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episode12・国防軍

 戸田恵実。京都府京都市。26歳。京都第3国防大学卒。国防軍機械化04小隊隊長。階級は大尉。特に空間認識能力や統率力に長け、隊員を絶対に死なせず帰還することで『ワルキューレ』と呼ばれていた。しかし2年前のある作戦を境に行方不明。以降目撃情報は無し。




「というわけで、『ヤマタの集い』のメンバーを1人、捕まえたわけだが……」


 市原の表情は、いかんせん嬉しそうというわけではなかった。

 国防軍国テロ事案対策課。傷裏、市原はそこに来ていた。

 昔の刑事ドラマで出てくるような小さな取調室らしき場所に、2人はいる。

 戸が開かれる。

 姿を見せたのは黒髪の壮年男性。威圧的な雰囲気を放ち、どことなく獅童に似たものを感じた。

 男は傷裏たちの向かいのイスに腰掛ける。


「わたしは国防軍大佐、東郷平蔵だ。よろしく」


 東郷が手を差し出し、2人と握手を交わす。

 獅童と似たもの、というのは威圧感だけではない。2人の最たる類似点は、傷裏を利用して何かを画策している、という点だ。

 そういった思惑を、表情から推測できた。


「わざわざ来てもらってすまない。なにぶんわたしたちが会っているのは内密にしたいものでね、こうしてご足労をかけてもらったわけだが……」

「前置きは結構。それより、うちの龍に何をお求めに?」


 東郷の言葉を斗真が断ち切る。

 はっきりと。

 これまた威圧的に。


「先日の作戦……スネークバイト作戦とか言われてるらしいですけど、あの場で起きた出来事は全て龍が説明したはずです。それは龍の機体の行動ログを確認して証明されている」


 ここまで述べたのは確認事項。

 以降は推測を交えた問い。


「だとしたら、あなたが求めているのは龍の力ではないのでしょうか? ビジネスの話、と言っても誤解ではないでしょう」


 傷裏は、空気が淀むのを感じた。

 大人たちの利権を中心に回る世界の、黒く焦げた、気持ちの悪い空気。

 そんな空気が数秒続き、やがて東郷が小さく笑う。


「市原斗真……やはりと言うべきか。君がどれほど異様な存在かは把握していたが、そこまでお見通しか。いやはや怖いな」


 東郷は自らの足を強く叩き、顔を引き締める。


「では本題に入らせてもうか」


 東郷の懐から電子マネーカードが取り出され、傷裏の目の前に置かれる。


「中には5000万入ってる。これを前金、さらに月400万で国防軍に入隊してくれないか」




 日本は永世中立国である。第3次世界大戦には不干渉、現在最も平和な国と言われているゆえんもここにある。

 が、日本は中立国であると同時に他国の属国化が懸念されている。

 第1に、数世紀前から沖縄等に置かれているアメリカ……今はACUの軍基地だ。これは今でも活動を続けており、東アジア連合国侵攻のための中継基地として使われている。

 次にその東アジア連合国。年々諸物資の国内自給率が悪化の一途を辿る日本にとって、東アジア連合国は重要な貿易相手国となっている。

 ACUに領土を奪われ、東アジア連合国に経済市場を奪われ。

 日本は今現在、左右の巨大国家によって板挟み状態にされているのだ。

 ゆえに、日本が両国に対抗するため軍事力に力を入れているのは必然。


「……本気ですか? 僕のような子供1人雇用するのにそこまで金をかけるなんて……他の兵士一同が黙ってるとお思いで?」


 半ば呆れたように、傷裏は問いかける。

 東郷は薄笑いを浮かべながら肩をすくめる。


「心配は無用。これは既に上層議会で議論が済み、その上でこの額だ。ちっぽけな兵士や士官程度の反論を素直に飲む気はない」

「……僕は、パイロットへの負担を減らすためにテストパイロットをやっているんです。人殺しのためでは……」

「人殺しの兵器に乗っている時点でそんな甘えは通じんよ。いやそれ以前に、君はつい先日に2人、殺したじゃないか」


 返す言葉が見つからなかった。

 それは否定できない事実だ。

 人殺し。

 自衛と称し行った行為。

 人殺しという泥団子の表面に金箔を塗って鮮やかにしても、箔を剝げばどす黒い中身が露見する。

 改めて、自分のやったことに恐怖を覚えた。

 それを見かねた市原が机に乗り出す。


「大佐殿、その商談は確かにこちらの利となりますが、やはりまだ17の傷裏には荷が重すぎると思うのですが……」

「ではこうしよう。傷裏君への報酬とは別個で、BP機関に月800万の資金援助をしよう。それで手を打ってくれないか?」

「……チッ」


 市原はわざとらしく舌打ちをする。

 BP機関は政府直属機関ではあるが、与えられる予算は微々たるもの。東郷はそれを狙いにきた。

 が、市原も2つ返事でYESとは言えない。そう簡単に答えを出せるものではない。

 なので、最悪の場合を考慮して最低限の情報程度は引き出す。


「大佐殿、国防軍は龍を、一体どのような役職につかせるおつもりで?」

「傷裏君には新設されるある特殊部隊についてもらうつもりだ。階級は……少尉辺りが無難だろう」

「……よほど国防上層部は、龍がお気に入りなんですね」

「あぁ。彼のような才能の持ち主は、それを開花させる義務がある」

「強大な力を持つ個人を手元に置いて自分たちに牙をむかせないため、じゃないんですか?」


 沈黙。傷裏はもうすっかり、この互いが互いの本心を抉る空気に、慣れてしまっていた。


「それで、その特殊部隊とは?」

「これだよ」


 東郷から携帯端末を受け取り、資料にじっくりと目を通す。

 やがて、市原は小さくため息をついた。


「国防特務課……ですか」

「わたしが所属している対テロ事案対策課の幅を広げたものと考えてくれて構わない。国内テロ、不正企業の調査などだな」

「要は便利屋じゃねぇか」


 傷裏が吐き捨てるように言った。

 いや、違う。

 目つきはつり上がり、ピシッとした姿勢は猫背に崩れ、今までの清楚な雰囲気が一瞬で消失した。


「……なるほど、君が噂に聞いていた『タイガ』君か。お初にお目にかかる」

「……俺のことはご存知かよ」

「それはもちろん。1年前から傷裏龍の精神に生まれた別人格。……あぁ」


 何かを思い出したように、東郷は口を開く。


「1年前というとあれだね。君は確か石川に住んでいたそうじゃないか」


 ゾクっと、『タイガ』は背筋が凍る錯覚を感じた。


「で1年前と言えば、あの事件があったね。そう、兼六園焼失事件!」

「や……めろ…………」


 『タイガ』は顔を手で押さえつけながら静寂を求める。

 東郷はそれに聞く耳を持たず、嬉々として言葉を続ける。


「あれは凄惨な事件だったな。死傷者は多数。国の芸術である兼六園は灰となった。」

「やめろ……やめろ……っ」


 心の奥底に押し込んでいた記憶が光速でフラッシュバックする。

 紅蓮の炎、鳴り止まぬ断末魔、積み重なる真っ黒な焼死体。


「あの事件、犯人はまだ捕まっていないらしいじゃないか。恐ろしいね、そんな人間が太陽の下を悠然と闊歩していると思うと……」

「やめろと言っている!」


 『タイガ』はその足を机に乗り上げ、裾から数本のナイフを展開、それを東郷に触れる数センチ手前に突きつけた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「何を焦って息を荒立てているのかね? 大丈夫かい? 医者を呼ぼうか?」

「いや…………結構です」


 傷裏は、『タイガ』ではなく傷裏は、なんとか自我を取り戻し、席に座り直す。


『おい龍、こいつはマズイ。早く潰しておかねぇと大変なことに……』

「黙ってて!」


 声を張り上げ、脳内で響く声を止める。

 10秒間、じっくりかけて呼吸を整える。


「……わかりました。入隊します」

「なっ⁉︎ 龍、お前……」

『おい、一体何考えて……』

「ただし!」


 周囲の声をかき消す。


「先ほど大佐が提示した金額の他に、2つ条件を」

「条件? 言ってみなさい」

「まず1つ目は、僕が入隊したことは原則的に機密事項ということで」

「了承した。それで、もう1つは?」


 2つ目の条件。

 それを口にするのに、さらに10秒要した。


「兼六園焼失事件に関する…………ありとあらゆる情報を僕に、開示してください」

「……了承した」


 こうして、傷裏龍は国防軍少尉の座に座ることとなった。

以前ご指摘があったので、主要キャラクターの名前の読みを貼らせて頂きます


傷裏龍(きずうら・りゅう)

黒崎梨々(くろさき・りりか)

市原斗真(いちはら・とうま)

青島寿夏(あおしま・じゅか)

柳沢織(やなぎさわ・しき)

唐沢冬夜(からさわ・とうや)

黒崎獅童(くろさき・しどう)

室井静香(むろい・しずか)


誤字脱字などがあればご指摘願います

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