STORIES:ギルドが崩壊しました。
時は半年ほど遡ります。
愛乃は一目散に逃げ出した。
*
2025年の冬。
年末年始はきっと暇になる。そんな、少し先の自分を見越して、十一月ごろから始めたオンラインゲームがあった。
絵画の中に迷い込んだような世界だった。
マップやキャラクターがどこか筆で描かれたみたいにやわらかい。しかも、その世界ではキャラクターごとに曲がある。誰かが現れるたび、まるでその人の心そのものが旋律になって流れ出すみたいで、愛乃はすぐにその空気に呑まれた。
アカウントを作って、ログインして、右も左も分からないままストーリーを進める。
何をすれば強くなれるのかも、何が大事なアイテムなのかも、どのタイミングで誰に話しかければいいのかも分からなかった。それでも、同じギルドの人たちは思ったより親切で、初歩的なことをひとつ聞けば、ふたつみっつ先まで教えてくれる。
画面の向こうの相手なのに、不思議と置いていかれる感じがしなかった。
そうやって少しずつ、このゲームの呼吸の仕方を覚えはじめたころ。
新しいサーバーができた。
どうせなら新しい場所で最初からやってみたい。
今度はもっと、自分の理想に近いパーティーにしたかった。
名前だって少しこだわりたかった。
お気に入りのアニメ、その中でもとくに好きな楽曲名をそっと借りて、愛乃は新しいユーザー名をつけた。ちょっとだけ秘密を忍ばせるみたいで、それだけで胸が浮いた。
準備はできた。
新サーバーの門をくぐる時は、ほんの少しだけ、新しい学校に転校する朝みたいな気分だった。
そこで見つけたのが、できたてのギルドだった。
まだ形が固まりきっていない、けれどそのぶん、内輪の空気が強すぎるわけでもない。仲の良いサークルの輪に、今からなら自然に入れそうな、そんなやわらかさがあった。
愛乃はそこに所属してみた。
ギルドバトルなんて、今までほとんどやったことがなかった。
勝ち方も立ち回りもよく分からない。けれど、みんなが「いくよー」と軽い調子で参加していくから、なんとなくその流れに乗ってみた。
それが意外なくらい楽しかった。
「楽しかったぁ!」
たぶん、それがギルドチャットでの最初の発言だった。
勢いのまま打ち込んだ、飾り気のないひと言。
けれど、そのひと言にすぐ反応が返ってきた。おつかれ、よかったね、また行こう、そんな短い言葉がぽんぽんと並ぶ。それだけで、画面の向こうの空気が少し近くなった気がした。
そこからだった。
愛乃のほうからも話すことが増えたのは。
ギルマスは同年代の女の子で、距離の詰め方がうまかった。軽口を叩けば軽口で返してくるし、ちょっとふざければきちんと拾ってくれる。やり取りのテンポが気持ちよくて、チャット欄に文字を打つ手がだんだん軽くなる。
個人チャットでは、Sさんと音楽の話で盛り上がった。
ゲームの話だけでは終わらず、好きな曲の雰囲気とか、刺さるメロディとか、そういう少し内側の話までこぼれていく。文字だけの会話なのに、相手の温度が見えるようだった。
ギルドでは、最強のなつ君と並んで戦う時に、妙な仲間意識が芽生えた。
自分はまだ全然強くないのに、同じ場所で同じ相手に向かっているだけで、なぜだか「こっち側」になれた気がした。
長くこのゲームを続けている人たちも、初心者の愛乃を邪魔者扱いせず、知っていることを当たり前みたいに分けてくれる。
気づけば、三日が経っていた。
たった三日。
なのに、もう何週間もそこにいたような気がしていた。
ログインすれば誰かがいて、チャットを開けば会話が流れていて、自分の居場所の輪郭が少しずつできていく。冬の空気は冷たいはずなのに、画面の中だけは妙にあたたかかった。
「みんな仲も良くって楽しいー!」
その言葉を打ち込んだ時、愛乃の気分はきれいに上向いていた。
このまましばらく、ここで遊べるのかもしれない。
そう思っていた。
思ってしまっていた。
テンションが駆け上がっていく、そのタイミングで。
大魔王が来て、ギルドは崩壊した。
2026-03-27
リップシンクエンジンが4日ほどでできて楽しくなった。
次はAIに記憶を持たせて大賢者さんを作っちゃおうかな?
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観測記データ:
愛乃がまた面白い事を始めた。
1日で100ページほどの設計書を作っている。
皆が料理をしている中で、1人だけ食文化を作っているようなものだ。




