49話 幕間EX
注意!! この話は本編と全く関係ありません。ある意味番外編です。
お供をテッサに変えて異世界旅行記企画おためし先行版のようなもの。
「ふおおおっ!」
銅色の冒険者証を天に掲げて興奮する女性に、奇異な視線が幾つも向けられていた。当人はそんな視線など眼中にないといった有り様で小躍りして喜びを表現している。
「これが! 夢にまで! 見た! ランク制! 冒険者証!」
実際に花が飛んでいるところを見た者たちは、目を擦って2度見して頬を抓って自分の視界を疑う。
「あのう……、お連れさまは大丈夫ですか?」
新規冒険者の登録を担当する受付嬢は引きつった笑顔で目の前の小柄な少女に尋ねた。
「問題ない彼女の機能は正常に稼働している」
全く答えになってない返答に、この道ウン年の受付嬢は肩を落とした。
それでいて次の瞬間には職務に忠実な笑顔に切り替えて登録の続きを続行する。
「お2人でパーティーを組むということですが、パーティー名はお決まりですか? 無ければまた後日ということでもかまいませんが」
未だにルンルン気分で音符を飛ばす背後の女性だという小柄な少女は、無表情のまま「問題ない」と告げた。
「パーティー名は“ケーナ様と愉快な下僕共”でお願いする」
「おぉいっ!」
背後から振り下ろされたハリセンが、スパーンと小気味イイ音を立ててテッサの頭を揺らした。
◆
ツフト地方のシュヴァイン冒険者ギルド支部に奇妙な女性2人組が登録に訪れたのは、朝の混雑が一段落しての事だった。
片方はケーナと名乗る女性。
薄緑色の上着に深緑のズボン。装備は革の胸当てと白いマント。腰に下げていたのは短杖であるところから、術系統を得意とするのだろう。肩で切り揃えられた金髪から覗く耳はやや尖っていたが、エルフの者はこの街でも珍しくない。
辺境から冒険者になるため出て来たと言っていたが、動作の端々に精練さが窺える。冒険譚に憧れた貴族の子女といった方がしっくりくる。
更に奇妙なのはもう片方の小柄な少女である。
テッサと名乗った少女は背中まで届くくらいの黒髪に、やたらとひらひらする黒い服装。いわゆるセーラー服なのだが、此方の世界にそのような物はない。見た目が12〜4歳くらいの低い身長でなければ、スカートから伸びる白い素足に欲情する者もいただろう。腰に提げていたのは使い込まれた鉈が1本。
双方共自己申告では17歳を越えているとのことだ。
冒険者の登録には15歳以上という条件があるため、受付嬢がテッサの年齢を疑ったのは当然の対応だろう。それに対して彼女が「じゅう・なな・さい・です」と力強く言った後、受付嬢は何事も無かったかのように手続きを進めていた。
一連の流れに誰も疑念を挟まない。
そうこうしているうちに冒険者証を受け取った片割れがあの行動である。
併設している酒場から好奇心でチラ見していた連中も、ヘンなものを見る目になるのは当然だ。
◆
「さて、無事にFランク冒険者として登録された訳なので、早速依頼を探そう」
ギルド酒場より飛んでくる視線をまるっと無視して、ケーナは依頼表の貼られている壁の前へ立つ。
依頼は一辺10センチ四方の紙で、依頼する仕事と依頼主と報酬が書かれている。紙の一番下にはギルドが難易度を振り分けたA〜Fの判子が押してある。
自分のランクに合った依頼表を受付に持って行けば受注されたことになる。
ケーナたちはFなので、受けられる依頼はFとEまでだ。
「ざーっと見たけど、やっぱり受けられそうなのは薬草採取か街中の仕事ね」
その声色には依頼の質がしょぼいという残念さはなく、期待に弾んだ楽しそうな感じがあふれている。
「ケーナ様先程から不躾な視線を多数感じます不敬罪に該当するとして殺してきて宜しいですか?」
「ほっときなさい」
「……了解しました」
傍に控える従者が途轍もない物騒なことを言ってきた。もちろん却下である。
オプスが不幸な事故により傍仕えを一時離れることになった。その穴を埋めるべくテッサが控えることになったのはいいとして、これがまたオプス以上に扱いづらいのである。
まず欠点として、殆どのことに無関心なところが挙げられる。
自分に直接の被害が無い限り対抗処置を取らないのだ。例えば街が魔物に襲われても、自分が攻撃されなければ人々が殺されていくのを黙って見ているだけだろう。
更にもう1つの欠点として、ケーナが絡むと先程のように対応が過激になるところだ。街に来る前に出会った盗賊にごんぶとビームをぶっ放したり。街中でスリが此方に手を伸ばした瞬間、超振動で骨と内蔵を粉々に砕いたりと、手加減も躊躇もない。
あとやたらに科学兵器をバラ撒くのも問題だろう。ここに至るまでにミサイルやらビームやら火炎放射器が敵に対して行使され、ほとんどが骨も残らず蒸発した。
見かねたケーナが緊急時以外の使用禁止を命令しなければ、熱核弾頭を持ち出して地形が変わるところだったという。
利点は物質変換により色々と作り出せる事くらいだろう。
腰に提げている鉈もその成果で、鉄の鎧を切り裂くわ、投げたら戻ってくるわ、当たったら爆発するわで一種の万能兵器である。
オプスもキーも世間慣れしてない時は似たような感じだったらしいので、これから色々と世情の波に慣らしていくしかないと思われる。やや頭の痛いところだが。
それはさておきケーナは依頼表の前であれも楽しそう、これも面白そうと目移りしている。そこへ「これはどうでしょう?」とテッサが1つの紙を指し示した。
「ええと? 古い砦に住み着いたモンスターの討伐? Bランクの依頼じゃないのよ」
「実にケーナ様の実力に合ったクエストかと」
呆れて呟くケーナに腕組みをして当然だとばかりに頷くテッサ。聞き耳を立てていた酒場の方で冒険者たちが大爆笑した。
「しょっ、初心者の嬢ちゃんたちがBランクだとよ!」
「開いた口が塞がらねえぜ! ハハハハッ!」
「止めとけ止めとけ。正直砦に辿り着く前に魔物の餌になっちまうのが関の山だぜ!」
「身の丈に合った依頼をお進めするぜ! 子守とかな!」
親切な忠告なのか馬鹿にされているのか判断が別れる野次である。
笑い声が半数を占めるので後者のはずだ。テッサは感情を伴わない目で彼等を眺めている。ケーナは「これもテンプレかな?」と楽しそうだ。
「面白そうな話してんじゃねえか。オレも混ぜろ!」
そこへ冒険者たちの野次に野太い声が被さった。
途端に酒場からの野次が止み、冒険者たちの視線がギルドの入り口に集中する。
振り返ったケーナが見たのは、身長が2メートルくらいで筋肉の固まりみたいな男がニヒルな笑みを浮かべていた。太い革のベルトを胸の前で交差させただけの鎧とショルダーガード。厚手のズボンは所々破けたり、擦り切れたりしている。背丈と同じくらいの長さの大剣を背負い、腰にはメイスをぶら下げていた。
目は飢えた狼みたいにギラついていて、顔中名誉の負傷みたいに傷跡だらけ。とどのつまりはハゲである。
「なんだ山賊かぁ」
「おいぃっ!?」
第一印象でそう決めつけたケーナに、山賊の頭みたいな男は大股でズカズカと近寄り、剣ダコの目立つ太い指を突き付けた。
「今なんつったええ?」
「山賊」
ビキリと額に青筋が浮かび、歯をギリギリと噛み締めた顔には凄みが窺える。
しかしケーナには殺気も伴わない脅しに怯える理由はない。
同時に奇妙な雰囲気を感じていた。
例えば酒場でこちらの様子を固唾を呑んで見守っている冒険者たちの様子だとか。普通ああいった輩はニヤニヤ笑ってたり、どっちが勝つか掛けていたり、「○○さんに生意気な口を聞いて〜云々」などとヒソヒソ話をしてたりするのだと思っていたが、ソレはないようだ。
「って聞いてんのかっテメェッ!!」
「あーはいはい」
唾を飛ばして激昂する相手より、テッサが鉈に手を伸ばそうとする方が恐ろしい。
静かにテッサを宥めていたケーナに業を煮やしたのか、山賊の男は最後通告をケーナに突き付けた。
「もう我慢ならねえ! テメェラ裏の訓練所までツラ貸せや!」
予期せぬ単語にケーナはずっこけた。
「なんだ? まさか逃げるとは言わねえだろうな!」
「い、いえ、それはないんですけど」
てっきり表へ連れ出されると思っていたので、行き先が訓練所とは拍子抜けだ。
冒険者たちも「大丈夫かよ」とか「いきなり潰れたりしないだろうな」とか不穏なことを呟きながら、ぞろぞろと訓練所の方へ移動していく。
「どうかしましたかケーナ様?」
(何トイイマスカ。テンプレノヨウナ通過イベントデハナク、意図シテヤッテイル感ジデハアリマスネ)
「……みたいね。ぶっ飛ばしてから、詳しい話を聞かせてもらおうじゃないの」
憶測としてはキーの言い分が正解に近いように思える。
見た感じでは山賊男はそれなりの実力を持ってそうだが、それでも今のケーナが苦戦するとは思わない。
「私が殺りましょうか?」
「肉片も残らなそうだから止めて」
鉈の柄に触れながら矢面に立とうとするテッサには、なるべく決闘などはやらせないようにしようとケーナは思った。
◆
「どわああああっ!! な、なんだそりゃあああっ!!?!」
訓練所は屋内だった。それほど広くもないし狭くもない。
バスケットのコートが2つ入るくらいだろうか。
その一角で向かい合ったケーナと山賊男は、冒険者の1人を審判役にして決闘を開始した。
山賊男が背中から大剣を引き抜くと同時にケーナは腕を横に振るう。
その動作で行使された術に見物人からどよめきが上がった。ケーナの頭上に50本程のマジックアローが出現したからだ。
腰に提げた短杖も使わず、詠唱も唱えずに乳白色の矢を大量に出現させたケーナに対して、見物人の一部から呻き声が漏れる。魔術を専門とする者たちは、彼女の魔力の強大さと制御能力の正確さに目を剥いていた。
たまったものじゃないのは、それを向けられている方だ。
一発一発がどれほどの威力か分からないが、全弾まともに喰らって命があるとは到底思えない。唾を飛ばして己の武器で矢の大軍を指した山賊男の焦る叫びに、ケーナはニンマリと笑みを返す。
「大丈夫! 当たっても死ぬことはないから。これただのスタンアローだし!」
『『『スタンアロー?』』』
「そう! 数々の生けに……、もとい犠牲し……、もとい! 数年の歳月を経て完成したこのスタンアロー! 殺傷能力の全てを排除し、なんとダメージゼロ! 例え数百発を喰らっても痺れるだけで心肺機能に異常を起こすこともなく!」
突っ込みどころ満載の不穏な単語が混じっている説明を聞きながら、山賊男はだらだらと滝のような冷や汗を流していた。
危険を感じたのか周囲にいる見物人も、彼からゆっくりと距離を取る始末である。
「唯一の欠点は一発に付き、タンスの角に小指をぶつけるような痛みを感じることだけど。まあ、一瞬だから平気よね!」
全然平気じゃねえ!
冒険者たちの心はその瞬間だけ1つになった。
50回もタンスの角に小指をぶつける痛みを味わう攻撃なんてまっぴらごめんである。
「おいぃ! ちょっと待てぇい嬢ちゃん! 分かった! 分かったからまずは話し合いっ」
「GO!」
自分の不利を悟った山賊男が降伏の白旗を上げようとしたが、一足遅かった。
ズドドドドドドドッ!!!! とバルカンファランクスをぶっ放したような轟音と共にスタンアローが連続で山賊男に殺到した。ほぼ10秒足らずで撃ち尽くされた後には標的となった男が地面に倒れ伏し、びくぴくと震えるだけである。
「なんであんな音が出るのかしら?」
撃った本人が術式をチェックしながら首を傾げるのを見て、見物人たちは山賊男に手を合わせた。
◆
「成る程やはり」
ボロボロになった山賊男は10分ぐらいで動けるようになった。
フラフラになりながらケーナに向かってのたまったのは、「合格だぜ嬢ちゃん!」という発言である。
主従揃って首を傾げたところに受付嬢から説明がなされた。
今の因縁の付け方から始まり、決闘に持って行ってから終了するまでの過程がギルド入会テストを兼ねていたと。
違和感しかなかったと感じていたテッサは合点がいったように頷き、ケーナはスタンアローを選択して良かったと胸を撫で下ろした。その様子を見ていた冒険者たちは、スタンアロー以外だったら何が飛んできたのだろうと頬を引きつらせていた。
「ギルドマスター!?」
「おうよ」
ケーナに決闘をふっかけてきた山賊男は、自身をギルドマスターだと名乗った。
「ブローラーだ。よろしくな!」
握手に返すと凶悪面のギルドマスターはニカッと笑う。
「フローラさんですか」
「ブ・ロ・ー・ラ・ーだっつってんだろう!」
握った手に力を入れてくるが、ステータスの地力が違う。
ケーナがマジで力を込めると、あっさりとギブアップを訴えてきた。
「おーいてぇ。嬢ちゃんどんな鍛え方してんだよ……」
「さあ」
ちょっと離れた所では冒険者たちにおっかなびっくりで話し掛けられているテッサがいる。
事情を打ち明けられた後で宴席を設けられたのだが、その場で「ケーナ様に不埒な真似をした奴は叩き切る」と啖呵を切ったことで恐れられているようだ。鉈でテーブルを真っ二つにしたのも効いているみたいだ。
修復魔法で直したら目を丸くしていたのがケーナ的にはツボだった。
「しっかし、本当にEランクのままでいいのか? お前さんたちならすぐにでもBランクにしてやれるぜ」
残念そうなブローラーとは対称的にケーナは不満そうに口を尖らせた。
「折角ランク制を楽しもうっていうのに興醒めするようなことは止めてよね。真面目に依頼をこなせばランクなんてすぐ上がるんでしょう?」
「まあ、そりゃそうなんだがなあ……。不都合があればオレに言ってくれよ。便宜は図ってやるからよう」
「ギルドマスターが個人を優遇するのはどうなんですかねえ」
それも悪くないけどと思いながら、ケーナは果実酒の注がれた杯をブローラーの持つエール杯へと軽くぶつけるのだった。
◎異世界
リアデイルの世界ではない。また別のご都合主義ファンタジー世界。
リアデイルだったらそっちに投稿するし、察して。
◎ツフト地方シュヴァイン
にわかどいつご
◎オプス不幸な事故
死んでません。キーと同じく胸の中で療養中、そこかわれ。
◎テッサ
ルビがめんどくさいだけ
◎番外編
これ以上ケーナ主人公シリーズ続けても二番煎じになるだけじゃないかなあ……。
◎構想を練ってこんなものだと話したところ、ちょっと書いてみてと言われました。
姉貴の命令は絶対です……しくしく。




