episode79
「真っ青な海!」
柳沢が叫ぶ。
「真っ赤な太陽!」
唐沢も叫ぶ。
「白い砂浜!」
戸田も(以下略)。
「海だー!」
以上の3名が大海へとダイブ。
「あんまりはしゃぎ過ぎないようにねー!」
黒崎の警告は多分届かない。
ここは石川県にある海水浴場である。時期がお盆ということもあり、人でごった返していた。
なぜ、一同が海に来ることになったのか。それは出発の前日まで遡る。
回想。
それは旅行のプランを練っていた日。
『とりあえず旅館の確保、移動用のレンタカーの予約は問題なし。5人乗りの乗用車を2台で、運転手は戸田さんと市原さん、ってことでいいんだよな、龍?』
『そうだね、青島さん。まぁ市原さんの了承は得てないけど多分大丈夫でしょ』
青島の確認作業に傷裏が答える。今この場には神野、市原、室井の3人がいないが、彼らは皆に任せるスタイルをとっているので大丈夫だろう。
『ていうか、結局どこ行こっか? 2日目の夜はお祭りに行くのは皆で決めたけどさ、それ以外はどうする?』
戸田が問い、それぞれが意見を出し合う。
『じゃあ金閣寺行こうよ!』
『おい織……アタシたちは石川に行くんであって京都に行くわけじゃないぞ』
『シマちゃん厳しい〜。じゃあ石川県の中にある金閣寺で』
『んなもんねぇよ』
『あ、京都で思い出したけど、清水寺っていったら普通は京都思い出すけどさ、実は同名の寺院が国内にいっぱいあるみたいだぜ。長崎とか』
『え⁉︎ スーちゃんそれホント⁉︎ なら行こうよ長崎行こうよ!』
『だから石川行くっつってんだろ! そして冬夜も織を路線から外すようなことは言わないでくれ』
『…………』
『アウラさんが「僕は金箔見に行きたい。……味が気になる」だって。確かに金沢は金箔で有名だしね。……一応食べても問題ないらしいけど』
『ほら見ろお前ら! 後輩の方がしっかりしてるじゃないか! 情けないとは思わんか!』
『…………』
『……あの、アウラさんから追記です。「でもやっぱり銀閣寺も捨て難い」だそうですが……』
『結局京都かよ!』
という感じで、会議は終わる気配を見せずにいた、そんな時。
『だったら、海なんてどうかな?』
そう提案したのは、まさかの傷裏だった。
『つまりは海水浴。夏の定番っていったらやっぱ海じゃないかな?』
ということで、旅行初日は海を満喫ということになったのであった。
回想終了。
「ヒロちゃーん、これを食らいなさい!」
「ぅわっぷ……! よぉーっし、やりましたね!」
「あはははは」
「ははははは」
はれて恋人となった戸田&(アンド)神野は水をかけあってキャッキャウフフに突入していた。はたから見たら憎らしいことこの上ない。
「な、なぁ……冬夜。ちょっと向こうまで遠泳大会とでもしゃれこまないか? ま、まぁ……臆病なお前には無理な話だったかなぁ……」
「なっ⁉︎ 言いやがったな青島! いいだろう、やってやろうじゃねぇか! 俺の華麗な泳ぎテクを見せてやるぜ!」
フラグが立ちそうで立たないグループである青島&唐沢であるが、青島がとにかく唐沢と一緒にいたいがために間違って申し込んだ遠泳へと向かうらしい。2人とも運動はそれなりにできる方なので問題はないだろう。
そして。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「いやぁ、やはり君はいいな、うん、うん」
残りのメンバーは、砂浜に設置したビーチパラソルの下で体育座りで座っていた。ただし、室井はその中の例外であり、傷裏を背後から抱きしめて愛でていた。
(そういえばこの人、ショタコンの末期患者だったね。すっかり忘れてた)
この状況において傷裏が気になることはただ1つ。それは、室井が傷裏を抱きしめることによって背中に密着する某脂肪の塊である。
ここは海だ。よって、一同は相応の格好に着替えている。傷裏たち男性陣だって水着を着用しているが、ここの詳細描写はカット。
まずはここにいない戸田。彼女は黒いビキニの水着を着ている。それにより露わになったプロポーションはグラマラスの一言だ。やはり官能ムードが半端ではない。
同じくここにいない青島。こちらは露出の少ない競泳水着だ。体にピッタリフィットするそれは、高校生として育ち過ぎな胸部をさらに強調する。
「もうずっとこのままがいい……」
そんなことを呟く室井もまた、前述したようにナイスバディだ。戸田と同じようなビキニだが、カラーが赤である。相変わらず、と言うべきだろう。どっちにしろダイナマイトなことには変わらない。
「…………」
傷裏の右隣でちょこんと座るのは柳沢だ。彼女は前述のボンバーズたちほどグラマラスではないが、それでもスタイルはいい方だ。淡いグリーンと白を基調としたセパレート水着を身につけ、黙っていればおしとやかなお嬢様だ。
「…………」
その左隣で同じく座っているのはアウラだ。彼女は……ハッキリと言えば板だ。別に太っているわけではないのだが、おうとつが著しく乏しい。水着は白いワンピース水着であり、違和感が完全に消失していた。
「…………」
問題は、傷裏の正面で座る黒崎である。
彼女が現在着ている衣装はというと……。
モフモフウィンターセット。
……もう1度言おう。
モフモフウィンターセットである。
黒崎が好んで(?)着用しているアレである。
お盆……つまり夏真っ盛りの真っ昼間にこれである。
「……あの、黒崎さん?」
「……ごめん、傷裏君。今質問に答えられる余裕が、ない……暑いから……」
「……そのコートとかマフラーとか帽子とかブーツとか手袋とかを脱げばいいんじゃないでしょうか?」
「それは……無理」
黒崎は断固としてそれを脱ごうとしなかった。そこを見かねた柳沢がため息をつく。
「クロちゃんさー、ちゃんと水着を着たのにその上からそれ着るって一体どういうシステムになってるの?」
「……だって…………」
「クロちゃん、もしかしてさー……露出が恥ずかしい、ってことだったりしないよね?」
「正解」
「即答かい……」
思わず頭を抱える柳沢。仕方ない、と小さく呟き、反対側にいるアウラにハンドシグナルを送る。
その意味は。
『そのコート、剥ぎ取れ』
2人は即座に行動した。それぞれが黒崎の片腕を掴み、そのまま柳沢はマフラーを、アウラは帽子を取っ払う。
「あ、ちょっとっ⁉︎ バッ……やめっ……!」
唐突なる敵対行動に黒崎は反撃に移るが、両腕の拘束がそれを阻害する。そしてその間にも、ブーツと手袋がさらに解放された。
傷裏はその様子を、黙って見ていた。かなり正直でえげつないこと言うと、大好きな女子の素肌が露出される光景というものは、健全な男子にとってはくるものがあるのだ。
「ご開帳ー!」
「…………ッ!」
そしてついに、全身を覆っていたロングコートが脱ぎ捨てられた!
「……きゅぅぅぅぅぅぅ…………」
黒崎は顔を真っ赤に紅潮させ、その場でうずくまってしまった。
黒崎の着ていた水着は紺色のスクール水着……通称スク水と呼ばれるものだった。本来このような場に着てくるものではないのだが……。
「……1番露出が少ないのってこれしかなかったから……」
彼女はそう弁明する。その羞恥の様は小動物のようであり、柳沢は生温かい優しさで黒崎を愛でていた。
そして傷裏はというと。
(よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)
脳内でハッスル中であった。それもそうだろう。傷裏は健全な男子なのだ。目の前に愛する女子が水着を晒したのを見て何も感じないわけがない。
しいて言ってしまえば板だ。年下のアウラよりも板だ。
壁だ。
平野だ。
しかし、それでも女子らしさというものは十分に盛り込まれている。白く艶やかな肌、絶妙な細さの四肢、もはや色気しかない太もも、そしてスク水だ。本来の用途上色気などは出すはずのなかったスク水は逆に強い官能オーラを放出することになったのだ。
「傷裏君、一般的な男から見て梨々香ちゃんのこれは有りか? それとも無しか?」
「有りです」
即答であった。今までの人生の中で最も早く行動できたと自負できる。
「男が全員でかいのが好きかと問われればノーです。でかくたって小さくたって問題は全体的な数値であり、でかくてもその他がダメだったらアウトですし、小さくてもその他がよければオッケーなんです。つまり何が言いたいかと言えば、女性は胸だけではないんですよ!」
語った。
長文の語りであった。
力説した。
渾身の力説であった。
そしてその場にいる誰もが、言葉を失った。
というより、誰もが口を開きたくなかった。
ゆえに、ここで突破口を開くために口を開いた室井は勇者である。
「……傷裏君、意外とそういう思考を持っているんだな。今までそういうものには無関心だと思ってた」
「僕だって健全な青少年なんです。これぐらい思ってても問題はないと思いますが?」
「あ、うん……いや、確かにそうなんだが……な……」
傷裏は小首を傾げる。自分は質問されて正直に答えただけなのに、なぜ微妙な反応をされなければならないのか、と。
「あのな、傷裏君……今の君の長台詞、梨々香ちゃんにとっては地雷なんだが……」
「地雷?」
「だから……な ?君はサイズについて力説してくれたが、梨々香ちゃんにとって自分のサイズはコンプレックスであってだな……」
「……あ」
気づいた。ようやく気づいた。
傷裏は、ここで黒崎の顔を見ることが怖かった。
だが見た。
黒崎梨々香は、憤怒の笑顔を見せているのであった。




