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魔族大公の平穏な日常  作者: 古酒
大祭後夜祭編
176/176

160.エピローグ

 その日の目覚めは、最悪だった。

 泣きながら飛び起きてもおかしくない程の、嫌な夢を見たのだ。

 子供っぽいと思われてもかまわない。ほんとうに、ひどい内容だったのだから。

 どんな内容だったかって?

 それを聞けば、俺が『見捨てないでーーーーー』と、叫びながら目覚めたことも、きっと理解を得られると思う。

 なぜなら、俺の見た夢というのはこうだったからだ。


『旦那様。短い間でしたが、お世話になりました。私がいなくなっても、いつまでもどうぞ、お元気でいてください』

 寂しそうな表情を浮かべながらも、けれど最後通告のように力強い挨拶をする、エンディオン。

 まさか、嘘だろう、エンディオン! 城を出て行くだなんて、どうして!


 ほらもう! 思い出しただけで胃が痛い! キリキリ痛い!

 エンディオンのいない〈断末魔轟き怨嗟満つる城〉なんて、考えられるか!?

 エンディオンの補佐のない俺なんて、考えられるか!?

 エンディオンのいない未来なんてーーーー!!


 ……。

 …………。


 ふぅ……。

 落ち着こう、俺。

 こんなのはただの夢だ。そうだとも。

 夢で悲しくなるなんて、子供じゃあるまいし……。

 いくら寝起きとはいえ……泣きそうになるだなんて、さすがに情けない。

 だが――


「旦那様。実は折り入って、身の上のことで相談がございまして」

 エンディオンに実際にそう言われたときの、俺の衝撃が理解できた人、手を挙げて!

 まさかあれはいわゆるそう、予知夢だった!?

 嘘だと言ってくれ、エンディオン!


「な……なに……、かな……」

 聞きたくない。だって嫌な予感しかしないんだもん!!

 ペンを持つ手が、うっかり震える。

「勝手を言って申し訳ありませんが」


 あああああ、そんなまさか!

 俺はペンを机に押しつけた。

「暫く休暇をいただきたく」

 椅子が倒れる勢いで立ち上がる。

「嘘だろ、待ってくれエンディオン! 君がこの城にいないで、俺はどう毎日を過ごせばいいんだ!? 俺を」

 見捨てないで、と口に出す前に、ふと、違和感に気づく。


「お言葉の端々より、旦那様からの温情を感じ、感極まる思いではございますが」

「え、ちょっと待って…………休暇?」

「はい」

「えっと……休暇?」

「はい」

 エンディオンは深く頷きながら、倒れた椅子を戻してくれた。


「休暇……そうか、休暇か……!」

 辞める、ではない。休暇なのだ!

 よかったーーーー!!

「なんだ、休暇か! そうだよな、休暇だよな! だよな!」

「旦那様?」


 俺はエンディオンの手を取り、上機嫌で何度も頷く。

「休暇ぐらい、いくらでも取ってくれ! 一日か、二日か? なんだったら五日ほど?」

「ありがとうございます。ですが、できれば四十五日ほどいただきたいのですが……」

「え……」

 俺は彼の手を握りしめたまま、凍り付いた。

「し……しじゅう、ご、にち……」


 予想より遙かに長かった!

 だが、もちろん許可したとも。

 だって仕方ないじゃないか。


「妻が子を産むので」――なんて言われてみろ!

「我が子ができるのは、数百年ぶりなのですよ」なんて、あのエンディオンにちょっと浮かれたような、嬉しそうな、やや照れた様子で言われてみろ!

 え、いつの間にそんな暇が、と聞きたい気持ちをぐっとこらえて、「おめでとう」と送り出してやるしかないじゃないか!!!

 たとえその心は、不安にさいなまれていたとしても……!


 四年目も、いろいろありそうだ……。


―― 完 ――

魔族大公の平穏な日常は、本当にこれで終わりです

たくさんの方に読んでいただけて、とても嬉しかったです

本当に長らくのご愛読、ありがとうございましたm(_ _)m


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