番外編 4
次の日、約束していた族長の仕事場へ二人は訪れていた。
「――これはこの鉱物から、こっちのはこの鉱物から作れる。水晶だって取れるんだ。」
「凄いですね…こんな綺麗な水晶、見た事ありません。」
「そうだろ。この辺にしかない。」
マルクスと族長が話しているのを、離れた所でアンリネットは優しい笑顔で見つめていた。
「皇后さんには退屈じゃないかい?」
後ろから作業着姿のウィーニーシア族が話しかけてきた。
「いえ…"自慢の広場゛と言う場所を見せて頂いて、私も似た物で良いから作りたいな。と思いまして…。」
「自慢の…広場?」
首を傾げる鉱夫に、また違う鉱夫が話しかけて来る。
「戦場の広場の事だろ。」
「戦場?」
アンリネットは目を丸くして聞き返した。
「ああ。いや、そこが戦場なわけじゃない。敢えてにつかわない名前にして、戒めってやつか?」
「なるほど…あの場所を思い出すと、争い事なんてしたくありませんものね。」
「そう言う事だ。」
「なんだ。あの広場なら、族長とキーリとベッチが監督として作ったから、詳しいよ。」
隣の居る鉱夫が言う。
「キーリ!?キーリさんが居るのですか!?」
(キーリってマルクス様のお母様を助けた方よね…。)
アンリネットは思わず身を乗り出した。
「あ、あの……今、キーリさんはどちらに!?」
先程まで穏やかに話していたアンリネットの変わりように、鉱夫たちは目を丸くした。
「……お、俺が、キーリだ。」
目の前の鉱夫が、小さく手を挙げながら言う。
「本当に…。」
アンリネットは目の前のキーリ見つめた。
マルクスから聞いていた人物と重なっていく。
「マルクス様から、あなたのお話を聞いていました。」
アンリネットは自分のことのように、涙を浮かべながら話した。
そしてキーリは懐かしそうな顔をして、アンリネットと共に工房へ向かった。
族長と数名の鉱夫、そしてマルクスが円卓を囲んで話をしていると、族長がマルクスの向こうからやって来るアンリネットたちに気が付いた。
「おや!アンリネット!と…キーリも一緒か。」
その言葉に、マルクスは勢いよく立ち上がり、ゆっくり後ろを向いた。
「…キーリ……?」
二人の間の時が止まったかのように、沈黙が続いた。
マルクスはゆっくり顔を手のひらで覆う。
「マルクス様。
…良かったですね。」
アンリネットがマルクスの背中を支えると、小さく震えているのがわかった。
キーリがマルクスの前まで来ると、まるで子供をあやすように、頭に手を置いた。
「……大きくなったな。」
マルクスは何かを言おうとしたのに、言葉にならなかった。
それから数日、町で過ごすと、ウェスパシアへ帰る日になった。
「本当に良いのですか?」
マルクスが隣に居るキーリと、族長に尋ねた。
「俺は構わない。」
即答するキーリ。
「我々は先住民。どこの国にも属してはいない。俺が協力したいやつに協力するし、好きな場所で生きる。部族の者も同じだ!」
族長は豪快に笑うと、マルクスとアンリネットを見つめる。
「また来な。いつでも歓迎する。」
「はい!」
「はい。必ず…。」
二人は嬉しそうに返事をすると、キーリが族長に挨拶をする。
「じゃあ行ってきます。」
「おう。迷惑かけんなよ!」
「…子供じゃない。」
キーリはアンリネットの温室のリフォームのために、同行する事を快く承諾してくれた。
こうして一行は城へ戻る。
新婚旅行は終わった。
だが、アンリネットとマルクスの生活は始まったばかり。
二人はまた、一歩ずつ歩き始めるのだった。
おわり。
番外編まで読んで頂きありがとうございます。
まだまだ書きたいお話があるのですが、他にも書きたい作品があるため、アンリネットの物語はここで一度区切らせていただきます。
また彼らの物語を書きたくなった時には、ぜひお付き合いいただけたら嬉しいです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!




