな。僕って馬鹿だな。

 藍のことを信じきれてなかった。幼馴染なのにな。

 目がちょっと熱くなって少し滲んだ気がした。


「……で、それだけなの? 他は?」


「無くは無いんだけどね」


「十秒以内に言いなさい。さもなくば死刑よ。十。九。八」


「ちょ、待って! わかったから手にしているスリッパを捨てて両手を挙げて!」


 スリッパじゃなくて拳銃だったら、どっかの刑事もののドラマっぽいな。


「ふん。だったら、さっさと吐いちゃいなさいよ」


 あ。今度は僕が犯人役っぽくなったぞ。

 結局、藍の手にはスリッパが握られたままだ。


「それはさ、藍たちを巻き込みたくなかったんだ」


 藍は無言だったので言葉を続けた。


「あの岩の巨人みたいにこっち側(・・・・)は危険なんだ。下手したらすぐに死んでしまう。魔法でもコンティニューはできないんだ。そんな世界に藍たちを巻き込みたくなかったから……だから……」


 腕を組んで、黙っていた藍が口を開いた。


「あんたの気持ちはなんとなくわかったわ。でも、そんな心配する必要ないわよ」


「えっ? なんで?」


「だって、あんたがあたしを護ってくれるんでしょ?」


「ぅへぇ?」


「言ったじゃない。あんたがあたしを護ってやるって、どんなことに巻き込まれても助けてやるって」


「……うん。護るよ、絶対に」


 そうだ。僕が藍たちを護らなきゃ。

 僕は拳を強く握り、改めて決意する。

 僕の言葉にふふん、と藍は笑った。


「まあ、当然よね。……だって、あんたはあたしの」


《 白馬の王子様だから? 》


 僕とも藍とも違う少女の声に体が強張る。

 ベンチの上から転げ落ちそうになった。

 

「だ、誰!?」


 周りを見渡しても誰もいなく、気配すらも感じない。

 藍は驚いた様子はなく、ただ凄い恐ろしい形相で自分の影を睨んでいる。


《 ふえっふえっふえっ 》


 なんだこの気持ち悪い笑い声は!?


《 とうっ! 》


 次の瞬間、藍の影から漫画やアニメの熱血元気キャラみたいに拳を突き上げて少女が登場したのだ。

 そのまま飛び上がった少女は、まさかの空中で一回転。


「シュタッ」


 態々自分で効果音をつけながら見事に着地した謎の少女。


「ちーっす!」


 少女は元気よく挨拶してきた。

 その心がけは良し! ……だけど、もう暗くなってきたから大きな声はやめようか。

 とりあえず返事でもしようかと思ったら、藍が少女にアイアンクローを仕掛けた!


「いだだだだだだっ!」


「……あんたって奴は、どうしてそう余計なことを」


 藍が少女にかける握力を強める。

 めきめきめき、と本格的にヤバイ音が聞こえ始めた。


「ぎゃあああああっ! 痛い痛い痛い! 頭がグロ注意になっちゃう! 初登場直後に死んで退場とか大人の事情マジ怖いいいいいいいっ!」


「もうやめて! 少女のライフはゼロだよ! このままだと公園で頭部が潰れたトマトの様な死体が出来ちゃうぞ!?」


「ちっ」


 藍は露骨に不機嫌そうな顔で舌打ちをして少女を解放した。

 解放された少女はぬごごごご、と呻きながら頭を抱えた。本気で痛そうだ。


「だ、大丈夫?」


「だ、だいじょぶだいじょぶ。助けてくれて、ありがとね。えと……?」


「僕は天白龍也だよ。君は?」


「私は畑中凛だよ! じゃあ、これからは“りゅーくん”て呼ぶね。私は“凛”でいいから!」


「はあ」


 気さくな少女だな、と思いつつ藍を見るとそっぽを向いてスリッパを両手で丸めている。

 明らかに不機嫌ですね。スリッパの見る影がないぞ。


「じゃあ、凛。いきなり訊かせて貰うけどさ。君は何者で、なんで藍の影から?」


「……あー」


 凛はバツの悪そうな顔で藍に助けを求めるように見た。

 藍は未だにスリッパを丸め……あ、割れた。


「とりあえず、話すけど。怒るのは聞き終わった後にしてね」


 僕が怒るような話なのか。

 そう思いながら頷いた。



   ◆



 つまり。


「話をまとめると、魔物になって暴走した凛が藍を異世界に呼び出して、藍は謎のドラゴンと共闘で凛を救出。その後、藍と『仮契約』を結んで今に至る、と」


「ごめんね。別に悪気があったわけじゃないから……って、これって言い訳か。とにかく、迷惑かけてごめんなさい」


「いや、別に藍は許してるんだったら良いよ。というか、藍がよくそんな簡単に許してくれたね」


「うん。揉まれたけど、すんなり許してくれたよ」


「……そっか」


 何かは聞かない。何かは聞かないぞ!


「というか意外ね。あんたのことだから色々怒ると思ったのに」


 すっかりいつもどおりに戻った藍が意外そうな表情で見てきた。

 いやあ、もし怒ったらまた橘に色々お説教されかねないからね。ガクガクブルブル。


「ところで、さっき話した水縹色のドラゴンって、あんたの知り合いじゃないの?」


 僕は首を横に振る。

 全然知らん。


「でもねー、あのドラゴンの気配どっかで感じたことあるのよねー。例えば学校とか」


「お前は常日頃から周囲の気配を察知して生きてるの!?」


 驚愕の事実だ。そんな生き方をしてたのか我が幼馴染は。


「で、そのドラゴンは結局どっか行っちゃったんだ」


「そうなのよね。仮契約済ませたら、いつの間にかね。名前さえ教えてくれなかったのよ、あの雌竜」


 ふうん。結局何者なんだろうかその水縹色のドラゴンは。

 藍を助けてくれたってことは味方なのだろうか。

 でも、名前を教えない理由ってなんだ?


「わからないと言えば『仮契約』って何ぞや?」


「りゅーくん。仮契約って言うのは、即興で出来ちゃう簡易な契約だよ。本当の契約だと色々儀式めいたことしなくちゃいけないんだけど、仮契約はそれを根刮ぎカットした契約なんだよ。でも、その為に本物との違いが多々あるんだ」


「例えば?」


「例えば、本物の契約なら魔法使いと使い魔は『主従関係』だけど、仮契約なら『同盟関係』みたいなちょっと変わった関係になるんだ。後はすぐに契約を破棄することができるとか」


「本物の契約はすぐに破棄出来ないの?」


「それにも色々準備とか条件が必要らしいよ」


「へえ。じゃあ、凛は藍の『使い魔』ってこと?」


「うん、そだよ。今の私は魔物だからねー。この人間の姿だって(仮)みたいなものだしね……」


「かっこ仮って……」


「本当の私の姿は醜い化け物だよ。今は(あーちゃん)と仮契約を結んで、魔力のコントロールも大分マシに出来てるからこの人間の姿になれるんだ」


 これ全部洞穴の精霊に聞いたんだ、と言う凛の表情は暗い。

 藍は唯々無言で風で揺れているブランコを見ていた。

 その表情はどこか怒りが含まれているように見えた。

 仮契約を結んで人間の姿になれてもそれは応急処置のようなもので、凛自体が人間に戻ったわけではない。

 藍の表情は一人の友だちを救えない自分の不甲斐なさに怒ってるように見えた。


「な~んちゃって☆ どう? シリアスぽかった? この調子だと私女優になれるんじゃない!?」


 凛は笑った。

 僕は確信していた。

 凛はその場の沈んだ空気を変えようと無理して笑っているんだと。

 一番辛いのは凛のはずなのに、それなのに……。


「別に悪いことばっかじゃないんだよ? むしろ辛いことなんてノープロブレム! 今は体も凄く軽いし、ずっと昔は入院続きで中々外に出れなかったからねー。これからは精々第二の人生をエンジョイするぞー!」


「……凛」


 藍が立ち上がった。

 凛の手を握り、自分の方に引き寄せる。

 そして、そのまま抱きしめた。


「え、あれ? あ、あーちゃん?」


「……もうやめて。やっと自由になったんだから、そんな辛くないとか嘘言って、猿芝居をするのをやめなさいよ。怖かったら、苦しかったら、辛かったら……ちゃんと泣きなさいよっ」


「…………うん。ごめんね、あーちゃん。ごめん……なさ…い」


 凛の瞳から涙が溢れ始める。

 ずっと、辛い思いをしてきたんだろう。

 ずっと怖かったんだろう。ずっと苦しかったんだろう。ずっと辛かったんだろう。

 これから先もおそらく辛い思いをするだろう。

 だけども、心配することはないだろう。

 何故なら、彼女には一緒に泣いてくれる友だちがいるのだから。

 凛は藍を抱き返した。



   ◆



「……ところで、あれ(・・)ってなんだったの?」


 その後、流石の藍でも女の子なのだから僕が付き添って家まで送ることになった。

 その道中で僕は一つ思い出したのだ。


あれ(・・)って何よ?」


 眉をひそめる藍。


「ほら、あの『あんたはあたしのー』ってやつ。確か何だっけ? 白馬の王子さ痛いっ!」


 裂けたスリッパを思いっきり投げられ、頭部に直撃。

 藍は顔を真っ赤にし、息を荒げていた。


「ば、バッカじゃないの! あ、あああああれは!」


「あれはねー、あーちゃんがー」


「あんたは黙れ!」


「じんじゃえーるっ!?」


 藍に一撃で謎の悲鳴を上げて倒れた凛を担いで藍は全速力で去っていった。


 ……僕、何か変な事を言ったかな?

 

2章は猫耳(並)と狼耳(ちょっと爆)がヒロインですよ!

もふもふ~!


 ~おまけ~


 龍也が藍にツッキーの正体を教えた時。


藍「へえ。狐だったの、あの変態。名前は伏線か」


龍也「うん。稲荷だしね。もふもふすごかったし」


藍「あたしはてっきり淫魔の類かと」


龍也「まあ、見えなくもないけどね」



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