episode13・戸田恵実
投稿が遅れて申し訳ありません
戸田恵実に対して2日間の尋問が行われた。それにより得られた情報は文字通り皆無。戸田は一言も発しなかった。
なんとしても情報が欲しい国防軍は、尋問から拷問へシフトチェンジすることを決意。
「それで大佐、何で僕が拷問をかける必要があるのでしょうか?」
「君が入隊してから2日。君の異常な高待遇が兵士の間で噂の種でな。無視するに徹すればよかったんだが……」
「兵士の一斉ストライキなんて起こされたら面倒極まりない」
「その通りだ。というわけで申し訳ないが初仕事が汚れ仕事となってしまった」
「構いませんよ」
「彼らははこれみよがしに君を罵倒するだろうな。まともに情報を得ることもできない税金泥棒が、ってな」
「構いませんよ」
傷裏は特に傷つこともなく、無機質に淡々と話を聞く。
「ついでに彼女と対峙した君なら、何かうまい聞き出し方があるんじゃないかと思うわけだよ」
「関係ないですよ、それ」
国防軍東京基地内特A級犯罪者収容所。その廊下を2人は歩いていた。
途中、軍服を纏った屈強な兵士と何回もすれ違い、その全員から鋭い視線を受けた。
それは嫉妬。
別段、傷裏はそれをどうとも思わない。技能に相応の報酬を受けている。当然だ。
「着いたぞ」
看守の案内の元、2人は鉄格子の扉の前まで招かれた。
看守は案内を済ますとそそくさと立ち去る。傷裏に理不尽な敵意の眼差しを送って。
「あいにくわたしは口出し1つできん。そういう約束なんでな。その代わり彼女の処遇は君の一存である程度決められると思ってくれ」
「わかりました。では」
中は閑散としていた。錆びた鉄板の壁や天井、薄暗い電灯が天井からぶら下がり、中央に長イス。
その長イスは人体を預ける役割を現在進行形で果たしていたが、異様だった。
数本の黒い皮ベルトのようなものが、人体と長イスをがっちりと固定していた。
人体は女性だった。髪は腰まで伸び、顔はテレビで見る売れっ子女優のように整っていた。黒崎が可愛い、室井がかっこいいと評するなら、彼女は美しいの分類が妥当だろう。
「どうも、戸田恵実さん。大体察してると思いますが、今から行うのは尋問ではなく拷問です。それを理解してもらった上で最後の尋問です。『ヤマタの集い』の、あなたの知る全情報を吐いてください」
返答無し。ポーカーフェイスを貫いていた。見事なものだ。
傷裏は小さなアタッシュケースを持っていた。それを開き、液体の入った小瓶、スポイト、太い縄を取り出しす。
まず太い縄を戸田の口に噛ませて声をあげられないようにする。
次に液体を数滴分スポイトに抽出、それを戸田の右掌の真上に構える。
「今からあなたを激痛が襲うので、その縄をしっかりと噛み締めてください」
スポイトに入った数滴分の液体を全部押し出す。
「んっっっっっっっっっっっ⁉︎」
声にならない絶叫があがり、戸田は拘束具から解放されようと必死に体を動かす。そんな程度で外れるはずがないのだが。
液体が落下した点が火傷したようにただれていた。硫酸だ。
動きが落ち着いたのを確認し、口の縄を下ろす。
「どうです? 話してくれる気になりました?」
「……これ……っ、違法じゃない?」
「あなたは人にそんなことを言える立場じゃないでしょう。目には目を、違法には違法をです」
「軍は子供に何やらせてんのよ……」
「子供かどうかなんて関係ないですよ。さぁ、2回目といきますか」
戸田が激しく狼狽したのが伺えたが傷裏がそれを無視、先の手順を再度行う。
「しっかりと噛み締めてくださいね」
今度は左掌に垂らす。
同じように悶絶する戸田。
全く動じずに同じ作業を繰り返す傷裏。
「2回目ですが、どうですか?」
「……あなた一体何者?」
「初めて会った間柄じゃありませんよ。まぁもっとも、殺し合いの場でしたけど」
「…………まさか、あの紅い機体に……」
「正解です。では3回目といきましょう。そろそろ痛みにも慣れてきたでしょうし、この縄はいりませんね。」
「え⁉︎ ちょっと待って!」
再び右掌に、今度は少し量を増やす。
絶叫が狭い空間に鳴り響く。
戸田の右掌は、直視するのもはばかれるほど焼きただれていた。
「そろそろ話してもらえませんか? そうしないと硫酸を使い切ってしまいそうなので」
「……話さないわよ」
あまりの痛みで意識が朦朧となりながらも、はっきりと宣言する。
「真の正義は私たちにある!」
傷裏は驚嘆した。これほどの責苦を味わっても、戸田の自我は崩れない。むしろより強固なものとなった。
傷裏はそれを素直に尊敬した。
その時、傷裏はふとあることに気づいた。
そして数秒の思案。
「戸田さん。あなたは2年前までは国防に所属していたんですよね?」
「……そうよ」
「もう1度、戻る気はありませんか?」
「…………は?」
戸田の威圧的な表情が崩れ、まさしく鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
傷裏は微笑する。
「実は僕、最近新設された部隊に配属されたんですが、現状はまだ僕1人なんです。だから人を増やしたい。でも軍の他の人たちは僕を子供と舐めてまともに取り合ってくれない」
アタッシュケースから保冷剤を巻いたタオルを取り出し、それで火傷部分を覆う。
「お願い、できますか?」
皮ベルトを外し、手を差し伸べる。
「情報を吐かせようとしても無駄よ。この程度、私は恩と思うつもりはない」
「わかってます。逃げたければ逃げればいい。その時は全力で潰します」
「操り人形になれと?」
「ここでこのまま死ぬよりマシでは?」
突如、勢いよく扉が開かれた。
数人の男たちが乱入。その中には東郷もいる。
「傷裏君、わたしは君にそこまで過大評価はしないつもりだったが、ここまでは想定外だぞ。そいつを軍役に戻すなんて……」
「大佐、あなたは先ほど言ったはずです。『口出し1つできん。君の一存である程度決まる』と。ならこの行為も、あなた方が干渉できるものではないでしょう」
「仮に、君が彼女をこの檻から出したとしても、軍に入れるかどうかは別問題だ」
「確か戸田さんは、行方不明リストに入っているだけで退役リストには載っていない。つまり戸田さんはまだ国防軍大尉です」
背後の群衆たちが苛立ちを露わにする。
それに反し、東郷は高らかに笑った。群衆や戸田、それに傷裏も呆気にとられる。
「傷裏君。やはり君を雇ったのは間違いなかった。面白いな、あぁ面白い!」
国防軍大佐、東郷平蔵。国益を守るためなら非情な命令を下すことを躊躇わない冷徹な人物であり、敗北を知らない天才策士。
一方で東郷は、技能はあるが性格に難がある変人ばかりを軍に迎え入れることで『かぶき者』とも呼ばれている。
それを知っていた傷裏は納得した。既に傷裏は、東郷の変人リストに加えられていたのだと。
同時に計画通りだった。東郷はこの収容所の所長を勤めている。彼にうまく気に入られれば戸田の出所を効率的にできると考えたのだ。
「その考え方、大いに結構。今の時代、君のような物事を斜めから捉えられるような人物が必要だ」
東郷は歩を進め、戸田に手を差し出す。
「戸田恵実大尉。貴殿の帰還を、心より歓迎する」
戸田は首を傾げながら傷裏を見る。
傷裏は小さく笑う。
「まぁ、死なないよりかはマシね」
戸田は東郷の手を握り、ゆっくりと立ち上がった。
「仕事がない⁉︎」
戸田の素っ頓狂な声が一帯に響いた。
傷裏と戸田がいるのは国防特務課のオフィス。事務デスクが4つ並ぶだけの小さな一室。その内2つを2人が使用している。
「ちょっ、どういうこと⁉︎」
「あの……その前に胸ぐら掴んで振り回すのやめてもらっていいですか? すごく辛いんですが……」
戸田の手が離れ、身なりを正す。
「僕らがいるこの部署……国防特務課の主な仕事は国内の治安維持です。テロの防止や不正行為を行う企業の調査」
「テロ防止……そんな役職によく私を置こうと思ったわね……」
「まぁ永世中立国である日本なんだから他の部署も仕事が多いわけではありません。が、それと比較してもここの仕事は指で数える程度しかありません」
「なんでよ?」
傷裏は人差し指をピッと立てる。
「仕事を全部、他の部署に取られているからです」
「は?」
「この部署、名目は治安維持ですが、本当の創設理由は僕を軍に入れるために他なりません。よって、適当に作られてしまったこの部署の仕事内容は既存の部署と被ってるものが多いんです」
「……なんかひどい茶番を見せられている気がするわね」
戸田が頭を抱える。
そしてふと、戸田は思い出すように言う。
「ねぇ傷裏」
「はい?」
「あなたはどうして、私を軍に戻そうと思ったのかしら?」
「ですから、このチームにできるだけ人を呼び込みたかったからですって。戸田さんの技能は既に把握済みですから心配はしていません」
「それだけ?」
「……隙をみてあなたから『ヤマタの集い』の情報を得ようと思ったから」
「本当にそれだけかしら?」
「…………………………………………」
押し黙った。
戸田は机の上で指をなめらかに滑らせる。完全に余談であるが、無駄に官能的だ。
「実際問題、いくら即戦力が欲しいからってあたしみたいなほぼ初対面の人間を迎え入れるのはおかしいのよね」
先ほどの傷裏を真似るように指を立てる。本当にどうでもいいが無駄に官能的だ。
「何が目的?」
やがて、傷裏は深い息を吐く。
抱え込んだ悩みを払うように。
重い荷物を下ろすように。
「戸田さん。僕、あなたを調べてみて疑問を感じたんです。戸田さんは2年前、なぜは消えたのか」
「そんなこと聞かなくてもわかってるでしょ? 私はあの作戦で『ヤマタの集い』と出会い、勧誘されて軍を裏切った」
「えぇ。というわけで1つ質問させてください。戸田さんはどうやって勧誘されましたか?」
それを口にするのははばかられたが、チームの今後に悪影響を及ぼすほどの議題ではないので言っても問題はないと結論づけ、語り始めた。




