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écrin(エクラン)

「信じられない!」


案の定、三宮駅に着くと機嫌が悪い真理が待っていた。

今回ばかりは、俺が悪い。待ち合わせ時刻から45分は過ぎている。

高速バスで、約四時間ちょっと。バスに揺られて会いに来てくれたのに、彼氏は寝坊で待ち合わせ場所にいない。


「しかも、お酒臭いだなんて」


そう、それに二日酔い。

釈明の余地もない。


「悪かったよ。上司との付き合いで断れなくて」


真理が持っていた大きな荷物を持ち、とりあえずコインロッカーを探すことにした。


「彼女が来るから、って断ればいいじゃない」

「それが出来ないのが、社会人なんだよ。本当に悪かったよ。

お詫びに、真理が前に行きたがっていたカフェに行こう。疲れただろ。

一息ついてから、真理が言ってた指輪のお店、探しに行こう」


何十回謝るより、今の真理には指輪を匂わせた方が機嫌がとれた。


「まぁ、付き合いもあるもんね。でも、今度からは、ちゃんと連絡ぐらい返してよね」


少し納得が行ったのか、そう言うと真理は俺の腕に手を絡ませた。


***


三宮駅から、徒歩十分

ウッドテイストで統一された店内には、女性客で溢れていた。

大きな窓際の席に通され、俺はコーヒーを頼んだ。

真理は、お店おすすめのチーズケーキと紅茶のセット。


オーダーをすませると、真理は手持ちの袋から一冊の雑誌を取り出した。

結婚を決めたら・・・とうたい文句の雑誌。

エンゲージリングやマリッジリングの特殊コーナーの脇に、小さく載っている記事に付箋紙を貼っていた。


「このお店、いいと思わない?」


écrinエクランと書かれた店名。

”お二人だけの誓いの指輪を”の言葉と小さく指輪の写真が載っていた。


「ここね。ネットで調べたんだけど、口コミもいいの。

マリッジリングも、二人の雰囲気も感じ取ってくれてデザインにいかしてくれるみたい。同世代のジュエリーデザイナーさんがやってるから、感性も近いんじゃないかな?」


「そうだね」


雑誌を見つめて目を輝かせる真理の姿。

本来なら、そんな彼女を愛おしく思うところなんだろうけど、どうしても気持ちがついていかない。


(きっと、疲れているからだな)


付き合う以上、その線上に結婚がある。それが分からないほど、俺は子供じゃない。

でも、結婚ってもっと、こう・・・。

燃える様な衝撃と衝動でするものだと思っていた。

川を流れるように、身を任せてするものだと思っていなかった。


(真理より、俺の方が夢見がちなのかもしれない)


コイツの人生を俺が背負う。

そんな覚悟をしてから、プロポーズをするものだと思っていた。


「ちょっと、真也。聞いてる?」

「ああ、聞いてるよ。で?」

「で?って聞いてないしょ!!」


真理が大きなため息を落とすタイミングと同じくして、店員さんがケーキと紅茶を運んできてくれた。

チーズケーキがのったお皿には、季節のフルーツが彩りよく盛り付けられさながら宝石箱の様だった。


「そうそう」

「なに?」

「écrinエクランてフランス語で、宝石箱って意味なんだって」


これから向かう、宝石箱と言う名の店に期待を膨らませ、真理はチーズケーキを頬張っていた。





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