20代会社員の遭遇した異空間
お昼過ぎ、時刻は15時を回った。
「ちょっとたばこ吸ってきますわ」
同僚に一言声をかけ、喫煙室へ向かう。いつもの廊下、いつもの自販機コーナーを通って喫煙室に入る。
「おっ、おつかれー」
先に入っていたのは同じ課の主任、足立 雪だ。教育係であった彼女とは、ここ最近話ができないほど自分へ部長からタスクを仕込まれていた。
「主任、お疲れ様です」
「ここに来たはいいんだけどタバコ忘れちゃってさ、1本くれない?」
「いいっすけどサロメ産の葉使ってますよ? 主任、嫌いじゃなかったですか?」
「もらうのに好き嫌いは言わんよ~おねが~い」
上目遣いでお願いされる。歳は6も離れているのにこんなにも可愛く見える。俺が異常なのだろうか。
「どうぞ」
「マジ神! たすかる~」
数分、たわいもない世間話をして主任は先に喫煙室を出て行った。さらに数分後、自分もゆっくり吸ってた煙草を吸い殻入れへ捨てる。
「戻るか」
そう…ドアを開け、廊下に立って気が付いた。一瞬でここが異空間だと確信し、”イマココ!異空間”を起動する。廊下を撮影しすぐさま喫煙室に戻った。なぜすぐに分かったか? それは窓がない廊下の奥から夕陽が刺していたからである。そして戻った喫煙室も部屋が夕暮れ時の太陽に照らされている。上は確かに天井があり、ドア以外に蛍光灯の光を取り入れるところがないはずだ。
ピローンとマナーモードの携帯から診断完了通知が届き、急いで確認した。
「異空間回廊”黄昏時”深度6…」
深度の深さに背筋が凍った。電波もみるみる遠のいて、かろうじて課長に現状を伝えたところで圏外になってしまった。ニーホンの到達深度は4なので、世界異空間機構支部の設置する”異空間波”と呼ばれるWi-Fiの様な設備は深度6には存在しない。ただ、携帯の電池が続く限り、その地点から現実に救難信号が送られる。
「6…6なぁ」
仕事は異空間に入ってしまった時点で脱出までの時間は有給扱いになり、稟議さえ上げれば仕事に支障はない。問題は帰れるかである。とりあえず廊下に出て本来自販機のある場所まで歩みを進める。
そこには夕日に不自然に照らされていない自販機があった。つまり自販機だけ”現実”にあるのだ。異世界で蛇口の水を飲むより確実に安全に食品が手に入る。
焼きそばパンと緑茶を買い、椅子に座った。普段ならキーボードを叩く音や、会話の雑音などが聞こえる位置にあるこの椅子も、今は静まり返り、”イマココ!異空間”のセラピー音楽だけが流れている。
椅子に暫く座ってから辺りを散策しだした。
と、いうのも自分のデスク、自販機周り、喫煙室など、”イマココ!異空間”で診断し、一番浅い深度の位置を見つけようとした。最低深度が努力が報われ、自分のデスクが4であった。”異空間波”に接続し、課長へメッセージを入れる。向こうから返信は届かないが、こちらの状況は伝わったはずだ。
数十分後、異空間機構ニーホン支部の救助隊が到着した。最終的に喫煙室内へ戻り、特殊な装置で現実へと帰還を果たした。同僚は涙を浮かべて生還を喜んでくれた。
最後に、異空間機構職員から”イマココ!異空間”のアップデートを推奨された。そういえば先日のは行い忘れていた。感謝を述べ、彼らを見送った後、アップデートをすぐに行った。このアプリが今や全国民の生命線なのである。それを時間し、痛感した一日となった。
”イマココ!異空間” 機能説明
1、空間異常の検索、診断
2、診断後レベル5以上の場合の救難信号
3、異空間で精神的な異常を起こさない安定する音源の再生
世界異空間機構が開発した異空間対策アプリ。異空間遭遇時の遭難者発見及び救助現実世界への復帰を世界中で手助けしている。一部国では未導入、または拒否されているため使えない場所もある。また、支部によって到達深度が違うため、救助が確実かは保証しかねるところである。我が国”ニーホン”においては探査深度が4まで進んでおり、携帯端末の圏外化を防止する”異空間波”と呼ばれる特殊通信電波発生装置の設置がされている。
余談ではあるが、深度が深いからと言って神出鬼没なわけでもない。空間が固定。異空間機構の用語で、”固定化”してしまったところはいくつかある。一般人の入れる空間もあり、決して深度10だからと言って完全に帰れない危険な空間と言うわけでもないのだ。




