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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
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白い不信

今回の「魔法適性」の紹介は、皆高です。

「後書き」にあるので、興味ある方はご覧下さい!


次回は「魔石」についてを紹介します。

寒さでしみる目を瞬かせながらはーっと息を吐くと、霧が濃くなった。


白い。


息を吐くたびに空気が白みがかり空に昇って行く。


それを見ているだけでこたつが恋しくなる。


窿太郎は寒さに弱かった。


だが、野生の動物が冬がやってきたら冬眠の準備をするのと同じように、あったかい場所を求めるのは間違っているだろうか。


いや、間違っていない!


と、思いたい。


そんな、冬が来るたびにこたつに入り極力動かないのを志していた人間が、急に雪の中表へ出ろというのは酷というものだろう。


その結果、窿太郎の見た目は肥えた豚のように真ん丸としていた。


「・・・お前着込み過ぎじゃねぇか?」


「雪だるまかよ」


「動きづらくないですか・・・?」


三者三様の反応を目の前にしても苦情は受け付ません。


愛用のマフラーを口元まで引き上げ、頭皮の凍結を防ぐためにニット帽を被っている。


そして何枚も重ね着したその姿は服の白さも相まって……。


ええ、雪だるまのようにふっくらとしているでしょうよ。


防寒具は支給されていたが、どれも温暖な気候で暮らしてきた窿太郎にとっては耐えられるものではなかったのだ。


というか、真冬の北海道のような寒さで防寒コート一枚だけとかありえないでしょうが!


という彼の反論は、誰にも受け入れられることは無かった。


全員、防寒の魔法(初級)を貼れているが、窿太郎は全ての魔法に適性が無かったため、そんなものは習得出来なかったのだ。


つまり、自力でなんとかしろ、というわけである。







さて、窿太郎たちは今、雪山のふもとに位置する軍事施設のような木造建築の中で着々と登山支度を始めている。


といっても、純日本人、しかも坂はコンクリートしか普段は登らない彼らは登山なんかしたことない。


中には趣味で行く奴はいるだろうが、そんな趣味を持っているのはごく少数派だと思う。


じゃあなぜみんな仲良く雪山に登山なんかしにきているのか。


今思えば窿太郎たちが森へ行っていた時から計画されていたのかも知れない。




____________


窿太郎が、塔の上から戻った翌日。


森から帰ってこなかった連中は28人。


それを聞いた国王が哀悼の意を表して、一つ欲しいものを与えるという約束をしてきた。


ここで窿太郎が「はぁ?」と声を漏らしてしまったのは、誰にも責められない。


……はずだ。


悲しみを物欲で満たそうとする発想に窿太郎たちは心底呆れていたのだ。


だが、それ以上に拒絶反応を示したのが友達を置き去りにされた生徒たちだった。



「ふざけんじゃねぇぞ、エセ国王が」


「何が哀悼だ。置き去りにしたくせに!」



その目には軽蔑、侮蔑、悲哀、憎悪の感情がとぐろを巻いて鎮座していた。


信頼していた騎士たちに助けてもらえずに死んでいった友を思って憤るのは、当然の感情にも思える。


彼らを見ていると少し心が重くなるのは窿太郎自身ののエゴだろうか。


だが、また違った答えもあったようだ。


「俺らには力があるんじゃなかったのか!」


「死にかけたんだぞ、それに対する謝罪とかないのかよ!」


不満をこぼしたのは力に陶酔している奴らだったが、どうしてかそう言った生徒の方が人数的に多かった。


喚き散らしてる彼らの目は血走っている。


それはもう野生動物並みに。


大丈夫かな、日本人。


いやまあ、窿太郎も日本人なのだが。


内心を顔に出さずにちらっと視線を逸らすと、王族などはそのおごった態度を口を歪めて見下ろしていた。


その歪んだ顔は醜く、おもちゃを見つけたかのような好奇心に満ちた眼光に、腹のなかで黒くて重いものが這い上がってくる。


利用されるのは百歩譲っていいとしよう、誰とも知らない奴におもちゃにされるいわれはないのだ。


久々ににじみ出てくる苛立ちを獣の毛皮を触って発散させる。




そう!


ついに魔獣の毛皮毛布が完成したのだ!


毛布はさすがに持ち運びができないため、いつでもその感触を楽しめるようにストラップ程度の、小さなぬいぐるみとして持ち歩いている。


えぇぇ、男子が裁縫?


陰キャじゃね?


と侮るなかれ!


家庭科授業満点。


縫ったぬいぐるみたちは奥様やお子様に大反響。


裁縫限定主夫と絶賛された俺の腕に狂いはない!!



「…天野っち、本当にそれ持ち歩いてるんですね〜」


「先輩、貴族たちもドン引きしているんですけど……大丈夫ですか?」


「もふもふ……」


「……だめだ聞こえてねぇ。目ぇキラキラしてるし。こいつの見た目にぬいぐるみとか暴力でしかねえよ」


「窿は昔から器用だったからね。小さい頃なら可愛かったけど、今の年齢になってからはちょっときついものがあるね……」


「……私も窿が作ったぬいぐるみ欲しい……」



今回の謁見の場には、珍しく悠真と蓮華も同席していたのだが、その登場に気が付かないくらいに、窿太郎はモフモフの癒しを欲していた。


窿太郎の心はもう毛皮の虜なため、外野の野次などは聞こえていなかった。


ああ、この至福をわけてやれれば皆癒されるのではないだろうか。





というのも、森での件や貴族からのちょっかいで生徒は憂鬱ゆううつとした雰囲気になっているのだ。


中には人間不信なったのか、情緒不安定になる生徒も少し出てきている始末。


そんな中にいるのは苦痛だったため、窿太郎は持ち前のサボりスキルを総動員させて空気のように逃げ出し、以前見つけた塔で昼寝するのが日課になっていた。


メイドさん方にも見張られていたが、やる気のない勇者として放置してくれているらしい。


あ、もちろん訓練は続行しているぞ。


サボッテナンカ、ナイデスヨ?





あいも変わらず、何かと毒舌なアルヴィスさんと鬼畜を体現したかのようなセイのもとで剣と魔法を習得している日々。


訓練中も二人からの探るような目つきにジワリと汗をかきつつも、どうにかこうにか掻いくぐることに成功している。


俺は空気、俺は空気……。



ちなみに成長の早かった鳴海と皆高は、セイから悠真たちと訓練を一緒になるようにことづけられたという。


皆高がハイテンションで自慢してきたのでとりあえず潰しておいたが。


鳴海は時折あちらの現状や情報を色々探ってきてくれているのでかなりありがたい。


たまに、誰が浮気してるとか、懸想している、とか言った、いらん情報まで落とし込んでくるのさえなければね。


本人曰く、スパイや間諜になることが昔からの夢だったとか。


よくわからない奴である。






そんな彼女によると、上の奴らが何やら不審な動きを見せているらしい。


上級クラスの生徒に、魔力を石に込めさせて大量に蓄えているとか。


それに、悠真と一緒にいても康介の姿を一切見ていないという不可解な話もあった。


上級クラスへ2人が移動したことで彼らと会える機会が減ったのは、現状をかんがみて厳しいところだが、文句は言ってられない。


すれ違う時などでさり気なく情報を交換出来るのは幸運だった。


だけど。


出会い頭にいちいち突きを繰り出さないでくれるかな、蓮華さん!!


本当にいつか死んじゃうから!


それ真剣って、わかってんのか!


と、一度文句を言ったことがある。


すると、


「窿なら死なないから大丈夫よ」


と、仰られた。


窿太郎は、蓮華からどんな化け物に見えているのだろうか。






そんな窿太郎はというと、両訓練では最下位の成績を叩き出しており、周りから絶賛白い目で見られている現状である。


しょうがない。


剣術は剣が重すぎて使えないし、魔法は適性が無さすぎて反応すらしないんだから!


まさかここでも俺の力が通用しないとは!


という言い訳を皆にはしておいた。


「本当、面倒臭がりだなぁ」という悠真の憐れみはこの際無視しておく。






そんな窿太郎は、誰からも構われることなくぼっち化していたわけだが。


ある日、下級クラス内で、以前から情緒不安定になっていた生徒が消えていることに気がついた。


一人で散策していた結果、偶然気がついたのだ。


皆は引きこもってしまったと思っているようだが、窿太郎は彼らの部屋を次々と訪ねてみた。


しかし。


返事はなく、中はもぬけの殻。


それが何回も立て続けに起き、集団鬱が流行りだしたと噂になるくらいだ。


だが、誰一人として部屋には戻ってこない。


最近では人が居なくなったことを誤魔化すためだろう、部屋に鍵がかけられて侍女しか入れないようになっている。


以前の雷失踪事件と同じような現象に、もはや一刻も早く抜け出した方がいいと判断した。


それは、今回のことに関しては神様は関係していないと思われるからだ。


雷なんて落ちてないしね。






神様については黙っておいたが、鳴海と相談して「逃げ出す」と結論に至った。


外の地図は手に入れられていないが、大型書庫で資料を探しているところである。


外の様子は二の次で考えよう。


まずは、どうやって集団で抜け出すか。


そして、どのルートを辿って隣国への入国、もしくは国境を抜け出すか、だ。


しかし、行方が知れない康介や目をつけられている悠真たちを連れ出すのは難問だ。


さて、どうしようか。


それを考えて就寝した翌日。


騎士団のお墨付きをいただいた上級クラスの生徒は、早急に国民に向けてのパレードの準備する指示が下った。


なぜなら。







「隣国との戦争が決まった」


「!????」


というのが理由らしい。


目的は魔王ではなかったのか。


皆の疑問は最もだった。


しかし、魔王討伐を妨害するのがその隣国らしいのだ。


邪魔者は先に排除し、国を乗っ取る一石二鳥の考えが王にはあるらしい。


生徒たちの前で話す王の顔は嬉しそうに歪んでいた。


しかし、その説明だけで納得していない者も最終的には多数派の賛成に押し切られてしまった。


なぜ、隣国が魔王を倒すことをよしとしないと思う理由を考えないのか。


それよりも、パレードの方に皆の意識は向いていた。


これまで3ヶ月程ここに住んでいるが、一度も街へ出たことがなかった皆が大々的な祭りのような響きに胸を踊られせている。


だが。



「パレードに出る者は今のところ12人です。パレードは一月後。騎士団長からの許可が出ていない者は、至急雪山で訓練を行い基準を満たしてもらいます。第三王子が同行してくださるので騎士も以前より増やします。遭難者が出ても助けますので安心して訓練をおこなってください」


以上がタヌキ宰相の言い分である。


ニッコリとした笑みが胡散臭いことこの上ない。


つまりは「力もなく確固たる地位もない宙ぶらりんな奴はお荷物だから、さっさと排除されるか力をつけて生き残れ」という訳である。


宰相は国王よりとんでもない奴だった。




そこからはもう早かった。


最下位の窿太郎はもちろん、基準とやらを満たしていない他49人はあれよあれよと言う間に騎士と共に編成が成され、必要なものを持たされて転移魔法陣へと放り込まれた。



そう、文字通り放り込まれたのだ。



真っ白な大部屋へと連れてこられたと思ったら魔法陣の中へブンッと投げ飛ばされ。


驚いて衝撃に身構えていたらズブズブと地面に体が埋まっていき。


ストンと落ちた瞬間には目の前に雪山が鎮座していた。


キョトンとしていた窿太郎に続いて、他の生徒はパニックになりながらこちらに落っこちてきた。


何故窿太郎はパニックにならなかったのか。


もちろん、一番最初に放り込まれたからだ。


人間本気で驚くと思考が停止するんだな。


嬉々として俺を投げた騎士よ、覚えてろ。




_____________




そして現在、寒さに耐えられない窿太郎は縮こまってプルプル震えていた。


断じてぼっちで寂しいからではない。


「さて、これから訓練を開始してもらうが、注意点があります。この山には魔物が出ます」


今まで見なかった第三王子がわざわざなぜか急に指揮をとってくれることになったのだが、その言葉に生徒たちはざわめきだす。


「ですが、今のままではあなた方が心配なので各班に騎士を3名ずつつけます。適切な指示を出してもらうので安心してくださいね。僕はみなさんの安全を確認する義務があるので、訓練中はここに在住することになっています。

 では、頑張ってください!」


騎士がついてくることに安堵を覚えたのか、空気が緩む。


それどころか、第三王子の中性的な美形に微笑みの花が咲いたことで全員が彼に釘付けになっている。



「天使!」


「綺麗だ・・・」


「第三王子なら男でも抱ける気がする・・・」


「ふ、踏まれてみたい・・・」



おい。誰だ最後のヤツ!最後から二番目も!!


傍にいる近衛騎士さんが今にも剣抜きそうなんですけど!!


刀身見えてる!


キラーンってなってるから!


確かに人の顔は割とどうでもいい窿太郎でも第三王子は可愛いなとか思ってしまった罪悪感はある。


だがそんな言葉を口にして人生最後を迎えるのは遠慮願いたい。



「さて、冗談はここまでにしないと本当に死ぬな」


「・・・ですね。あ、先輩、一緒の班ですね。よかったぁ・・・」


深涼が隣で安堵のため息をこぼす。


あれから窿太郎の後ろをちょろちょろするようになり、なぜかうさぎに見えてきて放って置けなくなっていたのだ。


・・・小動物、恐ろしい。



「ほら、縮こまってないでそろそろ行くぞー」


「遅れたら放って行くわよ」


「よりによって最下位と一緒なんて・・・」


「いや、俺らも人のこと言えないからな?」


「そうだけどさー」


「ああ、皆高のような、血管ブチ切れそうなほどのツッコミが懐かしいな・・・」


「・・・そんなんを俺らにも止めてくんなよ、天野」


「・・・先輩」


ヒソヒソと言い合う班の生徒を見て、なんだか皆高のツッコミが恋しくなってしまった。


だからと言って、Mになったわけではないからな!


「行きますよ」という騎士様の鶴の一声でみんな一斉に扉の外へ駆け出た。


ブワッと勢いよく冷たい風が髪を撫でて後ろへ通り過ぎて行く。


何度ついたかわからないため息を一つつき、窿太郎も踏み出す。


眼前にそびえ立つ白に覆われた山を睨みつけて最後尾へと並んだ。







もしもこの時、宰相の言葉を正確に理解できていたら。


第三王子の発した意味を問い詰めていたら。


彼らはこの山を登っていただろうか。


窿太郎「なぁ、高」


皆高「あぁ?俺の魔法は火と土だぜ?」


窿太郎「……まだ何にも聞いてないんだけど?」


皆高「ふふふっ、俺程のレベルになれば会話の先読みくらいはお手のもんよっ!」


窿太郎「……さいで。因みに魔法が2つあっても質は関係あるのか?」


皆高「もちろん。魔法は体内魔力の回転率が早ければ早いほど質が良くなるし、連続で発動できるぜ!だが!早すぎれば魔法が暴走したり魔力過多で死ぬ場合もあるってよ」


窿太郎「ふーん。血液の流れと同じ感じか」


皆高「そんな感じだ!!」


窿太郎「……俺には縁のない話かもな」


皆高「んだよ、珍しく弱気だな」


窿太郎「……。まぁいいや。フラッフィに癒してもらう」


皆高「フ、フラッフィ?ま、まさか、お前!どっかのメイドさんかご令嬢とそんな関係にっ!?」


窿太郎「ああ、このモフモフ感、極上の癒しだ……」


皆高「お前作のぬいぐるみかよっ!!つーか、俺にも寄越せ!!動物愛好家の俺こそ持つべきだろぉが!!癒しを分けろ!!」


窿太郎「動物愛好家なら普通は訴訟するレベルで毛皮は反対じゃないのか」


皆高「魔物は別だっ!!くそっ、かわすなっ!つーか、フラッフィって毛皮って意味まんまじゃねぇか!はっ!ネーミングボロくそ……」


窿太郎「うるさい」


ミシッ


皆高「いぎゃぁぁぁぁぁ!!」

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