002[ヒューマンエラーの有る毎日]
[ヒューマンエラーの有る毎日]
「蝉が鳴いてる…もう直ぐ、夏休みだなぁ~バイトのシフト
どれくらいの頻度で入れて貰おうか?」
私が物思いに耽っていると『ギンちゃん』と呼ぶ声が、背後から聞こえて来る
私が振り返ると『何で教室に居ないんだよ』と
「迎えに行ったのに教室に居なかった」と怒る、待ち合わせの相手の姿がある
私は「教室に行ったって事は、性別バレたか?」と
自分が男だと、一度も口にした事は無いけれども…
ちょっと「嘘吐き」呼ばわりされる可能性を考慮して、その覚悟をしつつ
『待ち合わせは「食堂」って、言わなかったっけ?』と
責める様な口調で反論したのだが・・・
私の言葉に対して、子供の様に不貞腐れた御様子の彼は
『ギンちゃんのプライベートが知りたかったんだもん』と言う
何故だか、何か…彼の反応は、思ってたのとは違う反応で
私的に、彼から肩透かしを食らった様な気分になった。
「知りたかったんだもんって…つぅ~かそもそも
クラスでの姿ってのは、プライベートと言って良いモノなのか?」
私の脳裏に幾つも疑問が過ぎる
だが取敢えず、面倒なので敢えて突っ込みを入れない事にする
彼は御機嫌斜めに言葉を続ける
『ギンちゃんは何も教えてくれないじゃないか…
今日、渡り廊下で見掛けなかったらクラスだって分かんないままだったし
フルネームだって、今日初めて知って驚いたんだからな!』
私は会話の雲行きに「そろそろ来るか?」と思ったのだけど
『間違ってるなら最初に言ってくれよ!ホントの名前は「カラスギ マコト」で
「マコト」の読み方変えて「シンちゃん」なのを俺が聞き間違えて
「ギンちゃん」って呼んでたんだろ?
間違って呼び続けてた俺の立場ってどうなのよ?恥ずかしいじゃん!』だ、そうだ。
私は彼に言われた事を理解するまで、少し時間が掛かってしまった
そして、気付く・・・
クラスメイトの誰かが知ったか振りで、「法螺を吹いた」と言う事に
私は法螺を吹いたであろう
酷い虐めの有った中学出身の女子の事を思い浮かべ、苦笑いし
『いやいや…「しんちゃん」て呼ばれた事も無いけどね』と
本音を零した。
私の言葉で彼は『女子にからかわれたのか?!』と、更なるショックを受けなさる
私は彼の落ち込み様を不憫に思い、仕方無しに
『まぁ~でも、呼び名「ギンちゃん」のままでも良いよ
今更、君に他の呼び方されても返事できないだろうし…』と
提案する事になってしまう
その提案を喜ぶ彼を見て、私は子犬や子猫を見た時に感じる様な
心の温まりを感じ『まぁ~呼ばれ方くらい、いっか』と一人納得した。
『所でさ、ギンちゃん…俺の名前、何で何時も呼んでくれないのさ』
私は唐突に痛い所を突かれる
実は私、密かに…彼の名前が分からないのである…いや、ホント、マジで!
私は冷や汗をかきながら、営業スマイルモードでニコニコ笑い
一度くらいは訊いたり、耳にしたりしたかもしれない彼の名前を
脳内で必死に検索したのだが…出て来ない
仕方無しに・・・
『知り合って1年以上経ってこんな事を言うのも何なんだけど
互いに自己紹介した事も、誰かに紹介された事も無かったよね?今からする?』
友人を失うかもしれない賭けに出てみた。
『あ~っ!それで俺、ギンちゃんの名前を知らなかったんだ!
っつ~か、ギンちゃんも俺の名前が分からなかったのかよ!
それならそう言えよ!言ってくれよ!訊いてくれよ!訪ねてくれよ!』
彼はうわぁ~っとテンション高く、その場で身振り手振り激しく暴れ
『俺の名前は、東条 寵(トウジョウ メグム)だ』と、右手を差し出してきた
「此処で握手を求めますか?マジですか?無いわぁ~…ソレ!無いわぁ~…」
私は顔を引き攣らせ、握手する代わりに・・・
「帰りに野良猫に逢ったら一緒に食べよう」と、高確率で何時も持ち歩いている
常温保存可能な魚肉ソーセージを1本、鞄から引張り出して手渡した。
東条は渡された物を確認し『何故に魚肉ソーセージ?』と、言う
私は「こんな目立つ場所で、無意味に握手したくなかったから」って理由を隠す為
『何か欲しいのかと思って』と、惚ける事にする
東条は首を傾げ、眉間に皺を寄せて
『そう言うつもりじゃなかったんだけどな…』と
頬を人差し指1本でカリカリと掻きながらも
何だか寂しげにしているけれども勿論そんな事、私は無視します。
『嫌いなら、返品してくれても良いよ!つぅ~か、そろそろ行こぉ~よ』
私は東条の真横を通り過ぎ
2つある食堂の出入りの内、売店から遠い方の扉に向かって歩き出す
『いやいや、嫌いではないんだが…今の時期、常温は不味くない?』
東条は私の横に並び歩き出した
私は心の中で・・・
「多少、前後して歩いた方が良くない?横並びに歩いたら邪魔だろうに」
なぁ~んて思ってはいたが、それは秘密の方向で
食堂から出た先にある、意図的に開けられた雑木林の入口を目指して歩いて行く。
照り返しの強い、学校を形作る白いセメントの上を歩き
続いて熱気を放つ、舗装されたアスファルトの上を歩いて辿り着く
踏まれ弱り、乾いて枯れかけた芝生の生える土の上
雑木林に入る時、雑木林囲む様に植えられた常緑樹を通り抜けて来た風の中に
一瞬だけ感じる事の出来る自然の冷気の中では、蝉の声もいと涼しい
なのだが、そこを過ぎれば・・・
少し開けていて、湿気の重量感を感じる事の出来る広場に出る
そこで見たのは、草むしりをする集団だった。
『うわ…マジデカ』
私はその中に他クラスの知人を見付け、迷わず回れ右して帰ろうとした
のだが…背後から忍び寄るクラスメイトの「岡田 順子」に
腕をしっかりと掴まれていて…時、既に遅く…逃げだす前に、捕まってしまっている
『ふふふ、教室で話しを聞いたから木陰に隠れて待伏せしてたのよぉ~
唐杉さん、和三盆サービスするから手伝ってくれるよね?友達でしょ?』
私は「何時から友達になりましたっけ?」と言いたいのを我慢して、大きく溜息を吐き
「絶対に逃がさないわ!」と言わんばかりに、私の腕に自分の腕を絡めてくる
岡田さんを見て、苦笑いをし
岡田さんの汗ばんでしっとりし、風で乾いて比熱による表面の冷たさを感じさせる
柔かぁ~い隠れ巨乳を拒否する事も無く受け入れる
背後で東条が、楽しそうに『色男はモテモテで良いねぇ~』と
大きな声で、彼的に私に対して冷かしの言葉を発している御様子だ…が、しかし・・・
更衣室でのロッカーの位置が近く
私が女である事を他より深く知る岡田さんにとって、私が色男ではアリエナイ
更に彼女には「教師と生徒」と言う禁断の関係な恋人がいらしゃいますので
女同士のウンヌンカンヌン的なモノは無し
そもそも…モテモテでないのは私が知っているので、東条の戯言は聞かなかった事にする
因みに・・・
押し付けて来る岡田さんの白いシャツの隙間からガッチリ見える谷間に対して
「先生、上手く育てやがったな!岡田さんってば、無駄にエロイぞぉ~…
私が男だったら、コレを喜ぶ所なんだろうなぁ~…あ、もしかして東条!
コレが羨ましくて騒いで茶化しているのか?」何て事を
私がこっそり思っていたのは、何年経っても岡田さんと東条には秘密である。
顧問の先生らしき人が、特に岡田さんに目を向けて
『サボるなよ!手伝ってもらうなら軍手を貸そう』と寄ってきた
私は意味深に笑い『岡田ちゃんの巨乳アタックに免じて手伝いますか』と
岡田さんの頬に軽くキスをして、先生から軍手を受けっとりほくそ笑む
それを気付いて見ていた他クラスの知人が『カラサキィ~』と
私に手を振っていたのでそちらに向かうと
小声で『相変わらず「ドS」ね』と、私に対する称賛の声を上げてくれた。
『アリガト…そっちは今、どうしてんの?
リカって、デキ婚狙いで店長の友達を狙ってたっしょ?あのセールスマン落とせた?』
なぁ~んて話してると
『リカちゃんって、ギンちゃんと知り合いだったんだ…』
東条が寄ってきて、私とリカの秘密の話しは中断する
『それにしても、リカチャン間違ってるよ』と東条が言うと
リカは一瞬、少しだけ鼻の上に皺を寄せ
『用事思い出しちゃった!また今度ね』と、笑顔で私と東条の元を去り
東条が『ギンちゃんはカラサキでなく、カラスギ…』と言うのも聞かずに
顧問らしき先生に、軍手を渡して帰って行く
東条がリカを追掛けてまで、訂正しようとしている様子なので
私は東条の腕を引っ張って立ち止まらせ
『お前さ、今日…「草むしり」って事を知ってて抹茶飲みに誘った?』と
リカの拒絶する空気を読んで、東条を引き留めてやった。




