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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
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不穏な行方

「ユーマ様!」


透き通るような声がホール内に響く。


この大聖堂のような広さの部屋に響くほどの甲高い大きな声。


その声の主は凝視しているわまりを気にした様子はなく。


満面の笑みを浮かべて走り出したその姿に、部屋中にいるみんなの視線がさらにくぎづけになった。


彼女の周りに花が舞っているのは幻覚だろうか。


甘い空気を醸し出しながら、今にも死にそうな悠真の元へ飛び込んだ。


「ユーマ様、訓練お疲れ様です。これからどちらに行かれるのですか?」


「ありがとうございますリザベル王女。今から庭園に行くつもりでした。あまり行ったことがなかったので」


悠真は眼前にずずいっと迫る王女様に少し引きつりつつも、いつもの爽やかスマイルで対応する。


さすがイケメン、としか言いようがないものの、少し不憫に思えた。


「もぅ。リズとお呼びくださいと言っているではありませんか」


「あはは、それでは無礼ですし周りにも示しがつきませんから」


どうやら、第二王女様は悠真にゾッコンらしい。


なんなのだろうか、こののろけ具合は。


まあ、のろけているのは王女のみのようだが。


霳太郎たちは、悠真以外目に写っていないような振る舞いに呆れている。


王女様の威厳を信じていた皆高においては、落胆に膝をついている。


「それでは、私が御案内致しますわ!」


どうしても悠真に近づきたい王女様は、それらしい理由をつけて彼にどうこうしようとする。


イケメンでも苦労することに初めて気が付いた瞬間である。





王女が庭園を案内すると言い出したとき、悠真は困り顔になってやんわり断っていた。


しかし、彼女はとどまることを知らない。


なおもグイグイにじり寄ってくる王女様に流石の悠真もたじろぎ始めた。


悠真がこちらをチラチラ見て止めてくれるように促しているが、これはどう考えても霳太郎が口を出ししたら悪化するやつだろう。


無理無理。

馬に蹴られたら死んじゃうでしょうが。


そう表すように手を顔の前で振る。




それにしても、恋のフィルターは凄まじい。


悠真の嫌がる顔も爽やかなどと言ってるし、やんわり断っているのに照れてる可愛いとか。


あまり感情的にならない霳太郎には理解不能であった。


通訳が必要なレベルで伝わらない。


そう揶揄する霳太郎の隣に移動した鳴海が呟く。


「まるでライオンのメスみたいですね〜」


それを聞いて、なるほどいい例えだ、とつくづく感心する。


一方的に捲したてる王女に、霳太郎はライオンのメスを重ねた。






ライオンのメスは雄への貢物として狩をする。

この場合の雄は国王だろうか。


肉食、しかも狙った獲物は虎視眈々と狙うのだ。


そこまでは一般的にも広く知られているだろう。


しかし、霳太郎も鳴海も、メスライオンの狩りが成功率の低いことを知っている。


それも含めて、王女をメスライオンだと鳴海はバカにしているのだろう。


つまるところ、ターゲットである悠真を手に入れられる率は極めて低い。





「今回は失敗だな」


「ふふっ。普通二、三割うまく行けば良い方らしいですからね〜」


「何がよ?」


それを知らない蓮華は、頭に疑問符を浮かべている。


「狩りの成功率だろぉ?」


少しドスの効いた声で皆高が唸る。


その豆知識を知っていたことに窿太郎と鳴海は目をパチクリとさせていたが、皆高は王女を毛嫌いしたように「ケッ」と顔を歪めていた。


「あの女、金と権力にしか興味がねぇんだよ。最初に会った時から胡散臭かったしなぁ」


いつもおちゃらけている皆高の冷めた表情に、蓮華もただ口を閉ざすだけだ。


「何か……。なんでもないわ」


何か、以前に女性とトラブルでもあったのか。


そう聞こうと思っても、あまりの露骨さに影が見え、あの蓮華ですら他人の領域にズカズカ入り込むことへの躊躇いが見て取れた。




だがしかし。


ここで空気を読まないのが鳴海さん。


「もしかして過去のトラウマですか〜?」


「ちょっと鳴海っ!?」


「おいおい……」


蓮華がギョッとし、窿太郎が困ったようにため息をつく中、当の本人はなんでもないような顔をしている。


それに皆高も少しだけ驚愕した後。


雰囲気を悪くした罪悪感があるのだろうか、咳払いをしてニカッと笑った。


「ハハッ!なんでもねぇよ!」


「そうですか〜。でも、天野っちが聞くかと思ったのに、意外と常識人でしたね〜」


「おい、意外とってなんだよ。俺はいつも空気読んでるだろうが」


「「「それはない」」」


三者同時に声が重なった。

お前らな……。


「仲がよろしいようで大変結構だ!」


拗ねたように口を尖らせる窿太郎に、周りはクスクスと笑いをしのばせる。





鳴海がさり気なく話題を変えた矛先が霳太郎へ向いた事が不幸だった。


誰も味方がいないことにムクれていた霳太郎をまたもや鳴海がからかい出す。


そこで、痺れを切らした蓮華が言う。


「それで?外へは行くの行かないの、どうするの?」


おっと。


話が逸脱しすぎていて忘れていた。


「悠真は…………先に行くか」


視線を向けると、悠真と王女様は未だに押し問答しているようだ。


それを見なかったことにして、王女の説得を期待し先に行くことにした。


「そう、なら私も行くわ」


「そうですね~。お取り込み中ですし」


「お邪魔虫は退散退散っとなぁ」


周りにいる生徒の視線も鬱陶しいので、3人もそれらしい理由をつけて外へ出る。


入れる余地もないので、4人でこっそり庭へと抜け出そうとした。


しかし、現実はそう上手く行かないようで。





龍太郎たちが踵を返し庭へと降りる段差に足を掛けると、後ろから悠真が焦って追いかけてきた。


そして、当然のようにその後ろにはあの王女もいる。


悠真からは見えないのをいい事に、彼女の顔は不機嫌丸出しでこちらを睨んでいた。


俺のせいですか!?


解せない思いを押し殺して、早足でそこからさらに離れようとして草地へと駆け出した。


それに(なら)うように鳴海たちも駆け出す。


やめろ、こっちくんな!


と心の中で思っていても、悲しいかな運動神経抜群の優等生にすぐに捕まった。


ガシッと肩を掴まれて足を止められる。


これから先に起こるドタバタ劇を想像して、窿太郎は半目になった。


扉から70m程離れたところで、草木に囲まれた綺麗な花壇に挟まれながら項垂うなだれる。


「置いて行くなんて酷いじゃないか」


悠真に肩を組まれて逃げることすらできない。


責められるような彼の視線から顔を逸らす。


それはいい。

彼は陸上部だから足が速いのは当然だ。


だが、なぜ王女はそんなに足が速いんだ!


悠真との距離を離されないまま走ってきた彼女は息も切らさずに、捕縛されている霳太郎が羨ましく思えたのか真後ろでずっと睨み続けている。


なにここほんとに重力薄いの?!


霳太郎の心の嘆きが周りに伝わることはなく、結局。


「それでは、ご案内いたしますね、皆さま」


王女の案内のもと、5人で庭を散策することになった。









「そしてこちらがユリ、私の一等好きなお花ですわ。花言葉は威厳、純白。私の白と同じで美しいとは思いませんこと?」


「さすがリザベル王女。博識でらっしゃいますね」


『皆さま』という言葉は『悠真様』限定に修正されたようだ。


初めは霳太郎たちにも渋々説明をしていたのだが、霳太郎が捕縛から解放された途端。


窿太郎の足を踏んで悠真の隣を奪った王女は、ここぞとばかりに腕を絡ませまたもや猫なで声で悠真へとささやき始めたのだ。


っっっっ!!!!」


ピンヒールで思いっきり踏まれた霳太郎は、余りの痛さにうずくまって目に涙が溜まっている。


それを後ろから見ていた皆高たちは、同情するように眉を下げて苦笑する。


だが、普段からそんな行為をしている蓮華は違うことに同情しているようだ。


「ほんと、毎日毎日飽きないわね。あの王女は。悠真が可哀想だわ!」


「俺の方が可哀想だと思いません…………よね!」


堂々たる蓮華に不満を漏らそうとする霳太郎だったが。


結局は彼女の睨みに逆らえないのも、今までの教訓から学んだ悲しい護身術である。







どうやらこの庭は王女のお気に入りの場所らしい。


彼女は花の名前、花言葉、どこに何があるか全て把握しているようだ。


そして自分へとさり気なく話をつなげているのだが、悠真はのらりくらりとかわしている。


頰が引きつっているぞ、頑張れ。


息継ぎに来たのに、むしろげっそりしてしまっている霳太郎たち。


あまり歩いていないのに疲れてしまった霳太郎は、腰まで高さのある煉瓦造りの花壇へ腰を下ろした。


周りには花や木しかないようで、空を見上げると障害物など何もない。


まるでここが山の平原のように感じられた。


心地よい風が目の前の草木を揺らす。


暗めの色の花壇が多いこの空間はちょっとした公園のようで、ブランコやジャングルジムが連想するたびに懐かしく感じた。


昔、こうやってよく公園のベンチで空を眺めていた。


ふと視線を落とすと手元にある虹のように色とりどりに咲く花が視界の端に見えた。


地球では見たこともない種類もあってやはり異世界なんだなと改めて思わされる。


すぐ近くでは王女にピッタリくっつかれた悠真もベンチに腰を下ろしていた。


そういえば、ところどころにベンチや机椅子が設置されているのを見た。


少し女子トークをするときや逢引、秘密話などに使われているのかもしれない。


周りを高い木や整えられた茂みで隔離されている空間のようで、まさにそんな話にピッタリな場所だろう。



そんな事をぼんやりを思考していた霳太郎を、現実へと引き戻す声がかかった。


「ねぇ。あれ、どうにかならないの?」


目の前の花壇にハンカチを敷いて腰を下ろした蓮華が、バラ色の世界を繰り広げている悠真と王女に視線を向けていた。


その顔は不愉快そうに眉間に皺を寄せている。


「知らん。無理。どうでもいい」


「あはは~、天野っちついに無関心突入ですね~」


「まあ、確かにあれは関わり合いたくねぇけどよぉ」


早く王女がどこかに行ってくれないかなーと願っていると、こちらの思考を読んだかのように彼女はこちらを睨んできた。


あらあら、黒いオーラがでてますよ。


悠真に向ける表情との差が激しい事など気にもとめず、霳太郎は飄々とした顔で王女に笑顔を送った。


相手が余裕な事が癪に障ったのか、王女はフンッと鼻を鳴らして顔を背ける。


牽制をかけるとはご苦労な事だな、と思う反面その態度が気になった。


「王女っていつもこんな感じなのか?」


「そうよ。悠真のいるとこには彼女がしゃしゃり出てきてるの。そのおかげで悠真ファンの子達に恨まれてるけど、相手が王女なんだからどうしようもないってわけ」


「女って怖ぇな...」


霳太郎は相槌をうって皆高に賛同する。


蓮華は肩をすくめていつものことよ、とため息をついてるけれど。


女性の恋愛の競争ってドロドロしてそうで怖いのだ。




「そういえば、次の訓練は魔術だよな?」


あっそうだ、とふいに思い出したのか皆高が首をかしげた。


話がコロコロ変わるのが皆高の特徴だが、こんな雰囲気が漂う空間では有り難さすら感じた。


「うん?あぁ、そうでしたね~」


鳴海が記憶をたぐって今日のスケジュールを順に追っていく。


「レベルによってクラス分けするって言ってたけどどうやって判断するんだろうな」


「もしかしてステータス!って叫ぶんじゃねぇか?」


「あはは、何ですかそれ。アニメの見過ぎじゃないですか〜?」


「そんなこと言ってたら敵にだってそれ見てるってバレるでしょうに」


この中でもこの世界に先に来た蓮華が、何を言っているんだこいつは、というように皆高を見ている。


男のロマンだったのだろうか、嬉しそうに目を輝かせた皆高は彼女の現実的な切り返しに撃沈した。


だが、それも最もである。


ここはゲームの世界ではないし、ファンタジー要素があるからと言ってゲーム要素が丸々あるわけではない。


もしあったとしても、逐一口に出していたらレベルが上がった瞬間などがバレやすい。


「さすが、くーちゃん!無駄を省くその精神、すごいですね〜」


鳴海の賛辞に一気に機嫌が良くなったのか、ふんと鼻を鳴らして得意げに言い放った。


「敵がいつ売るのかわからない以上、そんなこと当たり前じゃない!」


「もう武士の領域じゃん・・・」


「さっき言ってたクラス分けだけどね、実際に魔法の質を診てもらうの。大魔導士にね。でも、普段はそんな事しないらしいんだけど。時間がかかるし。だから、普通は親か本から学ぶみたいよ」


ってことは、何かの細工をしてもバレやすいのか。


「質ってどんな?」


「さあ?熟練者にならわかるらしいけど」


「なんか、曖昧だな」


「あらゆる種類の魔法をそれぞれ1から10段階で評価されるの。その総合評価をまた1から10で表されたわ。魔法と剣技を合わせれば1から30までのレベルがあるわね」


「ファンタジー要素消えてんじゃねぇか!」


「言いたかったのか?ステータスって」


「当たりメェだ!異世界のロマンだろ!」


どうやら、皆高はラノベ愛読者らしい。


「でも、魔法が使えるからいいじゃないか」


「そうだけどよ……」


「魔法を使えるって、この世界の原理はどうなってるんでしょうね〜」


ほんと、なんでもありだよな。


ただ、皆高は納得出来ていないのか、ブツブツと独り言を繰り返している。


それを見て3人が呆れた顔をしていると、今までの会話を聞いていたのか、王女の高い声が後ろから響いて来た。


「まあ!ユーマ様の総合レベルは20だなんて!ユーマ様のように誰よりもお強くて聡明な方は今までにいませんわ!」


「ちょっ!リズ!あまり大きな声では・・・」


「何をおっしゃいますの!皆様にユーマ様の素晴らしさを知っていただかなければなりませんわ!」


遠くで何か始まった。


一斉に振り返ると、王女が悠真にしなだれかかって、


「私、ユーマ様のことをもっと知りとうございます」


と顔をとろけさせている。


対して悠真の方は勘弁してくれというように顔を手で覆って空を拝んでいる。


彼の閉じた目からキラリと何かが零れ落ちたのは見間違いだろうか。





面倒臭いなら逃げるればいいのに、律儀だなぁ。


なんて感想を抱いていると、皆さんはもう少し斜め上の気持ちだったようで。


「あらら〜、人のレベル言っちゃうなんてお花畑ですね〜」


「あんなのがお姫様って、この国本当に大丈夫かしらね」


いえ、大丈夫じゃないです。


「なんだあれ!羨ましい!あの子何カップあるんゴガッ」


地味に王女の胸が悠真の腕に当てられているのを見た皆高が、不穏な事を口走った瞬間。


影からなんか飛んで来た!


それにクリーンヒットした皆高は、どさりと雑草の上に倒れこんでいる。


彼に当たって跳ね返り、地面に落ちたのはテニスボールサイズの固そうな木ノ実だ。


何事かとそれが飛んできた方向を見ると、人影が見えたような気がした。


だが、誰かは特定できない。


あれって、まさか……。

王女様についている護衛ではないだろうか。


王女様に不敬働いたら成敗する裏舞台とかそんな感じか・・・。


あぶない。


聞かれている事に全く気がつかなかった全員は、一瞬で固まった。


何か下手な事を言えば自分も()られるのだ。


しかし、そう思っていたのは霳太郎と悠真だけのようで。


皆高は生きているかな、と地面を見ると。


胸の話題が女性陣に火をつけたのか、蓮華と鳴海に足蹴にされている。


え、怖い。


だが王女を毛嫌いしていたのに胸の話になると機嫌が変わるという、皆高の自業自得感が半端ない。


なので、そこはもう放置しておくことにした。


悠真たちは何処から出てきたのか、紅茶やお菓子などでお茶会をしてるわ、皆高は女性陣からのサンドバッグにされているわ。


影からは何者かが顔を覗かせて悠真を睨みつけているわ。


この光景がこれからも続くのかと思うと、カオス過ぎて憂鬱になる。


空を見上げると、風に吹かれてわたあめのように軽そうな雲が流れていくのを見て少し心が和む。


「ハァ、帰りたい」


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