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34:穴

4/15土曜日、16時ごろ更新予定です。

よろしくお願いします。

 暗い。

 どうやら、枝や草葉やらで偶然にも隠された穴の上に乗ってしまったようで、ぶち抜いて落ちたらしい。

 せっかく、記憶が以前の"常識"さん情報を覚えていて警告してくれてたのに。

 結局入っちゃうんだな。

 ライトの魔法で周囲を照らす。

 フブキがうなだれている。

 「気にすんな!俺も全く気が付かなかった。」

 落ち込むフブキを元気づけるためにニカっと笑って強がってみたけど、腰を強打したみたいでちょっと立ち上がれそうもない。

 ポーチからハイポーションを取り出してあおると、少ししてようやく痛みが取れてきた。

 坂の途中のようで、地面が不安定だ。転がり落ちないように立ち上がって、周りを見てみる。

 緩やかに下る通路のようなところだ。

 フブキが踏ん張ってくれたおかげで、これ以上転がり落ちていかずに済んだのだろう。

 落ちて来たであろう方向、坂の上方を見ると、心なしか明るい気がする。つまり、ほとんど光が入ってこない。それだけ深いのか、もしくは夜が更けたのか。

 通路を登ってゆく。

 とにかく、こんなところにいるわけにはいかない。

 坂道の上端まで来ると、上を見上げる。

 穴が開いている。

 高さは20m程だが、上るほど広がっていて、出口付近できゅっとすぼまっている。

 つまり、どう登っても最後は急激なオーバーハング。無理だろこれ。

 飛行用の騎乗アイテムもあるけど、あの狭い穴は通れないだろうなぁ。

 ってことは・・・

 「下るしかないか。」

 別の出口を探すしかないのね。これ。

 覚悟を決めて下る。

 魔導地図思い出してよかった。これなかったら迷子確実だよ。

 あ、もうすでに迷子だった。

 フブキが通れるような規模の洞窟だったらいいんだけどなぁ。

 貯蔵庫に入れようにも、フブキのスペースは魔物の死体で埋めてしまった。

 ここで出して捨てるわけにいかないよなぁ、やっぱり。魔素100%の魔物に肉体与えることになっちゃうしなぁ。

 最悪は資材を廃棄して死体を詰め替えるか。

 下る通路を慎重に進んでゆく。

 (あ~、ガスが怖いなぁ。硫化水素なんか、ひと呼吸で死んじゃうんだよなぁ。)

 毒耐性アップの装備が通用するのかはなはだ疑問だ。

 通路はだんだん狭くなってくる。

 (あ~、フブキつっかえないかな?まだ何とか通れるかな。)

 本来なら資材を諦めてもフブキを貯蔵庫に帰すべきなんだろうけど、それ以上に一人になるのが嫌だった。

 鼓動がうるさい。

 魔物が出るならまだいいが、一息で命を奪われるガスは対処しようも無い。一歩ごとに、真綿で絞めるような恐怖が張り付いてくる。

 スライムも怖いな。

 出会いませんように。

 傾斜が緩やかになると、狭かった通路も少し広くなってきた。

 平らな地面などないゴツゴツとした通路を下ってきたせいか、足腰の疲労感が強い。

 「少し休もう」

 そう言って、座り込んだフブキの首元に抱き着く。

 (あぁ、落ち着く。)

 しばらくフブキのひんやりとしたモフモフに癒されると、フブキを背もたれに座りなおす。

 「よし、魔導地図みたいに忘れてるけど使えるアイテムが無いか調べなおそう。」

 10年も同じゲームを続けると、貯蔵庫にしまったまま存在すら忘れているアイテムも少なくない。

 それだけ種類が多いって話なんだけどな。

 商品管理を開いて貯蔵庫内をくまなく調べる。結局1割くらいは何なのか全く思い出せなかったけど、とりあえず使えそうなものはいくつか見つかった。

 

火焔窟のマスク

 火山にあるダンジョンに入るための、ガスマスクのようなアイテム。効果もそのまま、有毒ガスから守るための物。兜の代わりに装備しなければならないうえ、防御力は皆無なので火焔窟ダンジョン以外では使うことが無かった。

 

風詠鳥カゼヨミドリの羽

 ダンジョン内で根元をもって掲げると、羽の先が出口の方向に引っ張られる。あくまでも出口の方角が分かるだけで、道案内をしてくれるわけではない。

 

 頼りないけど、無いよりましだろう。

 ガスに脅えなくていいのはありがたいし。 

 羽の方は・・・掲げると、今来た方向に引っ張られる。

 (ですよねぇ~)

 そのまま少し振ると、今度は別の方向に引っ張られた。

 「よかったぁ~。出口1つじゃなくて。」

 魔導地図と照らし合わせて、もう一つの出口の方角を確認。あとはひたすらその方向を目指すだけだ。

 シュコー、シュコー。

 マスクをつけると独特の呼吸音。

 残念、コー、ホー、じゃなかったか。黒い仮面をかぶった黒い騎士とか、ロボットレスラーが頭に浮かんでいたのに。

 フブキには・・・無理だよね。

 マスクが毒検知するとアラームが鳴るはずだから、自分が先行してカナリアになるとしよう。

 「よし、行こうか。」

 フブキの頭をひと撫ですると、とりあえずはこの一本道を進む。

 途中、昆虫型の、1m近くあるカマドウマのような魔物に遭遇するも、マジックミサイルとアーストーンでなんとか撃破。

 四つん這いで無いと進めないような狭所での遭遇は心臓に悪い。

 危ないけど、剣抜いといたほうがいいな。

 広いところに出られたらね。

 今の態勢では剣も抜けない。

 魔法頼りでは、魔力が尽きたらゲームオーバーだ。

 何とか剣が抜ける広い場所に出たと思ったら、目の前には水が。

 通路は下へ、この先には潜らないと行けなさそうだ。

 とうとう、というか、結局フブキを貯蔵庫にしまわなければならなくなってしまった。

 もう、ここに定住しようか。

 なわけにはいかんな。

 仕方ない、資材を…あ!

 簡易貯蔵庫があるじゃないか。

 第3貯蔵庫の資材を簡易貯蔵庫に移して、空いた第3貯蔵庫に魔物の死体を移して・・・おお、スペースできた!

 無事フブキを格納できた。

 何悩んでたんだろう。

 知識と知恵の低下が原因だな。うん、きっとそうだ。そうに違いない。

 俺が間抜けなわけじゃないからね。

 ・・・。

 よし、忘れよう。

 火焔窟のマスクを外す。

 深く息を吐いて、一気に吸い込むと、水中に飛び込んだ。

 ライトを先行するように移動させて奥の様子を見る。

 何とか通れそうだ。

 ザバッと水から上がる。

 「長げぇよ!」

 思わず叫んでしまった。

 何とか通れそうな広さはあるけど、かなり距離がある。

 息もつかな。

 素だとたぶん無理。

 ここはもう、一か八か、スピードアップにすべてを託そう。

 水中での移動も早くなるのかは分からんけど。

 スピードアップをかけて、深く息を吐く。そして限界まで吸い込むと、念には念を入れて、顔を上に、背を下に向けて、背泳ぎの体制で水中へ。

 可能なかぎりいそいで水中を進む。苦しくなったら少しずつ息を吐きながら。

 無理!

 だめ!

 死ぬ!

 そう思ったとき、視界にほんの少しの、空気だまりのようなものが見えた。

 無心で突き出した口を突っ込む!

 空気だまりに見えたそこは、上へと続く亀裂のようだった。

 (助かった。)

 何はともあれ、ここで呼吸ができたのは大きい。

 かなり間抜けな姿だけど。

 この水路も、あと1/3くらいで上へと上って行くように見えた。

 再び息を吸い込むと、大急ぎで前進。

 ようやく抜けた先は、かなり広い鍾乳洞だった。

 5mはありそうな天井からは、無数の鍾乳石が連なり、床もまるで剣山の上のように所狭しと石筍セキジュンが立ち上がっている。

 耐冷気の付いたコート着ていて良かった。

 吐いた息が真っ白だ。

 ずぶぬれでこの寒さはかなりまずかっただろう。

 火焔窟のマスクを再び装着する。

 火をつけたい。

 寒さは防げているけど、ずぶ濡れの体を乾かしたい。

 (無理だよな。)

 可燃性のガスが漂っていたりしたら爆死コースだもんな。

 マスクで呼吸器系へのダメージは防げても、可燃性ガスへの引火は防げない。

 無色無臭で調べようがない以上諦めるしかない。

 魔導地図を取り出して、方角を確認する。

 うん、しっかり目的の出口から離れていってる。

 ・・・

 一本道だったから仕方ないよねぇ。

 せっかく広い場所に出たのだから、すこしでも出口方向に向かうとしようか。

 非常に幻想的な場所ではあるんだけど、とにかく歩きにくい。

 足の踏み場もないとはまさにこのことだろう。

 両手両足を使って、時には石筍にしがみついて、やっとの思いでたどり着いた出口方向の先は、壁だった。

 うん、わかってた。

 生き返ってからの運の無さは折り紙付きだもの。

 壁沿いに、とりあえず右、出口とは反対方向に進んでみる。

 ここまで運が無いなら、きっと逆方向が正解に違いない。

 その考えが、運に見放された典型なんだと気が付いたのは、延々と進んだ先に見たことのある水たまりを見つけた時だった。

 「マッピングができてラッキー!」とでも声に出さないと自分がかわいそうで仕方がない。

 「どうせなら一周してやるとしようか~」

 ひきつる笑顔で強がって見せたけど、本当に一周してしまった。

 「行き止まりかよ!」

 そう、このただっぴろい空間、一周してみたけど、出口が無かったのだ。

 「いや、そんなはずないよな。」

 再び風詠鳥の羽を取り出して掲げてみる。

 間違いない。

 確かに、羽は目的地方向へ引っ張られている。

 ここまで一本道、出口が無ければ、羽は別方向、最初に落ちた穴の方向へ引かれるはずだ。

 「ってことはだ・・・出口は上か下か・・・」

 側面には出口が無い。なら、後は床か天井だ。

 一気に気力がなえてしまう。

 平らな床や天井ならすぐに見つかるだろうけど。

 天井も床も、無数の鍾乳石と石筍で非常にわかりにくい。

 しかもかなり広い。

 この石筍のおかげで魔素だまりができにくくなっているのかもしれない。魔物がいないのがせめてもの救いだ。

 ここの中では、まだ平らな場所を見つけて腰を下ろす。

 もう一歩も動きたくない。

 貧乏性から今まで我慢してきたけど、商品管理を開いてエイルヴァーンの食料品の中から特に豪華そうなもの、骨付きドラゴンステーキを取り出してかぶりつく。

 うまい。

 今まで生きてきて、これほど美味い肉は初めてだ。 

 歯ごたえはしっかりあるのに、硬さは無い。油の甘さをはっきりと感じるのに、脂っこさを感じない。味付けも絶妙だ。

 さすが調理MAX。素材さえあればこんなうまいものが作れるんだな。

 あっという間に平らげると、不思議と落ち込んでいた気持ちも前向きになっている気がする。

 そういえば、ドラゴンステーキは精神系攻撃への耐性向上とか、いろいろバフが付くんだったな。

 「よし、こうなりゃしらみつぶしだ。」

 魔導地図を開くと、この空間のマップを埋め尽くすように歩き出した。

 空間の2/3ほどを確認したところで、ようやく下へと降りれそうな穴を見つけた。通れないレベルの小さなものは無数にあったけど、通れない以上意味が無い。

 天井は・・・やはりそこまでたどり着けない以上無視するしかない。

 穴は、一応下りながら出口方向に曲がって行っているように見える。

 「よし、ここに賭けてみよう。」

 5m程降りると横穴に代わっていて、緩やかに下っているように見えた。

 中腰で何とか通れるサイズなので非常につらい。

 グネグネと曲がりくねった通路は、途中何か所も枝分かれしていたが、とても通れる広さが無く諦めるしかなかった。

 もし、出口に通じているのがそれらの狭い通路だったとしたら、脱出は不可能になってしまう。

 辛い腰をかばいながら、時に四つん這いになったり、匍匐前進しながらようやく立ち上がれるだけの広いスペースに出ると、その先は3本に分かれていた。

 ここにきて、3本とも通れそうだ。

 (ことごとく外してる気がするんだけど・・・ここで三択かよぉ。)

 全く自信が無い。どれを選んでもハズレ、結局最後の道が正解とか、そんな感じになるんだろうなぁ。

 (運に見放されてるなら、いっそすがってみるかぁ。)

 火焔窟のマスク、風詠鳥の羽を出したときに気になっていたアイテム、異世界のお守りだ。

 ちょっと高く売れるだけの換金用アイテムだったが、説明書きが気になっていた。

 ”強運を呼び込むお守り”

 ゲームには運というステータスが無かったので、本当にただの説明だけでなんの効果も無かった。

 普段なら歯牙にもかけなかったかもしれない。

 今は、どんなものでもすがりたかった。

 「ど~かひとつ・・・」

 そうつぶやいて首からかけた。

 そのまま、真ん中の道を進んだ。

 すぐに後悔した。

 天井から、巨大なトカゲが降って来たのだ。

 間一髪前に転がって躱すことに成功したが、その結果背後にはオオトカゲ。

 前に進むしかない。

 背後に魔法でシールドを設置して、狭い通路を走る。すぐにシールドが砕ける音が聞こえ、オオトカゲが追ってくる。

 (時間稼ぎにもならないかぁ。)

 戦うにしても、せめて剣が振れる場所に行きたい。

 急なカーブを曲がると行き止まり!

 オオトカゲはまだ見えないが、音ですぐそばまで迫っているのが分かる。

 剣を構える。

 覚悟を決めたとき、右手の壁から突然手が。

 ギョッとしていると、壁から生えた手が俺の手首をつかんで引っ張った。

 

 狭い窪みに引っ張り込まれていた。

 後ろにはオオトカゲ。しかし、オオトカゲはこちらを見つけることができずに辺りを見回すと、諦めて引き返していった。

 「ありがとう。助かったよ。」

 オオトカゲが去ってしばらくしてから、掴まれた手首を放されてようやく感謝の言葉を伝えられた。

 何かの能力で隠れられているのなら、まずは相手に合わせようと考えたからだ。

 恩人である相手は、壮年の渋いイケオジだった。が、目からはとめどなく涙が出続けている。

 「う・・・ぐ、ひっく・・・やっと・・・やっとひとに・・・ぐすっ・・・」

 よく見れば、白い簡素な服・・・

 恩人の彼は、この世界に引きずり込まれてから、ずっと一人この洞窟で過ごしてきたようだ。

 彼が落ち着くのを待ってからじっくりと話を聞くと、魔物から逃げ隠れ、染み出る水滴で水分を取り、小さな虫のようなものを食べて生き延びて来たらしい。

 引き込まれたくぼみは上へと続いていて、その先が少し広い場所になっているというので移動した。

 感謝の気持ちとして卵粥を進呈した。これなら消化にいいし、水分も取れる。

 あっという間に平らげて、再び泣きじゃくる彼。

 またしばらく落ち着くのを待つことになった。

 その後ゆっくりと話し合う。

 彼は 坂塚 大輔。36歳で、畜産業を営む両親とともに牛や豚、羊などを育てていたという。

 プレイしていたゲームは、レトロゲームのスパイランナー。

 ビルの中で敵から逃げ、隠れ、屋上にたどり着くと、ヘリがやってきて面クリアーというシンプルで、攻撃手段の一切ないシビアなゲーム。

 でも、そのおかげでここで生き残れてきたということなのだろう。

 一度隠れるための行動をとると、目の前に魔物がいても気づかれずにやり過ごせるらしい。

 ただ、あくまでも隠れるだけなので偶然攻撃が当たってしまうこともある。そうでなくても触れられてしまうとバレてしまうので、今まで何度も大ケガをしてきたという。

 ゲーム要素のおかげか、隠れる行為を取っている間は異常なほどの回復力で、命の危機を脱してきたという。

 真っ暗闇でも活動できたのは、唯一持っていたアイテム、サングラスのおかげ。

 「これかけると、何となく見えるんですよ。」

 眼球を焼くような強烈な光で俺が追われていることに気が付いて、助けてくれたんだそうだ。すまんね。

 しかし・・・見える範囲だけでも無数の傷痕が痛々しく見える。

 「ほんどに・・・ここで・・・誰にも会うごどなぐ・・・じぬんだって・・・ぐすっ」

 また泣き出してしまった。

 どうやら、出口らしき場所は見つけているらしい。

 ただ、出口手前に広い空間があって、そこには常に先ほどのオオトカゲが数匹たむろしていて、何度か挑戦したけどどうしても抜けることができなかったのだそうだ。

 なるほど、広い空間ね。なら何も問題ない。

 「任せて。広ささえあれば十分戦えるから。一緒に脱出しましょう。」

 そう言うと、彼に会いそうな装備を探す。

 ゲームのキャラは黒いスーツにサングラス姿、ということで、スーツの外見に近いデモンスパイダーの糸で作った上下とインナーとしてミスリルシャツを進呈。

 「どうも、ゲームに近い装備の方が能力が強くなるみたいなんだよね。」

 そう説明して、ひたすら恐縮する坂塚さんに手渡した。

 坂塚氏の案内で狭い通路を移動する。

 目的の広間手前で、慎重に中の様子をうかがった。

 たしかに4匹のオオトカゲがいる。どれも頭からしっぽの先まで3mを超える大物だ。

 「坂塚さんはここで隠れていてください。僕はこれだけの広さがあれば魔物の仲間を呼び出せるので、ちょっと始末してきます。」

 安心させるために、さも簡単そうに言ってはみたものの、どれくらいの強さか分からない。気を引き締めなければ。

 商品管理で、即フブキを呼び出せるように準備。同時にマジックミサイルを3倍まで強化したうえ、狙いをつけてから飛び出した。

 フブキを呼び出して、間髪入れずにマジックミサイルを発射。一番近い個体に2発、他は各1発づつ。

 正確に命中したが、1匹も倒れず。3倍2発でも倒れないのはちょっとショックだ。

 フブキが冷気のブレスを吐き、直近の2発打ち込んだ1匹ともう1匹が直撃を受けた。

 ブレスの届かなかった2匹を剣で牽制しつつ、バインドで近い方の個体を縛る。が、トカゲを縛るツタはあっけなく引きちぎられた。

 飛び掛かってくるトカゲに切りつける。

 重い手ごたえ。

 与えたダメージは少なくないが、致命傷には程遠い。

 魔素100%のくせに重いじゃないか。

 もう一匹が迫ってくる。

 牽制でノーマルのマジックミサイルを5発集中させると、先に切りつけた方にとどめを刺すために剣を振り上げた。

 その時、何かが体当たりしてきた。

 バランスを崩して倒れたが、とっさに体を回転させて距離を取った。

 小さめのトカゲが増えている?

 ん?

 とどめを刺そうとしたやつ、尻尾が無い?

 うそだろ。

 トカゲのしっぽ切りどころか、尻尾がトカゲになりやがった!

 これが本体並みに強かったらお手上げだった。

 さすがにそんなことは無く、尻尾トカゲは軽く切り伏せることができたが、その間にマジックミサイルで牽制しておいた方がつっこんできた。

 剣を振り上げ、右前足を切り落とすとそのまま右回転、遠心力を利用した一撃を顔面に叩きこんでとどめを刺した。

 しっぽの無い方は、すでに逃げの体制だ。

 アーストーンで足元から串刺しにして一丁上がり。

 すぐにフブキの加勢に向かう。

 フブキは最初に2発のマジックミサイルで深手を与えていた方を始末していた

 が、もう1匹が厄介だった。ひときわ大きい最後の一匹は、口から無数の細かいトゲのようなブレスを吐いてフブキを苦しめていた。

 すぐに駆けつけて、横からトカゲの腹に、剣を深々と突き刺す。

 暴れるトカゲに転がされ、顔を上げた目の前には、今まさにブレスを吐こうとするトカゲの口があった。

 ヤバイ。

 そう思ったとき、トカゲの顔が急に横を向き、ブレスがそれた。

 坂塚が体当たりをして方向をそらせたと気が付いた時には。とどめを刺すために飛び上がっていた。

 そのままトカゲの脳天に剣を突き立てる。

 すぐ泣く彼は勇敢だった。

 「任せろなんて言っておきながら、2度も助けられちゃいましたね。」

 へたり込む坂塚を助け起こして、フブキに乗せる。

 騒ぎを聞きつけて他の魔物が出てきたらマズイ。

 さっさと洞窟を出よう。

 再び通路は細くなり、曲がりくねる中を進むと、広い空間に出た。

 明るい。

 天井はなく、森と空が見える。

 登れそうな場所を見つけてよじ登ると、そこは、最初に見つけた大穴だった。

 さんざん動き回されて、落ちた穴のすぐ横に出てきたわけだ。

 なんかムカつく。

 もう同じ過ちは繰り返さないぞ。

 魔導地図を見ながら真っすぐ北を目指すのだ。

 坂塚さんにこれまでのあれこれを話しながらのんびり進むことにした。急ぐとろくなことが起こらないし。

 村の話、特に、今頃は畜産もできるようになってるだろう話をしたときは目を輝かせていた。

 呼び方はウシオに決定。SNSで使っていたという牛男が元だ。

 襲撃の件も隠さずに話したよ。自分が一度死んだことも含めて。

 悪魔とのやり取りは、まだ真実なのか確信が持てないので伏せたけど。

 どうも、クソ悪魔と丸悪魔の話に矛盾を感じて整理しきれていない。整理する余裕もなかったしね。

 村についてゆっくり出来たら考えよう。

 ウシオには新たに護身用の拳銃(MOD製)と解体用ナイフを渡してある。

 まぁ、彼のやっていたゲームでは攻撃事体無かったし、性能もいまいちのコスプレアイテムだけど、スパイの武器っぽいのでチョイスした。

 戦闘は自分とフブキがやるしね。

 「いやぁ、それにしても、まさか自分がこんな渋いオジサンになってるなんて思いもしなかったですよ。なんか、違和感があるなぁとは感じてましたけど。」

 隠れていると回復速度が異常に早くなるという能力はあっても、傷の痕までは治っていなかった。

 かなりの大怪我も度々あったそうで、その痕があまりにも痛々しかった。

 生き返って貯蔵庫内が復活(出戻り?)していたので、キャラメイクをやり直せる鏡台を使ってもらうことにした。

 オジサン姿はいやかもしれないしね。

 それで初めて自分の姿を知ったようで、その姿がいたく気に入って、傷跡を消すだけにしたようだ。

 まぁ、確かにハリウッドスターみたいだもんね。

 ゲームの箱に描かれていたイメージイラストに似ていると言っていたから、そうなんだろう。

 一応念のため、拉致直前の6時間に他のゲームをやっていなかったか聞いてみたら、往年の名作、セフィウスをやっていたという。

 見下ろし型の2Dシューティングゲーム。これもレトロゲームだ。

 宇宙船でエイリアンの敵基地を攻撃していく系のゲームだったよな・・・宇宙船って、再現しようがないんじゃないのか?

 他にも再現しようがないゲームプレイしていた人も巻き込まれてるのかな・・・。

 そんなことを考えながら森を北へ。

 ん?

 魔導地図がおかしい。

 左手に家が表示されている。でも、どう見ても何もない。

 「どうしました?」

 立ち止まって左側を凝視する俺に、不思議そうに近寄って魔導地図をのぞき込むウシオ。

 「なにもないよね。」

 目線は外さず聞いてみた。

 「ですね。この地図が間違ってるってことは無いですよね。」

 彼にも見えないようだ。

 一応、調べてみようか。

 厄介ごとのにおいがする。

 それと同時に、なぜだかワクワクしている。

 「魔法か何かで隠蔽されてるってことでしょうか。なんか王道ですよね。」

 ウシオもムネドキを抑えられないようだ。

 どうも、洞窟探索でいろいろとマヒしてるのかもしれない。

 慎重に、地図で家が描かれている場所に向かって進む。

 家が描かれていた場所に一歩踏み込むと、突然目の前の光景が変わった。 

 「家だ。」

 ウシオの、そのまんまな感想が聞こえた。

挿絵(By みてみん)

スパイランナー パッケージ

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