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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
神が鳴る
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光の先


「なぁ、今まで人間に見つからなかったのか?」


手付かずの水晶たちを指先でなぞりながら、ゆったりと歩くシンフィへ尋ねる。


どう考えてもお貴族様たちが欲しそうな輝きに満ちている空間が開拓されずにいることに疑問を持ったのだ。


『我にそれを問うか』


若干不機嫌そうに返されたシンフィを見て、霳太郎はアッと思い出した。


そう、彼は神獣なのだ。


たとえ穴があったとしても人間に見破られるほど弱々しいカモフラージュはしてないと言うことだ。


愚問だったようだ。


だが、ムッツリしているシンフィを見ていると、その巨体とのギャップでなんだか可愛く思えてしまった。


『わしの威厳が…』


……ここに皆高がいたら迷わず飛びついて撫でくりまわしているだろうな。


しかし霳太郎は安眠のための毛皮を愛しているだけであって、彼のように動物LOVEなわけではなかった。


ネコ科には目がないのだが。


『お前さん…、案外恐ろしい考え方をするのぅ。ここには狼もいるが、大切なわしの友人たちじゃ。毛皮として狩ってくれるなよ?』


「……あの狼たちも友人だったのか」


『ああ』


「そうか」


『お前さんは変わっとるの。人間は何かと謝るものかと思っておったが』


「謝んないぞ。殺らなきゃ殺られてたんだ。それに、謝ったら殺したことが間違いみたいになるだろ。その方が失礼になる」


『くくくっ。面白い。この国の奴らとは違うようだな』


いやいや、あんな貴族たちと一緒にしないで欲しい。


金持ちたちみたいに密猟とかは断じてしないし、害獣討伐の時しか毛はもらわない。


リサイクル大事です。


だが、シンフィが毛を少しだけ分けてくれるのなら……。


『おい、それ以上躙にじり寄るんじゃない!なんじゃその手は!!』


ちっ。


神獣のレア毛布とか想像しただけで今すぐ眠れるんだけどなー。


ケチめ……。


『やかましいわ。わしをなんじゃと思うとる。全く』


毛を触る触らないの攻防を繰り広げながら進んでいると、あることに気がついた。


魔獣がいない。


そう、ここは本来なら彼らの住処なので魔獣がいるはずなのだ。


霳太郎はそこをかれこれ10分以上は歩いているにも関わらず、魔獣似合うどころか気配すらしない。


視線も感じないってことはどこからか見ているわけでもない。


『ふっ。わしがいるからの。そのような不躾な真似はせんよ、あいつらは』



……。


あまり心を読まないでほしいんだが。


プライバシーの侵害です。


『ぷらいばしぃ?』


「……なんでもない」


こら、言語チートよ、仕事しなさい。


しかしなるほど、完璧な英語はこっちの言葉には変換されないのか…。


それともその概念自体が存在しないのか。


……ん?


ってことは「チート」とか「レベル」なんてのもわからないのだろうか?


『ちぃと?』


シンフィを振り返ってもハテナマークを頭に浮かべていた。


…なんかその舌ったらずな感じ、あざといぞ。


少しきゅんとしてしまったじゃないか。


なんか色々言わせたくなってきたぞ。


「なら、HPは?」


『エイチピ?』


「ぶふっ。じゃ、じゃぁサンタクロース」


『さんたくり…』


「プリティー」


『……わしに言うことじゃなかろう』


「!?」


言わせるたびにプルプルして笑いをこらえていたのに、急に血の気が失せた。


言葉わからないんじゃなかったのか。


『ふっ。お前さん案外わかりやすい性格をしとるのう』


……。


だ、騙された!!


カマかけだったのか、くそう。


図体はでかいのに可愛いと思っていたんだが…。


さすが神獣、年季が違う。


『さて、遊びはここまで。ここからは命の保証はせんし、自己責任でな』


今まで守ってくれてたのか。


と言うことは友人さんに襲われても隣で死んでも助けないってことか。


なんという薄情な。


そう思っていると、最後まで面倒見られるか!と一蹴されてしまった。


神獣さんは結構面倒臭がりだそう。


ふっ、気があうじゃないか。


神秘的な空間が続いていたため同じ道を何度も通っているような感覚になりつつあった頃、やっと違う景色が視界になだれ込んできた。


「川?」


『正確には湧き水じゃ』


ちょろちょろと床で細く流れている透明な水は暗闇の向こうへと続いている。


坂道になっているのだろうか、流れは滞ることなく水晶の光を反射しながらキラキラと揺れていた。


壁のクリスタルは少しだけ減っているように感じる。


それは出口に近づいているからだそうだ。


どういう原理なのかは知らないが、すくって飲んでみると結構甘かった。


果実水っぽい、のか?


「って、あれ?」


なんか眠くなってきた。


『……忘れておった。その水は人に害を及ぼすと言われている』


「なっ!まさか毒」


『あるものははふらふらと足取りがおぼつかなくなり急に笑い出すという。またあるものは急に倒れ、さらにあるものはその水を他のものに掴みかかり強要するという。これと同じ水がよそにはあるのだがそれは市場でも売られているらしいな』


「それってまさか」


『酒というらしい』


バシャアンッ


『ぶっ!!おい!何をするこの若造!』


「何をじゃないわこの年寄り!回りくどい!」


神経毒かと思っていた水はまさかの果実酒だった。


しかも、一口で人を酔わせるとはよほど度数が高いのだろう。


…飲んでしまった。


あぁ。確認するべきだったなぁ。


隣には全知に近い神獣さんがいらっしゃるというのに。


あ、でも酒のことを知らないようだったから俗世界には疎いのかもしれないな。


あぁ、自分が何を考えているのかもわからなくなってきた。


視界がグラグラする。


揺れる。


あ、ひっくり返った。


『おい。わしを布団にするな』


なんか遠くで声がするけど知らん。


今はこのもふもふに埋もれて寝ることが霳太郎の使命であった。


大型犬のもふもふを枕にして寝るという夢やっと叶ったのだ。


……今、堪能しなくて。


いつ…堪能……するんだ。










『神よ、こやつは規格外にもほどが……。普通人はわしらを本能で恐れるのでは…。ほう、ことわりから外れたものですか。しかし、それは……。そのようですがしかし……。承知いたした。……すまんな、リュウ」


聞こえていたはずのその声は、いつの間にか深い眠りとともに暗闇へと吸い込まれ原型をなくしていた。


昨日見た夢のように、次の日には思い出せなくなっていたのだ。


このときちゃんと問いただしておけば、あいつらのふざけた遊びに付き合わされるハメになんかならなかったんだけどなぁ。










目が覚めてもそこは相変わらず眩しいくらいの月光を放っていた。


太陽とは真反対の光色をしたクリスタルたちは今日も不眠不休で活動しているらしい。


ちょろちょろとした水の流れに自然の癒しを感じながら起き上がった霳太郎は、やっと自分が岩肌むき出しの地べたに寝転がっていたことに気がついた。



「あれ?シンフィ?」



振り返り辺りを見渡してもそこは水晶しかなかった。


もふもふを堪能して眠りについたことまでは覚えているんだが、そこからは記憶が全くない。


あいつ、どこに行ったんだろうか。


熊だし、餌取り?


いやでも神獣って食べ物必要なんだろうか。


そういえばこの世界のことについて全く調べていなかったな、という今更な気づきに自分自身で呆れながらのそりと歩き出す。


城の書物庫なんかで調べておけばよかった。


たとえここから出られたとしても、この先にどこに村落や街があるかなんて全然理解していなかったのだ。


食料品なんかは登山用のものをそのまま身につけているからなんとかなるだろうが、せめて魔獣なんかの情報は欲しいところだ。



ワオォォォォォン



「……そんなことよりも、ここを出られるかどうかが怪しくなってきたかもしれない」


空気に響く遠吠えを感じて鳥肌が立った。


友人さん、その声はどういう意味の呼び声でしょうか。


シンフィがいなくなったことで少し辺りが暗くなたような、周りの魔獣の気配がするようになったような…。


疑心暗鬼に顔を引きつらせながら水の流れに沿って進んでいく。






何度か分かれ道に遭遇したが、水の流れる音が聞こえる方へとどんどん突き進んでいった。


その間にもクリスタルたちは光を放ち続けている。


たまに自分の顔が反射して写り込んでいるのを見ると、鏡迷路に迷い込んだ気分になる。


カーブを描きながら続く道には時々狼やキィという甲高い音が聞こえる以外は何もなく、突然視界が開けた場所に出るとその音量は増した。


「ここ…湖になってたのか」


上流から下ってきた水がここにたまり、かなり巨大な湖と化している。


そこは真っ暗になっているほど深いのだろうか。


転がっている石ころを投げ入れてもすぐに見えなくなった。


酒のせいか、甘い香りにクラクラするがなんとか意識は保てれている。


そこに狼の遠吠えが反響するもんだから頭が痛くなってきた。


出口をうろうろ探していたが、どこにも穴なんてないし、道は今来たばかりの個所一択だった。



「天井は高いが通れそうな場所なんてないしな…。それ以前に高くて届かないし。どこだ?」



ウ”ウ”ウ”ゥゥ


!?


ハッとして振り返った瞬間、足音なんてしていなかったのにそこには狼たちの群が広がっていた。


彼らは一本道を塞ぐようにして立ちふさがっている。


数は…20以上はいるだろう。


敵意をむき出しにしてこちらに唸っている奴らがにじり寄ってくる。


先頭にいるのはひときわ大きいボス的な狼。


こいつだけ目の色が違うな。


シンフィと同じ金色ってことは、こいつもしゃべれたりするんだろうか。


「なあ、シンフィの友人さん。出口がどこか知らないか?」


いや、知らないわけなんてないんだろうが。


まぁ、しゃべれるかどうかの確認だ。


しかし、しばらく待っても唸ってくるだけで何も返答はない。


一人で喋っていて虚しくなってきた霳太郎がそろそろ口を閉ざそうとしたその時。


ガゥアッ!


「嘘だろ!?」


一斉に飛びかかってきた狼たちは猛スピードで近づいてくる。


折り畳み式棒はシンフィと戦った時になくしているし、残りの道具は!?


即座にリュックのポケットに手を突っ込んで取り出したのは、塩の袋だった。


「なんで塩?」


そのジャラッとした塩をぽかんと凝視していると。


そこで霳太郎は思い出した。


そうだ、地上で料理担当をしている時に騎士たちから貴重な調味料として味付けを押し付けられたのだ。


他にもはちみつや紅茶の葉を持たされて料理人の真似事をされたことを。


そのせいでリュックの中には料理道具や食料品ばかりがぎっしり詰まるハメとなった。


「だからって………今出てこなくてもいいだろおがぁぁぁぁ!!!」


ふつふつと騎士への恨み嫉みが再発してきた霳太郎は、怒りに任せて握りしめていた塩袋を狼たちへとぶちまけた。


キャインッ


「へ?」


こちらへ向かっていた狼たちが下を向いて転がっていく。


暴れている狼もいるが、顔を擦って目を閉じているところを見ると。


塩が目に入ったのだろう。


前が見えずに涙を流しながらヨタヨタと他の狼にぶつかっている。


塩……以外と最強かもしれない。


「グルァァァ!」


「ぐっ!?」


それでもひるまなかったのはさすがボス狼、目をつぶりながらでもタックルをかましてくる。


塩に歓喜していた霳太郎は反応が遅れて目の前まで迫った狼の背中に、とっさに腕をクロスさせることしか間に合わなかった。


体が宙に浮く感覚と、右腕のミシリという嫌な音を聞いた後、背中から鋭い衝撃が訪れた。


息を吐き出した際にゴボっとした空砲が浮かんだことから、湖に落ちたのだと気がつく。


息苦しさに這い上がろうとするが、リュックが重くてうまく上がることができない。


あがいても沈む。


これ以上もがいて息が溢れることを危惧した霳太郎は、リュックを外して這い上がった。


「ぶはっ、はぁ、はぁ……!?」


「ギャオォォォ」


水面に顔を浮かべた瞬間。息継ぎをする間もなく金色の狼が頭上から飛びかかってきた。


お前のその跳躍力はなんなんだ!


本当、この世界の重力ってどうなってるんだよ!


霳太郎はむき出しの牙から逃れるように再び湖へと潜った。


空振りした狼はがちんと顎を鳴らしてワニのように口を開いては閉じてを繰り返している。


犬掻きで近づいてくる。


さらに潜る。


耳が痛くなってきた。


追ってきた狼の爪がかすって腕から血がにじむ。


くそっ。


ここで沈むだけか……。


狼は息継ぎのためか戻って行く。


だが、霳太郎は上がればかみ殺されるだろう。


息も続かない。





羨望を込めて水面を見上げると。


水面から差し込む綺麗な光に目を細める。


そのまま沈んでいくかのように思えたが、目の前に濁った一筋が漂う。


血か。


引っ掻かれた傷から血がにじみ出ていた。


ピリッとした痛みが腕に戻ってくるがどうでもい………


ん?



血が上へと上がっていくかと思った。


しかし。


実際には斜め下へと降りて行っているのだ。


外へ水が出る働きが加わって、流れて行っているのだろう。


血が吸い込まれるように下へと続いている。


一本の赤い線のように垂れ下がっているそれは少し渦を巻きながら見えないそこへと繋がっていた。


どうせ、ここにいたって死ぬんだ。


行ってみるか。


だが、あまり期待はしないでおこう。


期待をしてどうにもならなかった時の絶望感を彼は知っていたから。





霳太郎はその道標みちしるべに沿って沈んでいった。


本当に出口なんてあるかはわからない。


だが、これに賭けるしかなかった。

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