1話 処刑された悪役側室の目覚め
「アンリネット・リィ・ドミティア
皇后への暗殺未遂、側室バーバラへの度重なる嫌がらせ、そして、国宝である龍の涙の窃盗。それらの罪により死刑を命ずる。」
広場に響く声。
後ろ手に縛られたアンリネットは静かに顔をあげると、視線の先には愛した男
――皇帝マルクス。
しかし彼はこちらを一度も見ない。
(あぁ…そうよね。)
三年間、ただ愛されたくて足掻いていたのに、マルクスからは愛される事はなかった。
そして――ガシャン!
冷たい刃が首に触れる。
それでもマルクスとは目は合わない…。
暗闇が全てを飲み込んだ。
アンリネットの首は落とされると、広場は歓声に包まれた。
──────
「きゃー!」
悲鳴と共に、アンリネットは飛び起きた。
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
(え?夢?…。すごい生々しい夢ね…。)
コンコン。とドアを叩く音。
「お、おはようございます。
アンリネット様…朝の支度に、ま、参りました…。」
「…そう、入って。」
ドアが開くと、若い侍女が、洗面器とポットが置いてあるワゴンを押して入ってくる。
「待ちなさい!バラの数が少ないじゃない!」
「も、申し訳ございません!」
アンリネットの洗面器にはいつもバラを入れていて、新人の侍女は量を間違えてしまっていた。
「え…ちょっと待って…。」
「は、はい…。」
(この子、一年前にも同じような事をして、私がクビにしたはず…。なんで居るの!?)
「あなた、名前は?」
「…リリー。と申します。」
リリーはカタカタ震えていた。
(やっぱり!そんな名前だった気がする!)
「今、何年何月何日!?」
「え、あ、はい。
□〇年5月22日でございます。」
アンリネットは驚きで目を見開いた。
(処刑される一年前!私、やり直せるの!?死なずに済むのね!?)
「…良いわ。今、気分が良いの!支度を始めて。」
「か、かしこまりました。」
一礼すると、ポットから洗面器へお湯を注ぐ。しかし緊張からか、手が震え、カツンと当たってしまう。
「申し訳ございません!」
青ざめるリリー。
(…そんなに私が怖いの?)
「ゆっくり入れれば良いのよ。それくらいじゃ怒らないわ。」
「は、はい。」
アンリネットは、マルクス皇帝の第二側室。皇帝を愛するあまり、皇后と第一側室のバーバラへの嫌がらせや、気に入らない侍女は次々と追い出していた。
その結果、彼女は悪役側室と陰で呼ばれるようになった。
(処刑された罪状は、皇后の暗殺未遂、バーバラへの嫌がらせ、龍の涙の窃盗…。
この窃盗だけは知らないわ…。誰かが私に罪をきせた?国宝だものね…盗んだらタダじゃ済まないわ…。)
考え込むアンリネットに、リリーが声をかける。
「あの…お支度出来ました。」
「んー、ありがとう。」
何気ない言葉だった。
それでもリリーの顔は明るくなり、アンリネットも自分がお礼を言うなんて。と驚いてる様子だった。
いくら側室と言っても皇帝の側室。
それが新人侍女一人は有り得ない。それほどアンリネットの素行が悪く、気に入らないとクビにしてきたからだった。
「あ、明日も、あなた…リリーに任せるわ。」
アンリネットは赤くなってる顔を見せないよう、横を向きながら言う。
「は、はい!ありがとうございます。」
一礼すると、タオルを濡らし、アンリネットの体を拭き始めた。
(まずは好感度をあげましょう!バーバラと仲良く…あぁそうだ、あの子見てるとイライラするのよね…。仕方ない!処刑回避のためよ!)
そうして朝食を済ませたアンリネットは、リリーを連れて、第一側室のバーバラの部屋を訪れた。
ガチャっとドアが開くと、中には三人の侍女と、家庭教師である公爵夫人が居た。
「っ!これはアンリネット様!」
皆が恐れるように、アンリネットに一礼する。
「バーバラがどんな教育受けてるのか見に来ただけよ。」
(違う違う!もっと優しくしたいのに!)
「左様でございますか…。今はこちらを…。」
公爵夫人がすっと本を差し出す。
バーバラは大臣の愛人の子で、元は平民。側室になってから、貴族の教育を受けている所だった。
「二年も居るのに、まだこんな事教えてるの!?」
「バ、バーバラ様は、物覚えが得意ではないようで…次の日には半分程お忘れに…。」
呆れたように公爵夫人は言う。
「…そう。」
チラリとバーバラに視線を向けると、気まづそうに俯いていた。
「午後は何をやるの?」
「はい?」
公爵夫人が驚いて顔を上げると、アンリネットは真剣な眼差しで見つめていた。
「ご、午後からは、ダンスのレッスンでございます。」
(あー、お披露目パーティーで陛下と踊った時、思い切り足踏んでたものね…それが可愛いとかおっしゃってたけど…まぁ私よりは可愛いのか…。)
ふっ。と笑ったのを誰も気付かず、アンリネットが言う。
「ダンスのレッスン、見学します。」
「えっ!?」
驚く公爵夫人を他所に、そのまま踵を返すと部屋を出て行った。
つづく。
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