盲目魔術師と17歳少年
「なあ、なんでこんな辺鄙なとこまで来たんだ?」
宿屋までの道のりに飽きた俺は、休憩がてら、荷物に紛れ込んでいる変な女に声をかける。
「私のことが見えていたのカ。ここまで連れてきてくれた商業ギルドの男も声をかけてくれないから、誰にも見えてないものだと思ってたヨ。」
声をかけられて嬉しいのか、女はニヤニヤしながらコチラに顔を向ける。
「あの人は運ぶことだけが仕事だから、荷物の数があってれば気にしないんだ。」
見るからに不審物だから触れたくなかったんだろうとは口にしない、俺は声をかけちゃったし。好奇心には逆らえないよな。男の子だもの。
「で、なんでこの村まで?」
そういえば、荷物の数を数えていない、八つと伝言されたけど、この女は含まれているのだろうか。
「イヒ……この村で待ち合わせの約束があるのサ。」
笑い方が怖い……笑われた理由はわからないけど、目的はわかった。
よそ者はすぐわかる、見かけたら宿屋に案内してあげようかなと、己の親切心に感心しつつ、また荷台を進め始めたところで、荷物女の行き先を聞いていないことを思い出した。
「他の荷物たちと一蓮托生でね、宿屋まで頼むヨ。私は荷物女だからネ。」
何も口に出していないのに考えたことに返事が返ってきた。
思考を読まれたのか、その結論にはあっさりとたどり着いた。
顔を隠していたり、大きい帽子、子供のころに聞いた、おとぎ話に出てくる魔術師や占い師の恰好と同じだからかな。おとぎ話だともっと爺さんや婆さんが出てくることが多かったけど、荷物女もそういう変な人なんだろう。
見た目、ちびっこだけど。
魔術って何ができるんだろう、そんな想像を膨らませながら歩いていると背中に視線を感じる。また思考を覗かれているのだろうか。
「君にお礼がしたいナ!」
突然すぎる、俺は荷物を運んでいるだけだが。
「荷物を運んでくれているからだヨ!」
思考を読まれても動じなくなった。
親父にあとで自慢しよう『俺は言いたい事が全部顔に出るから喋らなくても対話できるんだ』仕事に就くなら、外交官とかになれるかもしれない。外交官がどんな仕事かは知らないけど。
親父とのくだらない会話を想像しながら、改めて荷物女を観察する。
膝を抱えて丸くなって座っているから小さく見える、いや実際に小さい。
少女だって言われても疑わないサイズ感だ。これくらい軽いなら、普段の労働と変わりないってことだ。
「お礼なら宿屋の女将さんが朝飯くれるからいいよ、アンタはただの荷物だし。」
実際、女将さんのごはんを目当てに仕入れの荷物運びを手伝っている。
普段やっていることに改めてお礼と言われてもしっくりこない。「ありがとう」とか言われれば明日も頑張れるんじゃないかな。
村で一番の親切男、原動力は日々の「ありがとう」ということで!
……貰えるものは貰っておけと、頭の中の女将さんからげんこつが落ちてきた。日々の生活と戦っている女将さんの言葉には従った方がいいのかもしれない。
「イヒ……こんな姿でも大人なんだヨ。子供のお手伝いにはお駄賃をあげたいお年頃なんダ。それに商業ギルドには金を払ったけど、君には何も渡してないからネ。対価は大事だヨ。」
笑い方が怖い……女将さんのげんこつに哀れみを持ってくれたのだろうか。想像の中だけど。
さて、対価とはいうけど、荷物一つ持ってるようには見えない。荷物女は冗談のつもりだったけど、ほんとに旅人じゃなくて荷物として運ばれているのかコイツ……?
「……舐るような視線を感じるのだケド。興味があるなら春でも売ってあげようカ?」
春を……売る?今は夏だ。春の花でも咲かせて見せるのかな。魔術師っていう想像は正解かもしれない。
「イヒ……よかったヨ。無知な少年じゃなく、健全な少年をからかえたようダ。」
「魔術師ならもっとときめくお礼をくれよ。」
うーん、ヨコシマな想像はしてないつもりだったんだけどな。
春にときめかないわけじゃない、俺だって男の子だし。
ただ、ちんちくりんすぎて年下にしか見えない、女将さんの方が魅力的だよ、うん、強い女って感じでね。想像でもそう思っていないとげんこつが落ちてくるんだ、魅力的だろう?
「これがさ、おとぎ話のような伝説の始まりなら、魔法の剣とかくれそうじゃないか?」
あれ、魔法の剣をくれるのは、魔術師じゃなくて湖の妖精とかだったかな。
「ふむ、私の考える魔術師らしいというのは、おとぎ話とは少し違うケド……まあ、君の想像に近いものを準備しよう、楽しみにしておくといいヨ!」
自分が魔術師という点は否定しないらしい。魔術師なら辺鄙なとこに来た理由もわかる。
いや、わからないけど、変な理由があるんだろうな。それか田舎のうまい空気を吸いに来たとか。この辺りは血生臭い方だと思うけど。
そんなことより、魔術師らしいお礼と聞くと少しはワクワクしてきた、火とか水とかを操るなんて話も聞いたことある。消えないロウソクとかあったら便利だろうな!
「本を読む習慣がないなら、消えないロウソクはいらないんじゃなイ?」
決めつけられた。反論はできない、俺の家には本はない。
不機嫌に黙りこくっても、道中で思考を読まれ続けて荷物女の独り言を聞き続けることになった。
独り言を続ける荷物女とそれを無言で運ぶ男、奇妙な光景だと思う。誰にもこの姿を見られていないことを祈ろう……。




