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魔族大公の平穏な日常  作者: 古酒
大公位争奪戦編
155/176

144.〈魔王ルデルフォウス大祝祭〉の主役は魔王様なのだから、無茶ぶりも仕方ありません!

 俺はレイブレイズ、ベイルフォウスが持っているのも別の魔剣。

 そうして俺たちの前に立ちはだかる魔王様は、金の儀式剣ではなく、愛用の黒の魔剣を手にしている。


 俺とベイルフォウスは魔王城の〈大階段〉を降りた前地、そこで我らが主と対峙していた。

 観衆は大きく輪を描くように離れ、今は戦いの火蓋が切られるのを、固唾をのんで見守っている。

 二対一とはいえ、これではまるで魔王奪位の戦いのようだ。


「おい、やるからには本気でいくぞ」

 ベイルフォウスが大好きなお兄さんを獣の目で捉えながら、舌なめずりしている。

「足手まといにはなるなよ」

「まあ、せいぜい頑張るよ」


 勘弁して欲しい……。本心をいうと、勘弁して欲しい。魔王様と戦うだなんて!

 ウィストベルの魔力の強大さに目がくらみそうになるが、それでも魔王様だってやっぱり強いのだ。俺なんかでは敵わないくらいに、ものすごく強いのだ。

 約束は、ただの剣の相手だけだったのに――


「判定人は――」

「いらねえ」

「いらぬ」

 兄弟の返答が重なる。さすが、気の合うことだ。


「では――」

「お前たちの思うときに、いつでもかかってくるがいい」

 魔王様は強者の余裕たっぷり、これぞ魔王立ちの見本、という風にどっしり構えている。


「おい、ジャーイル」

 ベイルフォウスが視線で合図を寄越してくる。

 俺は親友に頷いて、鞘から愛剣、レイブレイズを引き抜いた。


 そのまま正面からは向かわず、背後に回って打ちかかる。

 もちろん、相手の隙を狙ってのことではない。

 だが、魔王様がこちらを向くのは視認しても、剣を抜いたその瞬間は、俺でも捉えることはできなかった。


 蒼光りする剣身と、闇のように黒い剣身が、火花を散らしてぶつかり合う。その衝撃音は、剣たちの咆哮にも聞こえた。


 上下左右から剣を繰り出し、数十度、刃を合わせる。そのたび、今までの相手からは感じたことのない重さで、手がしびれた。

 腹の底がゾクゾクする。血が沸き立つ音を聞いた気がした。

 目的を忘れ、力尽きるまでこうしていたくなる。


 その誘惑を振り切り、何度目かに打ち込むフリをして、次の瞬間、その場から跳躍する。

 そこへ、ベイルフォウスの放った炎が、間髪入れず伸びてきた。

 その業火の中に、魔王様の姿が飲み込まれたかに見えたのは、一瞬のこと。

 炎は黒の魔剣によって勢いもそのままに、大山に当たって分かたれた大河のごとく分断される。

 その隙を狙って再び打ちかかろうした俺は、しかし天から降り注いだ光の針を相手に、尽力しなければならなかった。


 だが、それだけで手一杯になるわけにはいかない。ベイルフォウスはすでに次の手を打っている。炎と子供たちを吐く巨大な蜘蛛、それから火矢だ。

 援護となるよう俺は雷を轟かせ、氷結魔術を展開する。

 だが魔王様は俺たちの攻撃を全てその魔剣と魔術で打ち砕いた。


 蜘蛛は一閃され、氷は粉砕、雷撃は霧散し、火矢は消滅した。


「おい、ベイル!」

 ベイルフォウスが俺を一瞥する。

 次の瞬間、二人で一度に打ちかかった。


 そうして――


 俺たちは二人共に、魔王様の剣と魔術で、彼方に吹き飛ばされたのだ。


 ***


「我が兄貴ながら、ハンパない」


 一日に二度目と数える負傷を受けながらも、そう語ったベイルフォウスは嬉しそうだった。


 命をかける戦いでもなし、順位を巡る戦いでもなし、ただ魔王様が大公二人がかりでもビクともしない強さを示せればそれでいい――まあ、そういうことだろう。

 勝負は、俺たちが打つ手なく吹き飛ばされた段階で、終わりを迎えた。

 さすがに二人とも、ボロボロにはなっていない。

 いっておくが、だからといって別に手も抜いた訳でもない。俺もベイルフォウスも。


 そうして大公二人を相手に余裕たっぷり勝利した魔王様は、その後サクッと〈魔王ルデルフォウス大祝祭〉の終了を自ら宣言したのだった。

 観衆が興奮の渦に包まれたのは、言うまでもないだろう。

 我らが強大な魔王を讃える叫声と熱気は、その姿が魔王城の奥に消えた後も三日間の間、空と大地を蹂躙し続けたのだから。


 こうして、長く続いた〈魔王ルデルフォウス大祝祭〉は、終幕を迎えたのである。


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