世は空しきものとあらむとぞ 照る月満ち欠けしける
回想はこの最後で終わりになります。
「あっお前・・・!」
「げっ」
「なんだよその反応は。人見て害虫みたいな反応をするんじゃありません」
「んん?こいつら窿の知り合いかぁ?」
「んー、もしそうだったとしても拒絶するほどの仲だな」
「おぅ・・・。辛辣だなぁ」
「ふざけんじゃねぇ!こっちだって願い下げだ!」
あらら、振られてしまった。
軽くショックを表すように、おどけてみせる。
それを見て馬鹿にされていると思ったのか、3人がさらにいきり立った。
だが、窿太郎は浴びせられる罵倒を気にもせず。、
「俺としては面倒この上ないんだが、呼ばれてるからにはそれなりに勇者っぽいことしときますかー。レベル1だけどね」
「よっしゃああ!そのいきだ窿!って、誰に呼ばれたんだ?」
「うるさい」
ミシッ
「ギャァァァ!」
ひとりでに、漫才のごとく仲間同士の潰しあいを見ていた団子三人兄弟はポカーンと口を開けていた。
しかし、自分たちが置いていかれている状況にだんだんイラついてきたのか、額に青筋が浮かんでいる。
そして、桜餅に変身した。
「お前らよぉ。俺らの前からいい加減失せろっつってんだろ!!俺らはレベル8だぜ!おめぇが適う訳ねぇだろぉがっ」
皆高とじゃれついていると、リーダー格の一人が衝動的に剣を振り上げてこちらへ向かってくるのが目に入った。
「窿!!」
皆高が焦って窿太郎に手を伸ばすが、剣に素手で対抗しようとするのはちょっとまずいんじゃないだろうか。
だが、そんな、純粋な皆高の行動に嬉しいやらむず痒い思いを持ちながら見ていた。
それ程に時間はあったのだが。
流石にまずいかなと思って足を踏み出した瞬間、横から光るものが飛んできて、足を止める。
キンッ
「いっ!?」
金属音が鳴り響き、相手の持っていた剣がカランと音を立てて剣が地面へ落ちた。
その横に細くて短剣が落ちている。
これが剣を弾いたのか。
でも誰が……。
弾かれた痛みから手をさすっている男を横目に、飛んできた方向を辿ると鳴海がいた。
その顔はいつもの笑顔でこちらを見ていたが、下げられた手には先ほどと同じ小型ナイフが握られている。
鳴海の反射神経に驚きつつもお礼を言おうとした。
しかし。
「あ。鳴海だったのか。ありが」
「なーにが「鳴海だったのか」ですか」
いつもより低い声のトーンが彼女の釣り上がった口元から絞り出された。
しかしその目は見開かれていて笑っていない。
「あのー、鳴海さん……?」
「は〜い?剣で斬りかかられそうになりながらなんの反応もない愚鈍野郎が何か用でしょうか?」
「「ひっ!」」
負のオーラを撒き散らしながら笑顔で吐き出される毒と、わざとチラつかせるような小型ナイフが陽の光に反射して窿太郎の恐怖を煽る。
しかし、その影響は皆高にも及んでいたようだ。
2人くっついて、豹変した鳴海の反応に冷や汗が止まらなくなる。
「な〜んでなんの反撃もしないんですか。反応なしとかアホですか。あのまま斬りかかられてたら死んでたんですよ!」
「あ、あのぅ、鳴海ちゃん。窿もそんなつもりじゃなかったと思」
「外野はお黙りなさい!」
「はいぃぃぃ!」
「こんな雑魚相手に優しさなんか必要ないんですよ。私だったら速攻頭へし折ってますよ!」
なんか物騒なこといいだしたあ!
皆高が震えながら窿太郎にしがみついているが、窿太郎は目の前の鳴海の変わりように頭を抱えた。
だが、その横で黙っていられない男たちが口を挟む。
「雑魚とはなんだコラァ!!テメェ調子乗ってっと殺すぞ!」
「君、少し俺たちを舐めすぎじゃないかな。今謝るんだったら許してあげるよ。奴隷としてだけどね」
えぇぇ!ちょっと空気読まんかお前らあああ!
今、鳴海さんにそんなこと言ったら!
瞬間、風の切る音がなったと思ったら今度はグサッと何かに突き刺さるような音がした。
団子三兄弟の頰に一筋の切り傷が入り、血がつうと垂れた。
呆けてそこに手を当てると、手のひらにこびりついた血を見て三人の顔が青くなっていく。
そして俺の窿太郎の頬にも血が・・・。
「は?なにこれ」
少し振り返ると小型ナイフが人数分、地面にぐっさり刺さっている。
ゆっくりと鳴海の方を向くと、ナイフを投げた腕をそのまま宙へぶらりと垂れ下げているのが見えた。
なんとも言えない沈黙が続き。
誰も発言を拒むように口を噤んでいた。
しばらくして、
彼女がゆっくり前へ出ると、窿太郎たちは一歩ずつ後ずさる。
その反応を見て、暗い笑顔が深まる。
深まってしまった。
彼女がどこからか取り出したナイフを手に持って、太い木にドスッと突き刺す。
その音に男どもがビクゥッと肩を浮かせた。
「ふふっ。次はどこに当てて欲しいですか〜?」
「「「「ひぃぃぃぃ!」」」
「くそっ。次は絶対殺してやるからな!」
「い、今は引いてあげるよ」
「そ、そそそうだねっ」
我先に、自分たちは関係ないとでも言うようにそそくさと、負け犬のセリフを吐いて団子三兄弟は全速力で茂みの中へ走っていく。
それを見送ってから窿太郎は、ガタガタ震えている皆高と共に恐怖しながら鳴海を伺っていた。
「あ、あのぉ。鳴海さん。なんで俺まで・・・」
そうなのだ。
味方にまでにまでナイフ投げることはなかろう!
「自分の命を大切にしない奴にはお仕置きが必要かなと思いましたのでー」
「お仕置きって・・・。あれは下手したら死んでただろう!」
「動けなかった人がなぁに抜かしてるんですか!私の手は狂わないんで安心していただいて結構です!」
「どっから来るんだその自信は!」
「お、お前らそれくらいにしとかないと魔物が・・・」
皆高が挙手をして恐る恐る入り込んできたが。
「「外野は黙ってろ!」」
「えぇー・・・」
締め出されてすごすご引き下がっていった。
「くーちゃんや悠真っちのためにも!天野っちに死んでもらったら困るんですよ!」
どういう理屈だ、それは!
意味を聞いてもはぐらかされるか、さっき言ったことの一点張りでなかなか話が進まない。
ああ、もう!
ラチがあかないじゃないか!
「こんなことしてたら狩の時間が減って帰れなくなる!そうしたら城に残ってるその蓮華や悠真に会えなくなるんだぞ!」
「・・・」
「・・・」
「それもそうですね〜」
スイッチのオンオフが激しい!
どこが地雷になるのかさっぱりわからんのだが!?
「さて、次行きましょうか〜」
解せぬ。
とりあえず、鳴海の怒りが収まったことに2人で安堵する。
だが窿太郎に至っては、面倒臭いモードに入ってしまう程脱力しつつあった。
鳴海の扱いについてムスッと考えていると、視界の端に一人の存在が目に止まった。
ストレートな黒髪に覆いかぶさった目がちょっとだけ見える。
身長も低いしひょろ長い手足は縮こまっていてなんか、うさぎみたいだ。
ジロジロ観察していると、目があった相手はビクッと怯え出した。
「なぁ。君、さっきいじめられてた子だろ。これからどうするんだ?」
「え・・・あ・・・」
「ほら〜、天野っちがそんな仏頂面で喋りかけるからビビっちゃってるじゃないですか〜。ここは私に任せてください。そこのボクちゃん、これから一緒に狩り再開しますか〜?」
「ひぁぁっ!」
「・・・」
「ぷっ!さっきの豹変ぶりがトラウマになってんじゃないか、あはは、いたっ、いたたたた!」
後ずさる男の子を見て皆高と窿太郎が吹き出したら、頬をつねられて黙った。
「と、とにかく。お前立てるかぁ?」
「あ、はい」
「「なんで高には普通なんだよ(ですか〜)」」
「お前らのさっきのやりとりが原因だろうがぁぁ!」
皆高にはなぜか自然に接することができたその子の事は、もう彼に全部放り出すことにした。
とりあえず、騒ぎすぎたので場所を移動するに。
皆高によると、その子は一年生の涼倉深涼というらしい。
もともといじめにあっていたが、今回は魔物からの盾にされたりと散々な目にあっていたようだ。
そこからは深涼は後方に下げながら、人数分の魔物を追い求めていった。
「ふっふっふっ。これで夢への一歩が踏み出された!あとは毛布にするだけである!」
採取した毛皮を掲げてホクホクとテントへ戻る。
後ろから突き刺さる生暖かい視線などこの際どうでもよろしい。
深涼には目を見開かれた後で笑われた。
なぜだ。
さて、テント陣地へ着いても騎士達に剣を向けられたままなのは面倒臭かったが、刈り取ってきた80もの牙や爪を見せるとようやく剣を下げてもらえた。
夕日で森が赤く染まってきた頃、森で夜道を歩くのは危険ということで帰る支度をすることになった。
窿太郎はやっと帰れる喜びと毛皮毛布にウキウキし鼻歌を歌いながら作業をしていたのだが、テントの外がざわつき始める。
気になって入り口の布をめくると、中央の広場に生徒と騎士達が半分に分かれて言い合っているのが見えた。
どうやら抗議しているのは生徒達のようだ。
「どういうことだよ!あいつらを置いていくのか!」
「制限時間を設けていた以上、これは仕方のないことです」
「仕方ないって・・・。見捨てるのか!お前らが勝手に決めただけだろうが!」
「そうよ!あの子達が戻ってきてないのに私たちだけ帰るなんてありえないわ!」
そこで察した。
まだ帰ってきてない連中がいるんだ、と。
だけど、それは結局、生きてる可能性は……。
「極めて低いです」
「は?なにが」
「彼ら28人の生存の見込みですよ」
冷静に対応する騎士団長のその目は覚めきっていてなんの光も反射していなかった。
「さて、もう日が暮れます。身動きが取れなくなる前に帰りましょう」
「ふざけんな!誰がテメェらなんかについていくか!」
そうだそうだと生徒の大半がデモを起こすように騒ぎ出した。
「ハァ。まーた面倒臭いことに……」
「あらら〜。こればっかりは日本人の平和ボケを叩き直さない限りどうしようもないですね〜」
「俺もひでぇなぁとは思うけどなぁ」
「そんな事言ってたら俺らまで遭難するぞ」
「でもよぉ」
「なんで皆さんまだわからないんですかね〜。騎士達が動かない理由」
「理由ぅ?」
「そら、あるだろ。仮にも騎士だぞ。後々生存者が自力で帰ってきたら騎士の面子はどうなると思う?」
「あぁ?じゃぁそれって」
「死んでるっていう確信を持って置いていくってことでしょうね〜」
「ど、どうやってわかるんですか・・・?」
珍しく深涼が話に興味を持ったらしい。
先程まで黙って俯いていたのに、その目は期待しているように少しきらめいている。
こいつまさか……。
「あいつらが死んだか気になるのか?」
「え……」
「いや、なんでもない。まあ、要は。どこかで監視していたかもしくは死ぬ確率が高い場所に俺らを放ったんじゃないかって話だよ」
「ああ、だから魔物が多かったんですね……」
生徒達は粘ったようだが、結局みんな泣く泣く城に帰ることになった。
それからは、帰ってきたものを祝福する言葉が幾度となく送られたが、それに嬉々として受け入れるものは誰一人いなかった。
……皆高以外は。
こいつは褒めてくれた女の人にデレデレして武勇伝を語り出していた。
あとで聞いた話だが、こういう時こそ楽しまなきゃ損!と胸を張って答えている。
ある意味大物だと呆れた瞬間だった。
生徒はその日の疲れが溜まっていたのか、無傷のものは早々に部屋へ戻り、治療が必要なものは医務室で泥のように眠った。
___________
野鳥の鳴き声で目に反応して目を開く。
闇は濃くなって、対照的に赤い月が先ほどよりも濃く色づいている気がした。
メイドさんにもらった懐中時計をポケットから取り出して開いてみる。
「もう4時か」
22時くらいにここにきたはずだが、どうやら6時間も居眠りしていたらしい。
上半身を起こすと、森の方へと目をやった。
何も聞こえなかったし、何も見えなかった。
ため息をつく。
ノロノロと起き上がって、きた階段を引き返す。
「さて、愛しのふかふかベッドにダイブしに行きますか」
ふあぁ、とあくびをしながらサクサクと芝生を歩いて行く。
「あ、毛皮布団作るの忘れてた。
まぁ、明日でいっか」
部屋に入る前、振り返って空を見上げる。
そこには相変わらず赤い月があるだけだった。
結局、塔で待っても残り28名が帰ってくることはなかった。
リュウ:タイトルの訳「この世はむなしいものだというように、この照る月は満ち欠けするのです。」らしいぞ
鳴海:仏教的な詩ですね〜。月夜の静かさが想像できて、光る月と死んだ者の無常の対が幻想的とされてるみたいですね〜。ただ、私に言わせれば虚しいだけだと思いますけど
朝木:いやぁ、古文って深いなぁぁ!
リュウ:お前絶対思ってないだろ
朝木:いやいや、俺もその虚しさはわかるぞ!
リュウ:ほう?
朝木:だって、俺にとっては女性は胸がデカい人と小さい人を対とする時、どうしようもなくその儚さが幻想的だとは思うが同時に虚しいとも思えぐひゃっ!
ミシッ
春瀬:なぁにが幻想て敵ですか!変態野郎が!
朝木:いででででっ!鳴海ちゃっ!ピンヒールは辛っ!
リュウ:さて、俺寝てくるわ。もう眠い・・・。
朝木:待ってくれ天野お!俺の幻想的で虚しい思いをわかっ
春瀬:あらら、まだそんな口聞ける余裕あるじゃないですかー
ミシミシミシッ
朝木:ギャァァァァァァァ!




