episode15・集合
『ショッピング』
前にもこんなことがあった気がする。
戸田恵実救出の翌日。自室で熟睡中だった傷裏は、携帯の着信音によって叩き起こされた。
前回同じようなことを言ったのは黒崎だったが、今回は青島だった。
「どうしたの?」
『織のやつがないきなり遊びたいとか言い出すもんでさ、了承したら「じゃあ皆に連絡入れといてねよろしくぅ」って情報伝達一任されてるんだ』
柳沢のモノマネがやたらと似ていて、思わず爆笑しそうになったことは絶対に言えない。
「他に誰を誘ってるの?」
『冬夜は既に連絡済み。あとは梨々香だけだ』
「そっか……くくっ」
『なんだよ?』
「いや、やっぱり唐沢君が最優先なんだなって……くくっ」
『んなっ⁉︎』
思わず口元がニヤけてしまう。
音声通話なので確証はないが、今青島は顔をかつてないほど紅潮させているに違いない。
「おい、ちょっと待て傷裏! 私は別にあいつに対して何か特別な感情を持っている……わけじゃ……なくて、な……」
青島の声がどんどん小さく、か細くなっていった。
「はいはい、わかったわかってますから心配することはないよ青島さん。自分に正直になればいいんだよ〜」
「うぅ……この悪魔ぁ……」
もはや青島は、傷裏に遊ばれるオモチャ状態となっていた。
今にも泣きそうな声の青島。
そんな様子を嗜虐的な笑みで楽しむ傷裏。
そんな時である。
傷裏の部屋の戸が蹴り破られたのは。
「傷裏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
器物損壊の犯人は、昨日から同居し始めた戸田である。両手には缶ビール(空)、なぜか服は下着オンリーだった。
「ちょっ、戸田さん⁉︎ なんて格好で家の中徘徊してんですか⁉︎ ドア蹴らないで服着て抱きつかないで!」
「なんだぁ傷裏。もしかしてスーパープロポーションの私を見て興奮しているのかね?」
(あぁもう! まさかこんな酒癖悪いなんて夢にも思ってなかったよ!)
事件の発端は昨晩まで遡る。
傷裏は提出資料を完成させて直属上司(仮)の東郷に送り、2人は傷裏の家へ向かった。
途中、在住に必要な衣服類や食料、それと家具を買い集めた。前金5000万があったので資金繰りにさして頭を抱える心配はない。
だが、その食料調達が問題だった。
あろうことか戸田は、自身の数少ない手持ちの数万円の半分を大量の缶ビールに使ったのだ。
そしてヤケ酒と言わんばかりに飲みまくった。
戸田はビール好きらしいが酒に弱く、2杯目に入った頃にはすでに泥酔していた。
だが飲んだ。
結果、現在の通りである。
「プロポーションとか興奮とか、今そんな話してる場合じゃないでしょ!」
『そうだな。そんな話をしてる場合ではないな』
青ざめた。
忘れていた。傷裏は今、電話中だったことを。
『お前……一体何やってるんだ?』
「た、宅急便だよ。こんな朝早くでびっくりしちゃってさ、ちょっと待ってて。すぐ取りに行くから」
『ドア蹴るな、とか聞こえたんだが』
「……トラキャリーだよ。ほらあるじゃん、トラネコキャリーの宅急便って。あれと聞き間違えたんじゃない?」
『じゃあ抱きつくとか興奮とかはどう説明してくれるんだ?』
「えっと……ですね…………」
詰みである。
傷裏が言葉を濁して弁解の余地を探っていると、携帯越しに青島の小さなため息が聞こえた。
『はいはい、わかったわかりましたから心配することはないぞ龍。自分に正直になればいいんだぞー』
「んぐっ……」
言葉返しをくらってしまった。しかもあからさまな棒読み。
徹底的な詰み。形勢逆転とはこのことだろう。
『すまん、どうやら邪魔したみたいだな。織には傷裏は無理だと言っておくから、そっちはそっちで楽しくやってくれ』
「ちょっと待って! 弁明の許可を!」
傷裏が必死に懇願している時。
不意に携帯が奪われた。当然、犯人は戸田である。
「ねぇ、君ぃ」
傷裏は携帯を取り返そうと動くがあまりに身長差が離れており、取れる寸前でジャンプされて微妙な取っ組み合いが続く。というか遊ばれてる。
「君、傷裏の友達? 朝早くからどうしたのぉ? 愛の告白?」
『……誰?』
「私はぁ、傷裏の保護者兼居候です」
「なん、です、か! その、肩書き、は!」
傷裏の必死のジャンプは虚しく空振るのみ。
「でぇ? 保護者にお聞かせ願いたいのだが、何のご用かな?」
『……皆で、遊びに行く』
「なるほど。なら私も行く」
『はい?』
「はい⁉︎」
2人の疑問符が見事にシンクロした。
酒が回って饒舌になっている戸田は笑顔で続ける。酔いが覚めた後どうなるか、傷裏には知ったことではないが。
「だぁかぁらぁ、私も行くっつってんの。どうせ今日私は暇なんだよ。大人の事情に付き合いやがれ」
『無茶苦茶な……』
「自分に正直なだけよ。で、場所は?」
『愛猫像の前……10時に』
「おうけぃ〜」
缶ビールを真上に放り投げ、戸田は通話を切った。ちなみに缶ビールはその後天井に激突、加速をつけて傷裏の頭頂部に高速落下した。
「傷裏、愛猫像の前で10時からだって。それじゃあ私は今から……」
頭を抱えてうずくまる傷裏をよそに、戸田は傷裏のベッドの上で仁王立ちする。無駄に凛々しい。
「寝る」
硬直状態で真後ろに、ベッドにダイブするように倒れ、アルマジロのようにくるまり、静かな寝息をたて始めた。
「……さて、準備しよっと」
決して戸田を起こしてなるまい。そう心に誓った傷裏だった。
「……で、なぜこうなった」
傷裏はそう呟く他なかった。
なんとか戸田を起こさずに家を出ようとした傷裏だったが失敗、結果的に連れてくることになってしまった。
この場にいる面々を紹介しよう。
傷裏、戸田、青島、柳沢、唐沢、黒崎、室井。
……おわかりだろうか?
明らかに、いるのが不自然な人物がいる。
「実は、社長から『娘が何やら上機嫌で遊びに行ったんだが、不安なので見にいってくれないか』って言われた」
「別に上機嫌じゃないです! 別に友達に誘われたのがそんなに嬉しいわけじゃないです!」
室井が笑いを堪えるように説明し、黒崎が顔を顔を赤らめて憤る。
「子供の集まりに大人が混じるとか……」
「面白いよね」
「……やっぱ織の場合そうなるか」
諸会話中略。
そんなこんなで7人は動き出した。
「で、どこ行くかとか予定あんのか?」
歩きながら、集団の前列で唐沢が問う。
「どうする?」
「決めてねぇのかよ……」
柳沢のやっぱりかと言える返答に小さく頭を抱える唐沢。
「黒崎さん、そんなに楽しみだったの?」
「べ、別にそういうのじゃない! 今までろくに友達できなかったからテンション高いとかそういうのじゃ……」
「冬夜とどう話せばいいんだろ……」
中列ではムキになる黒崎を傷裏がちゃかし、青島が前列の某男子に想いをはせていた。
「ほぉ、ではあなたが例の大尉さんか。1度会ってみたいとは思ってたんだ」
「もうお耳に入っていたとは。さすがは黒崎グループ幹部の1人。一体どこから仕入れたのやら」
後列では、大人の女2人が謎のドロドロ空間を形成していた。
(面倒な1日になりそうだ……)
表情には出さず、心の中で特大のため息をつく傷裏であった。




