episode96
投稿が遅れてしまいました。
誠に申し訳ございません。
一同は帰ってきた。その時はもう既に空は暗く、体力的にも時間的にもこれ以上どこかへ行くということはできなかった、
ということで、駅で解散となった。戸田と神野、青島と唐沢はまだ一緒にどこかへ行くらしいが、それは別例である。
(……あれ?)
そこで傷裏はようやく、青島と唐沢の距離が異様に近づいていることに気づく。
青島が唐沢に近づくのはわかる。しかし、唐沢もまた青島に近づいていた。互いは目が合うと気恥ずかしそうに微笑み、顔を赤らめる。
「え? ドユコト?」
「シマちゃんとスーちゃんさ、お付き合いすることになったんだって」
頭上に疑問符を浮かべていると、すかさず柳沢が傷裏の横まで移動して小さな声で耳打ちした。
「え、マジで?」
「マジマジ」
柳沢は嬉しそうに2人を眺めていた。
「……ごめんね、ドラちゃん」
「え?」
「昨日のあれ、ちょっと私ワガママだったよね。ドラちゃんが誰を好きなのかわかってて、それがドラちゃんの幸せだってわかってても、私は割り切れなかった」
諦めきれなかった。
漫画のようにはいかなかった。
それを踏まえ、彼女は言う。
「でもありがとう。私はドラちゃんを好きになったおかげで、毎日を楽しく生きることができた。自分勝手で自己中な言い分だけど、これが私だから。私は自分の信念を曲げたりはしない。だから……これからも友達でいてください!」
柳沢は笑顔で頭を深く下げた。
傷裏の頬が緩む。
「もちろんだよ、柳沢さん。こっちもごめんなさい。……そして、ありがとう」
ありがとう。
その言葉が、彼女にとって何より嬉しい言葉だった。
「うん!」
柳沢が去っていくと、今度は市原が近づいてきた。
「龍、今後のことで話がある。ちょっとそこまで来てくれ」
「わかりました。じゃあ黒崎さん、先帰ってて」
「うん、それじゃあまた後で」
黒崎と別れ、傷裏たちは小さなベンチに腰を下ろした。
「市原さん、今後のことというのは、やはりイチハラのことですよね?」
「あぁ。奴のことは今全力で捜索しているが、仮に見つかったからといってどうこうできる相手じゃない。なんせ軍事を掌握してる男だからな、何をしでかすかわかったもんじゃない」
「そのための対策……ですか?」
「あぁ。バーバリアン戦で挑めば勝てるなんて、もう思ってないだろ?」
「はい。問題はあのフーリッシュアクトですか。バーバリアンが使い物にならないんじゃしょうがないですよね」
「だからって肉弾戦で攻め入ろうとか考えるなよ? あれは進化個体の性質を持っているんだから、龍でもあれに勝つのは困難だ」
「ですよね」
「それだけじゃない。あいつはバーバリアンを持っている。ただのバーバリアンじゃねぇ。あいつが殺したオリジナルが使ってたバーバリアン……つまり完全なる初期ロットだ」
聞く話によると、オリジナルたちが使っていたバーバリアンは今の兵器とは比べ物にならない性能を有していたらしい。それは開発者であるアロードが直接作ったからというだけでなく、パイロットの強度を全く考慮せずにただひたすら性能だけを追い求めたからと言われている。
初期ロットは開発のための研究材料として使用されたため残っていないと言われていたが、その中の1機はしっかりと現存していたということだ。
そして、人間を超えた肉体を得たイチハラが操縦すれば、唯一にして最悪の欠点はないも同然となるということだ。
「初期ロットの1つ、名はアルカナ。全てのスペックにおいて水準を大きく超える万能機だ。機動性だけを見ればハルファスよりも上といったところだ」
「しかし、いくら強い機体があるといってもパイロットがど素人では宝の持ち腐れじゃないんですか?」
「普通はそうなんだが、あいつはチューナーを使って操縦技術一式を自身の脳にトレースした。足りない力に補正をかけたんだ。単純な操縦技術だけで言えばお前と同格と思ってくれていい」
それは基崎が戸田を使った時と同じ手法であり、傷裏が自らに使った手法と同じであった
。
「……あれ、ちょっと待ってください? それじゃあ矛盾が生じますよ。イチハラはバーバリアンへの対策としてフーリッシュアクトを使うことができるけど、同時にバーバリアンも使える。これじゃあ、フーリッシュアクトを使っちゃうとイチハラもアルカナを使えなくなるんじゃないですか?」
「残念なことにその心配はない。あいつは聡明な男だ。そんな策士策に溺れるなんてヘマはしない。確証はないが、アルカナにはアクトの効果が発生しないようなプログラムでも入力しているに決まっている」
万策尽きた、と言うべきか。
仮にイチハラの所在を特定できたとしても、彼を殺すにしろ捕らえるにしろ、それを成し得ることができない。
バーバリアンは封じられる。
肉弾戦でも勝ち目がない。
最悪の場合は多大過ぎる権力によって世界中の敵にされてしまう。
そもそも銃弾程度では死なない。
どうしようもない。
せめてバーバリアンを動かすことができれば、何か策が生まれるのだろうが……。
そう考え、頭を悩ませていた時のこと。
「お困りかね?」
第三者の声が割って入った。傷裏が視線を後ろに向けると、そこには見知らぬ老人がいた。どう見ても貧弱なヨーロッパ系外人だ。手足は細く、服も貧相、一見すればただのホームレスの老人でしかない。
ただ、1つだけ留意すべき点があった。
それは目だ。老人とは思えないほど凛々しく、強く、覇気の込もった目。弱々しい老人を装っているが、この老人、そんじょそこらの人間とは格が違うとわかった。
「あの……どちら様でしょうか? どこかでお会いしたことがありました……?」
「ん?あぁ……すまんすまん。ちょっとそこを散歩していたら面白い会話が聞こえてきたものだからの、ちょっと近づいてしまったのだよ」
「……面白い会話?」
傷裏が首を捻ると、老人は楽しそうに笑い、次のように言った。
「まさか私の作った初期ロットが未だに残っているとは予想外だったからの」
最初、意味がわからなかった。
理解が及んでいないことを表情で察知したのか、老人は続ける。
「自己紹介をしておこうか。……私の名はアロード・テルメロイ。かつて世界を破滅させえかけた者の名だ」




