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episode28・開戦

 傷裏が退院、居候ズと柳沢が病院まで出迎えた。


「柳沢さん、お疲れ様。大変だったでしょ?」

「……お疲れ? ははっ、お疲れ……ねぇ…………」


 柳沢が乾いた笑みを零す。何やら凄惨な地獄絵図を見てきたかのような。


「ドラちゃん、私あれほどとは聞いてないわよ? もうこの2人の両足切断すれば何もさせずに済むのに……ははっ」

「柳沢さん⁉︎ ちょっ、さらっとハイパーバイオレンスなこと言ってるよ⁉︎ 大丈夫⁉︎」


 本当に地獄絵図を見てきたらしい。家の現状が心配になってきた傷裏であった。


「いやー、凄かったよ識ちゃんの料理。さすが小料理屋の娘さんだね。ね、梨々香ちゃん」

「はい! もうあまりに万能すぎて私たちできること何もなかったし」

「……是が非でも何かやろうとする2人を止めるのはほんっと、死ぬかと思った」


 明暗がハッキリとわかれていた。最近こんなのばかりだ。

 だが、傷裏はずっと気になっていたことを口にする。


「黒崎さん、柳沢さん」

「ん?」

「ん?」

「今日は何曜日ですか?」

「水曜日」

「水曜日」

「今日は祝日ですか?」

「平日」

「平日」


 よし、これでわかっただろう。


「2人共、なんで学校サボってるのかな?」


 現在時刻10時20分。授業真っ最中である。

 にも関わらず、この女子高生2人は堂々とここにいる。これはなんたることか。


「2人共、わざわざ来てくれたのは嬉しいけど、さすがにサボりは……」

「だ、大丈夫! BP機関の特例措置もあるし、最悪お父さんになんとかしてもらう!」

「うわー、職権乱用の乱舞だー」


 嫌な意味で微笑が固定され、棒読みでドン引きした傷裏。

 「私やったよ!」的な自慢気に拳を握りしめる黒崎。

 さて、柳沢はというと……。


「……………………」

「うん、大体そんな気がしてたよ、僕」


 柳沢は学力なし、権力なし、コネなしの3拍子が揃っている。1日の欠席が留年に繋がるほどに。


「仕方ない。BP機関の仕事に協力してもらっていたって言って公欠にしてもらおう」

「マジで⁉︎ ありがとードラちゃん!」


 手を大きく広げ、レールガンのように高速で突っ込んできた柳沢をなんとか受け止める。

 そのまま反射的に、抱きつかれたまま回転したが、昔の恋愛ドラマのワンシーンのようで気恥ずかしいものがあった。

 その当事者である柳沢は、なんと傷裏よりも顔を紅潮させていた。


「あ、あ、ぁ、ぁ…………あわ、わわわわぁぁぁぁぁああわわ…………っ!」


 言語になっていない何かを呟きながら、急いで傷裏から離れて蹲った。


「ど、どうしよ私……ドラちゃんに対してなんてことぉぉぉぉぉっ……。恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい絶対的に圧倒的に壊滅的に最強に最恐に最凶に最狂に恥ずい! 恥ずいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「ちょっ、柳沢さぁぁぁぁぁぁぁん⁉︎」


 柳沢は全速力で去っていった。彼女、あそこまで足速かったっけ? と全く見当違いな思考を巡らせている傷裏だった。


「唐沢君も唐沢君だったけど、傷裏君も傷裏君だね」

「え?」


 なぜここで唐沢の名が出てくるのだろうか。彼と一緒など心外である。

 ……やはり思考がゲスい傷裏だった。

 ふとその時、携帯の着信音が鳴った。アップテンポなレトロゲームサウンド。


「あ、私だ」


 黒崎が携帯を取り出す。まさかの折りたたみ式携帯……つまりガラケーであった。


「もしもすぃー、あ、室井さん。……あぁ、届きました? じゃあ地下にでも入れておいてもらってください。はーい」

「梨々香ちゃん、一体なんの電話?」

「あ、えっと……内緒です」


 優しく微笑んでごまかす黒崎。気になるところではあったが、笑って流せる程度の話ならそこまで追求することもないだろうと、傷裏は諦めた。

 その時。


「っ……つぅぅ……」


 戸田が頭を押さえてその場で蹲った。

 慌てて2人が駆け寄るが、戸田は悲痛の声を漏らす。


「ちょっ、大丈夫ですか⁉︎」

「うん……大丈、夫。最近、たまに頭痛があってさ。いつもの……ことだから」

「1度診てもらった方が……」

「大丈夫、本当に大丈夫だから」

「いやでも……え?」


 傷裏はふと空を見上げ、あることに気づいた。

 遥か遠くの上空から、何やら細長い物体が高速でこちらに近づいてくるのを。

 最初は逆光のせいでよく見えなかったが、次第に姿をできるようになった時、言葉を失った。


「巡航ミサイル⁉︎」


 なぜこんな街中にそんな代物が滑空しているのか?

 それを理解するより先に、ミサイルの予想到達地点を予測する。

 あの角度、高度のまま直進すると、その先に待ち構えているのは……。


「っ⁉︎ 皆、走って!」

「え、どうし……」

「早く!」


 黒崎の疑問を断ち切り、大声で促す。

 3人は全力で走り、病院から離れる。

 直後だ。

 ミサイルは病院に着弾、膨大な光と熱を生み出した。

 3人の体が爆風により吹き飛び、前のめりに倒れる。


「かっ……⁉︎」


 正しい呼吸を行うまでに相当な時間を要した。加え、傷裏は背中を若干火傷してしまった。

 倒れてからしばらく、爆音が続いた。距離や方位はバラバラ、同時襲撃のようだ。

 やがて爆音が止み、傷裏は起き上がる。

 病院は街の中で比較的高い丘の上にあり、そこから街を一望することができるのだが、その目に映る光景は、惨劇という言葉を具現化したに等しかった。


「これ……は……………?」


 ビルは倒壊、地は炎上、自動車や電車は黒煙を上げて停止し、ついさっきまで耳に入っていた喧騒は悲鳴へと変わっていた。

 背後を見る。

 つい十分前まで傷裏がいた病院は跡形もなく崩れ去り、もう原型がどういったものだったか全く思い出せない。

 思考が正常に回らない。

 否定を求める。

 戦場で幾多の『戦士』の死を目の当たりにしてきた傷裏だが、これは違う。

 今傷裏が見ているのは、戦場とは無関係な『一般人』の死だ。

 これは、あまりにも理不尽である。


「……っ⁉︎ 2人共、大丈夫⁉︎」


 慌てて黒崎と戸田を起こす。黒崎に目立った外傷は見当たらないが、戸田は吹き飛んだ際に頭を打ったらしく、意識はあるが出血が酷い。


「戸田さん、戸田さん!」

「だい……じょう、ぶ。……痛い、だけだから……」

「無理しないでください。黒崎さん、戸田さんを連れて逃げるよ」

「逃げてって……どこに逃げるっていうのさ」

「BP機関に行けば地下に緊急避難用のシェルターがあるはずだからそこに行って。学校にいる皆は大丈夫だと思うから、柳沢さんにも連絡しておいて」

「シェルターって……爆発はもう終わったんじゃあ……」

「いや、まだ終わってないと思う。ほら、あれ」


 傷裏の指差す先には、10機近いバーバリアンが大空を駆けていた。おそらく巡航ミサイルを撃った犯人及びそのグループと同一犯によるものだろう。


「とりあえず情報が欲しい。市原さんに連絡を取ってみる」

「え、でもこんな状況で通じるの? 絶対混線してるんじゃないの?」

「大丈夫。僕の携帯は特別性だから」


 自身の携帯をちらつかせるように見せ、市原に繋げる。


「もしもし市原さん、これは一体何が起きているんですか?」

「わからん、まだ全然情報が流れてこない。多分お前はあのバーバリアン部隊を潰す気でいるんだろうが諦めろ。お前のフェニックスはボロボロ、予備の吹雪が数機あるが武器はレーザーライフル1丁しかない」

「それだけあれば十分です。今からそっちに向かうので、ジェットタイプを稼動できる状態にして、あとシェルターの準備をお願いします」

「おい、ちょっ……」


 市原の返答も聞かず、傷裏は通話を切る。

 携帯の時計を確認する。ここからだと走ってもBP機関に着くまで30分はかかる。


「……黒崎さん、戸田さんを運ぶよ」

「運ぶってどこに⁉︎ 空をあんなのがウヨウヨしてるんだったら、もう逃げ場はないわよ!」

「大丈夫」


 2人で戸田の両肩を背負い、駐車場に停められてあった大型車まで向かう。これは戸田がここに来る際に使った物だ。

 傷裏は戸田から車のキーを拝借し、ボタンを押すとロックが解除された。


「傷裏君、自動車免許持ってたの⁉︎」

「免許は年齢上無理だよ。でもルールは頭に叩き込んであるから大丈夫」

「……うん、もう傷裏君に常識という概念は存在しないことがわかったよ」

「バーバリアンが操縦できるんだから、こんなの余裕だよ。……飛ばすから、しっかり捕まってて!」


 アクセルを全力で踏み込み、大型車は惨状に向かって駆け抜けた。

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