背水の陣
城の敷地内には、城を中心にして周りにあらゆる用途の建物が囲んでいる。
普段霳太郎たちが訪れているのは、城の真後ろにある騎士団の訓練場、右下にある寝泊まりする来客用宿泊寮のみ。
そしてこれから使うようになるのが、城の左手前に鎮座する魔法研究所である。
訓練場とは異なり、屋内で研究している彼らは、以前会った大魔導士というローブ姿の者たちとほぼ同じ姿をしていた。
顔を隠すように暗い色のフードをかぶり、下を向いている。
のそりのそりと歩く姿はまるで野生を忘れた動物のようにゆっくりで、足まで垂れているローブから覗く手足はとても細かった。
彼らが所属するこの建物は城の造りとは全く違っていて、内外を遮断する扉はなく、入り口はアーチ状になった門のみ。
そこを過ぎると、声の若そうなローブ姿の女性が2人ほど机に資料を大量に広げて座っており、用の取次や依頼か仕事を請け負う役割をしているらしい。
出席や門番、受付嬢も兼ねているのだろう、霳太郎たちにはまさしく事務的に部屋への道を口頭で説明してくれた。
彼女らを前にして左右に扉があるのだが、練習部屋は左の扉から行けるらしい。
右の扉へはいかにもベテランの様な風格の人たちが入っていくため、階級を分けた構造となっているのだろう。
実際、建物はコの字になっており、出入り口は、その中心部だけだった。
扉を開けると、すぐ左に階段が伸びている。
そこを上がると一階と同じような石や煉瓦造りの通路が続いている。
まるで、石造りの橋を渡っている時の感触と同じだ。
しばらく廊下を歩いていると、ふと学校を思い出した。
壁には木製の扉が等間隔で設置されていて、その扉にはプレートが貼り付けられている。
窓が一切ないため、薄ら寒い空間が続いた。
一番奥まで突き当たると、追いやられた空間のように一つだけガタついた扉がある。
簡単には開かなかったのため力を入れて開けると、正面に見えるガラス窓から眩い光が机を照らしていた。
霳太郎と千里は今、室内で座っている。
大衆教室のように用意された長机長椅子は、扉を背にして置かれていた。
横に10、縦に8も並べられたこの空間は、全て木造のようだ。
板張りの床をコツコツと鳴らしながら席を取っていく生徒達は、慣れているように場所を取っていく。
あっという間に三分の一が埋まった。
勉強机以外のあらゆる物質には、紺色の布がかけられている。
何か魔法に必要なものなのだろうか、端に全てまとめられており、ここが元は物置だったのではないかと思える。
世間話などに花を咲かせている生徒たちはざわめいていたが、それは一人の男性が入ってきたことでピタリとやんだ。
勢いよく扉が開いたと思ったら、うるさいとでも言うかのように何かの棒を地面へ叩きつける衝撃音が響いた。
つかつかと机を縫って前へ踊り出た長身の男性。
窓から入り込んでいる日光に反射した艶のある黒髪が後ろ手で結われている。
清潔そうな髪型が、そのすっきりとした顔立ちや肌の白さに神経質さを生んでいる。
こちらを向いたその人物は霳太郎を睨みつけた後、こう述べた。
「初参加の者もいる為、一応述べておく。魔術師のセイ=ガーナンドだ。基本から教えることになるが泣き言は一切聞かんから覚悟しておけ」
なぜ、貴族は美形ばかりなのだろうか。
いかにもな風貌である上から目線の彼は黒髪紫眼、漫画に出てきそうなキャラに女子から黄色い声が上がっている。
彼女らは俺様系に憧れを持っているのだろうか。
だが、セイの反応は意外なものだった。
「あー!うるっせえな!これだから女は嫌なんだ。とっとと始めるぞ!」
ガシガシと頭をかいてイラつきを発散させている。
この態度に、今までのお堅い貴族の印象を持っていた霳太郎は驚いたのを思い出した。
女子たちはビクッと静まり返るかと思ったら、さらに悲鳴を上げ喜んでいる。
今更ながら、途中参加になる霳太郎たちにはこれが日常的な光景なのかわからず、ついていけないといった表情だ。
そう、霳太郎たちは今まで先行していた生徒達と最初から同じ授業を受けることになったのだ。
剣術は一から教えなければいけないものだが、魔法はランクが解れば後は自然に伸びていくらしい。
霳太郎たちはすでにランク付けを終えていたのだ。
そして、下級ランクのこのクラスには霳太郎、千里が配属された。
「一応、ね」
こちらに背を向けて何やら書き出したセイに、霳太郎はあの光景を思い返していた。
悠真たちと庭に出たあと–––––––––––––––––––––––
王女が悠真から名残惜しそうに離れていったのは、1時を告げる鐘が鳴ってからだった。
生気を奪われた悠真を励ましながらの帰り道、上級のクラスである悠真と蓮華は、先に研究所へいくために霳太郎たちが歩いている廊下から外れていく。
そして、窿太郎たちかわ侍女に案内されて向かった先は、城の一角だった。
教会に近い空間である。
正面に向かって長椅子が左右に列に別れて後ろへと並んでおり、扉の直線状には女神像が静かに目を瞑っている。
その荘厳さが空間の静寂を引き立たせる。
人間は霳太郎たち以外には誰もいなかった。
少し待っても閉めた扉が開くことはなかったため、霳太郎たちは前列に腰を下ろしていた。
後輩達が神聖な空間にはしゃいでいるのを先輩がたしなめている隣。
霳太郎たちはこの国について話し合っていた。
2人に会えたことで平和ボケしてていつのまにか忘れていたが、さっさとここから抜け出した方がいいことには変わりないのだ。
まずは外の地形を調べて城の抜け道を探さないと。
この国の駒になるのはゴメンなのだ。
だから、図書館の場所をまずは探すことにした。
3人が話終えた時、丁度タイミングよく扉が開く。
そして、入ってきた人物は、持っている黒杖でダンッと地面を打ち鳴らす。
ローブ姿の男はフードを後ろへ押しやり、口を開いた。
「8人か。随分少ないな」
レベルを知るための大魔導士。
霳太郎はそう思って、話しかける。
「あなたが大魔導士ですか?」
だが、その男は鼻を鳴らしてこちらを見下すだけだ。
「違う」
全員は一斉に怪訝な表情を浮かべる。
それもそうだ。
大魔導士が来ると聞いて待っていたのに、現れたのは誰ともしれない男。
「だが、魔導士ってのは合ってるな」
その緊張を見て取ったのか、男はそう言うと皆の肩から力が抜ける。
それを見てまた鼻で笑った彼は、こちらへと杖を打ち鳴らしながら歩いて来る。
霳太郎には、それが運命が迫っている音に聞こえた。
さて、上手くいくか。
霳太郎は不安で目が揺れないように、しっかりと男を見据えた。
席の前で立っている彼らを通り越して、女神像の前で魔導士が振り返る。
そして、手持ちの杖に両手を置き、顎を持ち上げて生徒達を見下す。
「さて、魔法を観させてもらおうか」
そして沈黙が降りる。
魔導士が怪訝な顔を見せた時、威圧に体がすくんでいた後輩を見た霳太郎が肩をすくめた。
「俺たち、魔法の使い方を知らないんだが」
すると、ギロリと鋭い眼光で睨まれる。
「口の利き方に気をつけろよ、異世界の餓鬼」
皆高と高嶺先輩がムッとした顔になったが、霳太郎は少し嬉しくて頬が緩む。
胡散臭げな笑みを浮かべた上辺だけの貴族が今までいたのだ。
これだけ態度をあからさまにしてくれる方が彼にとっては接しやすかった。
「失礼しました。では、改めて。魔法の使用方法を教えていただけますか?」
ニヒルな笑顔を貼り付けておどけたようににお辞儀をすると、興を削がれたのか不機嫌にまた鼻を鳴らすのが聞こえた。
「ふんっ。これを持て」
そういって、懐から紙切れを8枚取り出し、全員へ配った。
「ここに書かれている魔法陣を見ろ。これは風の魔法陣だ。初心者でも扱いやすい。これを見ながら俺がこれから言う演唱を復唱しろ」
初めからそうするつもりだったのか、誰かが返事をする前に何かを唱え始めた。
さっきのはなんだったのかと皆が呆れる。
しかし、遅れないように全員が慌てて復唱しだした。
そして、魔導士が終えた途端、彼の目の前には手のひらサイズの竜巻が宙にできていた。
霳太郎たちは目を見開いたが、男はなんでもないかのように無表情だ。
その風を感じながら現象に見とれていると。
声を上げ始めた者がいた。
「おお!俺できたぞ!」
皆高だ。
彼の視線の先には、魔法陣の上に細長い竜巻が出来ていた。
「わおぉ!私のが凄くないですか〜!」
普段は聞かない鳴海のはしゃぎ声も聞こえる。
どうやら2人は成功したようで、誇らしげに竜巻を見ている。
先輩も無言で頷いているので、出来たのだろう。
後輩3人も歓喜の声を上げている。
ただ1人、千里だけは手をさすりながら、少し寂しげな表情を浮かべている。
「ほう、あれは失敗だったから期待はしていなかったが、案外質は良いようだな」
そう嬉しそうに呟くのは魔導士も一緒だった。
それを見て、霳太郎は口を結んだ。
失敗。
その言葉が霳太郎の頭から離れない。
だが、周りは、鳴海でさえ彼の言葉を聞いてはいなかった。
そこから何回か同じことを繰り返した。
魔法の種類は別のものだったが、成功するものしないもの、それぞれの得意なものなどが判明するようになった。
そして、男からランクを言い渡された上級者は嬉しそうにハイタッチをし合っている。
「よっしゃー、8だぜ!」
「俺は6だし」
「私は7でした」
「5か。ギリギリだなぁ」
後輩3人と皆高はワイワイと嬉しそうだ。
先輩は目を閉じて頷いていて、鳴海も意外とウキウキしているようだ。
だが、千里だけは肩を落としている。
結果は、
先輩は8。
鳴海も8。
だが、霳太郎と千里は1だった。
男は、満足そうに口を結んだ後、もう用はないと言わんばかりに出口へと向かった。
しかし、思い出したように立ち止まって振り返る。
そして霳太郎と千里を交互に見据えた。
「また後でな、落ちこぼれ」
その時、千里は悔しそうに唸ったのだが。
霳太郎は察した。
この男が自分たちの師事する魔導士なのだと。
「名前を教えてもらえないでしょうか」
すると、男は格式張った霳太郎の物言いに少し違和感を感じたのか、怪訝そうに目を細めた。
「自分から名乗るのが礼儀だぞ。だが、まあ良い。セイだ。セイ=ガーナンド」
そう言って、ニヤリと笑った。
その仕草に、先ほどまで感じていた貴族感はさっぱりと消え去っていた。
意外にも、この男の方が王や宰相より胡散臭いかもしれない。
と、霳太郎は小さくなっていく背中を見ていた。
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魔法の授業は思ったよりあっさりと終わった。
ただ練習して終わり。
あとは自分で復習を怠らないように、という注意だけだった。
構えていた分、拍子抜けしてぼうっとしていた霳太郎は、千里の呼びかけで我に還り研究所を後にする。
外に出るともう日が暮れており、部屋へと帰ると侍女が食堂へと案内してくれたり
どうやら夕食のようだ。
だが、そこに入った途端、窿太郎は驚きで目を見張った。
先に来ていた生徒たちは、皆んな口々に自らのランクがどれだけ上がったのかを競うように発表しているではないか。
・・・おいおい、まじか。
ゲームみたいでテンションが上がるのはわかるし、数字が上がるたびにざわめきが起こるのは自然なことだとは思う。
だけど、
「なんでみんな口に出して言うんだ・・・」
たとえ魔導士にその人の質やランクがわかったとしても、それが出来ない生徒同士では訳が違うと霳太郎は思っている。
「ん?俺15だったぞ」
背後から、同様に侍女に連れられて来た皆高が何でもないように言ってのけた。
「お前なぁ・・・」
「馬鹿ですね〜、あれを見てくださいよ〜」
扉に寄りかかって霳太郎たちが集まるのを待っていた鳴海は、この状況に辟易していたようだ。
彼女が周りに気づかれないように小さく指をさした先には、ここからは死角になっている柱の陰から誰かの靴先が見えている。
さりげなく角度を変えるため移動してみると。
魔導士のローブと黒髪を人束に纏めた男が、何かを早口でつぶやいている姿が見えた。
よくは見えないが、あの髪型と長身には見覚えがある。
「あ?なんであんなとこにセイがいんだよ。ってか、あれ何呟いてるんだぁ?」
「わー、高っち、いきなり呼び捨てって・・・。まっ関係ないですね。あの人が呟いているのは、みんなの名前とレベルですよ〜」
それはよく見ればわかることだった。
生徒が声を上げるたびにそれを復唱している。
だがその理由がわからない皆高は首をひねっていた。
「何で、んな事呟いてるんだぁ?」
・・・。
だが霳太郎は納得した。
普通、監視されているなどとは思わない。
今までは外出先でも、監視カメラの先から自分が追われていることなんて気にも止めていなかった環境だったのだ。
霳太郎だって、こんな監視され続ける生活なんて耐えられる訳ではない。
自由が欲しい。
日向ぼっこしながら昼寝したい!
「高っちって頭悪いですよね〜」
「なんだとー!」
二人が言い合っているのをよそに魔術師が呟いているのを流し目で見る。
バレないように。
だが、何故復唱するのか疑問だった。
それとも記憶しているとか?
もしかすると、そういう魔法があるのかもしれない。
いつのまにか横目でガン見している状態になっていると、突然紫の目がこちらを向いた。
「っ!」
悪寒が走って本能的に目をそらす。
途端に冷や汗が手に滲む。
目が。
ヤバかった。
なんの感情もこもっていないただの石に思えるくらい、無機質なものだった。
心臓が痛い。
緊張で頭が冴える。
目があった瞬間、たった一瞬の間でも本気で殺されるかと思った。
すぐさま目をそらしたが、絶対に気づかれている。
不審に思われただろうか。
ここで目をつけられるのはまずいのに。
「天野っち、どうかしました?」
「いや、なんでもない」
鳴海に覗き込まれるが、少し心臓が跳ねていたため落ち着けるのには助かった。
アドレナリンで見開いていた目を伏せて、そっと柱へと戻すと。
男はもう、そこにはいなかった。
隠れたのか、どこかへ移動したのか。
どちらにせよ、あの視線がなくなったことに安堵しつつも不安は完全には消えない。
「んー、さて、これからどうしようかな」
そんな不安を払拭するように、いつも遠いの言葉を口にする。
だが、喉の奥に詰まっているしこりが取れることはなかった。
夕食が運ばれてくる。
そろそろ席に着こうかと移動したところ。
霳太郎が鳴海たちについていこうとすると、周りからの視線が痛い。
睨むような怪訝な目線が多く突き刺さっていたのだ。
何事かと3人は目を丸くしていると、同じ下級クラスにいた相沢が教えてくれた。
「天野!お前は早くこっちに来い!」
何故か焦っているような彼に手招きされて、扉の近くの席へ引き返すように鳴海たちから離れると。
彼は声を潜めて忠告した。
「これからは春瀬たちと飯食うのは止めろ」
「なんで」
「ランクだよ。下級と中級、上級でテーブルが別れてるんだ」
それを聞いて、霳太郎は眉間にしわを寄せる。
「それは、ここの貴族に言われたのか」
「いや。上級の奴らだ。元は偶然、上級に生徒会長とか委員長が固まっただけなんだが、中級から上級へと力を付けた途端に言い出した奴らがいたんだ」
「誰も言い返さなかったのか?」
「言ったさ、もちろん。でも、言った奴らは次の日には半殺しになって見つかった」
あいつらがやられた、と言って指した向こうには。
片腕がない者、片目に眼帯を巻いている者、片足と手指の何本かを失った者がいた。
以前、学校で見たことがある。
隣のクラスの男子3人だった。
彼らは今、明るく振舞って談笑しているが、あまりの理不尽さに開いた口が塞がらなかった。
胸糞悪さにため息が漏れる。
おそらく、力を鼓舞するための仕組みを作ったつもりなのだろうが、これでは秩序も何もない。
霳太郎が思っているより深刻な事態になっている。
ただの暴力や権力をかざしている、この国の上層部と一緒じゃないか。
だが、霳太郎には正義感で反論するという考えはなかった。
それは周りを巻き込むし、正面からは絶対に勝てない相手だから。
下級の皆も、それを理解しているから大人しく睨むだけで居られるのだろう。
今は。
今は大人しくしておく。
そう決めた。
そして、
霳太郎と千里は下級。
そして鳴海と皆高、その他は中級の枠へ移動することとなった。
因みに、ランク付けとして。
0~3が下級。
4~8が中級。
9~10が上級だ。
皆高は窿太郎たちとご飯を共にできないことに不満を漏らしていたが、鳴海は「天野ッチならなんとかなるでしょ〜」とのことで笑顔で去って行った。
相変わらずで何よりです。
霳太郎は、自分の頰が引き攣るのを感じた。
丸投げじゃないか。
だが、全員が席に着き、運ばれてきた料理を目にしてからはそんなことは気にならなくなる。
フォークを手にしようとしたその時。
「うっし、じゃあ新人も入ってきたことだし!ランク発表していくか!」
席に着き終えた生徒に対して、パンパンと手を叩いて注目を集めた人物は、そう声を張り上げた。
全員の視線の先には、上級グループの席にいるある生徒だ。
彼は活き活きとして皆を見渡すが、誰1人として目を合わせようとはしない。
無関心なのは同じ上級クラスの生徒だけだ。
途端に、同じ上級クラスのある席から声が上がる。
「えぇーーーーーー!!」
「えーじゃねぇ!俺が今から見本見せるからようくみとけよ!最初は・・・」
嫌に静かなこの空間の中、誰も食事に手をつけずに俯いている。
2人の茶番劇に笑っているのは、同じく上級クラスの威張っている奴らだけだ。
そんなゆるい雰囲気が漂っているが、張り詰めた空気は変わらない。
そして、矛先が下級クラスの者へと移り変わった時。
反論など許さないような、ギラついた目をして、
「ほら、お前らの番だぜ」
とニヤついた。
そして、逆らえない者は一人一人立ってレベルを口にする。
ほとんどの者が2か3だった。
度々上級の方から笑い声が聞こえて来て、バカにするような発言も多くなっていった。
しかし。
霳太郎の番になった時。
「天野霳太郎。ランクは1」
「おい、いま1って言ったか?」
「はい」
なんの感情もなくそう答えると、爆笑の渦が食堂内を包み込んだ。
「お前、1って。1って!」
楽しいオモチャでも見つけたかのように笑い転げるその男は、なおも言い続けた。
「1なんて初めて聞いたぞ!まじか!なあ、今度話を聞かせてくれよ、1ってどんな感じなのかさあ!」
そう言って、ひとしきり笑い終えたのか、次へと移った。
霳太郎は隣にいる、俯いて小刻みに震えていた千里へ目線を向けずに呟く。
「お前はランク2だ」
千里はなんの事か解らずにこちらを見たが、霳太郎の笑顔にハッとなった。
そして、千里の番。
「一年の千里です。ランクは、に、2です」
「ふんっ、つまんねぇな。2ばっかりじゃねぇか。次!」
千里がほっと息をつく。
霳太郎を見たが、今彼はどこも見ていない、ただの無表情だった。
さっきの笑顔はどこにも無い。
お礼を言うのも違う気がして、千里は結局何も言えずに俯いたままだった。
夕食後、なんとか乗り切った下級クラスのみんなはホッとしていた。
上級クラスの生徒は部屋へ帰ったようで、食堂ではそれぞれ魔法の練習をしていたり談笑したりして残りの1日を堪能しているところだ。
かく言う霳太郎と千里も魔法を練習している1人である。
もし、陣を描いて演唱が失敗すれば・・・
バチンッ
「っ!?」
弾かれる。
諸刃の剣というやつで、失敗すればその陣にかけた負担のぶんだけ自分に返ってくるのだ。
千里は、弾かれた指の先が熱いのか息を吹きかけて冷ましている。
そしてもう一度、火の演唱を口ずさむ。
「えーっと、まずは、円状の線から派生する火の精霊が属する言霊を連ねていく」
「それからこっちの言語と合わせて詠唱するんですよね〜」
「よっしゃ!いくぞぉ!」
いつの間にか目の前に座っていた二人がいた。
そして霳太郎が持っていた紙の陣を使って皆高が演唱し出を始める。
「汝、世を赤く染めるものよ。オーファン《炎の王》の眷属にして変化の友。形を嫌い自由を生きる精霊達。我が声に応え燃えよ。我は汝を求め、汝は我が力を求める。我が手に汝を、火を灯せ。揺らめく赤い火を、今ここに!」
バチーンッと言う盛大な音とともに、皆高が引っくり返った。
魔法陣には何も現象は起こらない。
だが。
ボワッ
突然歓声がどこかから上がった。
今、皆高が唱えた演唱には反応しなかった魔法陣が、この部屋の1人の呼びかけに答えたのだ。
ある少年の掌からは、宙に浮いた鮮やかなオレンジ色の火の玉がゆらゆらと揺れている。
「先輩!見てください、僕できました!」
満面の笑みでこっちを見る千里の顔には、掌にある火の玉の光に反射して薄明るく輝いていた。
初めて成功できた喜びに周りも感動している。
しかし。
その後ろで、柱の陰に隠れていたセイが口元を押さえて目を緩ませていたことに、こいつは気がついてないだろう。




