第6話 信
「この世にもう永遠の別れという悲しみはありません。愛する人と永遠に共に。」
街の黄色い声と相反して、スピーカーから聞こえる喉に引っ掛かるような声はようやく鳴り止んだ。
「これが本当にこの街全体を支配するほどの信仰なのか?」
周りに人がいるというのに、先ほどのスピーカーに負けないほどの声量を発揮するうちの仲間に肝を冷やす。
「ガディ…神というものは僕達人間がありえないという事をするから神なんだよ。」
「そうだよ。サイマン様…素敵。」
すかさずフォローに入るシゴデキな仲間。
本当にありがとう。
「そうだな、とても素敵だ。」
俺も負けじとぎゅっと握った手を静かに胸に当てる。
「アンタ達、サイマン様の御業に興味を持ったのかい?」
「そりゃあ勿論!愛する人と別れなくて良いなんてこの世の最大の幸福じゃないですか!」
ラムダの口が、表情が、一人の婦人を虜にした。
こいつは敵に回したくない。
「俺達ぜひ入信したいんだが、どうすれば認めて貰えるのだろうか。」
「サイマン様はお優しいから、どんな方でも断りはしないよ。」
「サイマン様…!」
好きな男でも見るかのようにうっとりと空虚を見つめるリン。
この子も俺自身の肩が冷えるほどにサラッと思っていないことを吐く。
言葉は交わさず目配せだけで、自然と配置は決定した。
潜入するのは俺とラムダとリン。
外部にて情報収集を行うのが、マナとサウールとガディ。
俺達は一時の別れの挨拶の後、それぞれの仕事へと向かった。
「___入信希望ですか。」
「はい。俺達でも仲間に入れて貰えますか。」
「勿論です。サイマン様は誰一人として見捨てません。神の御心のままに。」
すんなりと入り口は突破し、早速中へと入ると俺たち三人は別々の部屋へ通された。
「どうぞ、お入りください。」
「失礼します。ルイって言います。」
「どうぞ、お掛けください。旅のお方ですか。」
「そうだったんですけど、この素敵な地に感銘を受けてここに永住しようかと考えています。」
「それは素晴らしいですね。私もお勧めいたします。」
優しい声色なのに、背中を撫でられたような感覚が消えない。
「そうですよね。愛する人と永遠に一緒にいられるなんて、この地以外にはないと思うんです。」
「それは勿論ですとも。ここだけでございます。神の御加護を受けておりますので。」
「ですよね。この世界全てがここなら良いのに…。」
その後も、俺の生い立ちや愛する人はいるのかなど事細かに聞かれ気付けば一時間が経っていた。
事情聴取のようなうんざりする時間を過ごし、ようやく俺達は合流を果たした。
ラムダとリンの話を聞いてみると、二人も同じような事を聞かれていた。
俺達は複数人で来たのもあり、他信仰のスパイやらと疑われているところもあったのだろう。
疑いが晴れてようやく日の目を見ることができそうだ。
どうやら今日は信者の会を行うらしい。
教主は出席しないようだ。
「神に愛されし皆の者、今月輪の繋魂祭まで1週間を切った。本日は愛する者と再会する準備を致そう。」
会場の全員が祈り膝を着く異様な光景に圧倒され一人立ち竦んでいた。
ラムダに促され、俺も信ずる者の仲間入りを果たす。
「まずはレイラ、どうぞ壇上へ。」
名指しされた一人の女性が立ち上がりゆっくりと壇上へと足を進める。
「彼女は若くして愛する婚約者を不慮の事故で失ってしまった。この街のために懸命に働いてくれている青年に起こった作業中の不運だった。」
彼女の片目から抑えていた一粒の滴が流れ落ちる。
「非常に生き生きと輝く彼にどうぞ言葉をお掛けなさい。」
淡い青色に輝く石から推測するに、爽やかな青年だったのだろうか。
「ショーン、事故が起こった時は本当に心臓が止まるかと思ったわ。痛かったでしょうね。ただ姿形は変われど、あなたとこうしてずっと居られるなら私は幸せよ。愛しているわ。」
そっと落とした口付けで、彼は眩しく光放ち始めた。
そこで湧き上がる歓声と拍手。
本当に愛を示すかのように輝く彼に俺も、目を逸らすことができなかった。
その後何人もの同様の流れを見た。
様々な色の石がまるで呼応するかのように持ち主の言葉かけによって暗くなったり眩しく光ったり。
本当に意思が宿っているのではないかと俺達でも錯覚してしまうほどだった。
その後軽い軽食が出され信者達でのティータイムが行われた。
「どうだい、すごかったろう。」
俺達を紹介してくれた夫人は自分のことのように胸を張ってそう言った。
「本当に凄かったです。ただ、ここの方々のお仕事って事故が多いんですね。私驚きました。」
「そうなんだよ。少し離れたところに鉱山があるんだけどね、そこでの不慮の事故が後を絶たないんだよ。」
「でもそんな危険な場所でもここがあれば安心さ。何かあってもお別れなんてないんだからね。」
「そうだな、この街に教祖がいて……本当に良かった。」
手に取ったティーカップの中で、奇妙に波打ち続ける紅茶を眺め、俺は静かにそう告げた。
宿に帰り、俺達はマナ達と合流した。
マナ達が集めてくれた大きな情報は2つ。
・新聞記者が教団内の話を誰かと交換し合っている所を目撃した事
・鉱山の管理者にも幹部が多いらしいという情報
「なるほど。そういうことか…。」
「サウール達は引き続き外部での情報収集に当たってくれ。」
「分かった。」
翌日俺達は早速行動に移した。
「まぁ、そうだったのかい。」
「はい。実は僕達お付き合いをしていて、将来もしものことがあっても一緒にいたいねと話し合ったんです。」
ラムダとリンが仲睦まじそうに微笑み合う。
「良い事だよ!本当にこの教団に入って良かったね。これからアンタ達は永遠に一緒だよ。」
「嬉しいです。」
そっとラムダの手を取るリン。
「所で、僕達はここにいるだけで永遠に一緒にいれるのでしょうか。何か特別な儀式等はないのでしょうか。」
「おっと、そうだったね。私の方から幹部のシュダイ様に話をしておいてあげるよ。近いうちに声掛けがあると思うから楽しみに待ってな。」
「ありがとうございます。」
遠目に見ていた俺にも伝わる温かい雰囲気に思わず俺までもが騙されそうになる。
俺の方が前世も合わせると随分と年上なのに彼等のように振る舞う自分が想像出来ず、恋愛経験の無さに情けなくなった。
いや、彼等も同じはずなのにな…本当に彼等の観察眼には目を見張るものがある。
「ルイ、お前はいないのか。大事な人。」
昨日仲良くしてくれた教団員のルーカスの手がパシッと肩に乗っかかってくる。
「残念ながら…。大事な人ならいたんですけどね。」
「そうか、それはどんな人だったんだ。」
「弟です。俺が不甲斐ないあまりに、守る事ができず小さい時に命を落としてしまいました。」
いつも後ろについてきていた、柔らかく元気な笑顔が頭に浮かんだ。
「そうか。」
俺の肩に触れている手がじんわりと温かくなったのは、気のせいでは無いと思う。
ここに居る人達はこの温度を忘れまいと一縷の光を求めた結果ここに辿り着いたのだろう。
あの笑顔が焼き付いて離れない。
……この場所に縋る理由なんて、誰にでもある。
拳をぎゅっと握り締め、救いの場であってほしいと僅かな望みを静かに飲み込んだ。
「新たな仲間の二人よ、こちらにおいでなさい。」
歩みを進める二人の姿をじっと見つめる。
そんな二人に温かい声を贈る皆の手のひらには眩い輝き。
それは、
「希望か、絶望か___。」




