第十三話 過去
「ウトウ! 俺の親を囮にして、クマ退治しようぜ!」
五丁目の報告会議のある日。会議の一時間前、まだ誰もいない会議室にウトウは呼ばれた。
呼んだ相手は、この会議のメンバーで最年少の、ノスリ。彼には会議の目的とは別に、やりたいことがあった。
「それは……、キバシリたちが許可するとは思えないね。僕としても……」
「俺さ、前に言ったかもだけど」
ウトウは遮られて、思わずノスリを見た。あまりにも倫理観を無視した提案にも関わらず、ノスリは真剣な顔だったので、ウトウは黙って続きを促した。
「毎日親に殴られて、ご飯も気まぐれに抜かれた。あんなところに今もいたら、殺されていたな」
語尾が揺らいで、慌てたようにノスリは話すのをやめた。ウトウは静かに頭を撫でてやる。
しばらくして、小刻みに肩を震わせていたノスリは雑に顔を手の甲でこする。
「…………だって、人の気持ちもわからない人たちが、……いまも楽しく暮らしてるなんて。おかしいだろ?」
キバシリやオオルリ、スズメからこの街のシステムを聞いた時に、ノスリだけは例外だと皆口を揃えて言った、その意味がようやくはっきりわかった気がする。
法がほとんどないといえるこの街で、それでも治安を保てているのは、犯罪を犯すと街を追われるかもしれないという未知の恐怖と、狭い世界で完結されるこの街の近所同士の付き合いによるものが大きいのだろう。悪いことをすれば、すぐに噂が広まる。その噂は街長にも届き、罰が下される。この街の平穏のために必要なことだからか罰の詳細までは知らされない。もしかしたら秘密裏にクマに捧げられたかもしれないし、はたまた街から突然放り出されるという過酷な結末であったかもしれない。
だから、街の住民の大半が恐れた。自分がどうなってしまうかわからない未来なんて選びたくないはずだ。
それでも例外は存在する。家の中ならばれないだろうと考えた夫婦は、自分たちの幸せを優先した。彼ら以外に頼ることを知らない子ども——ノスリは、必死に耐え続けた。
そしてある日、年上の子どもと遊んでいる最中に何気なく打ち明け、近くにいた大人を介して街長に話が渡った。
噂好きの大人たちは、その夫婦の結末を知りたがった。しかし、夫婦は姿を現さなくなり、さまざまな尾ひれをつけながら噂は消えたのだ。まだ街のはずれに暮らしているなどとは知らずに。
「そうだね。ノスリがされたことは、許せることじゃない。……それに、彼らが特に罰も受けずに隔離されただけなのはおかしいね」
俯いて目をこすりながら、ノスリが頷いた。
「だからって、人を命の危険に晒したら、君だってお母さんお父さんと同じに」
「その呼び方すんなよ!」
こっそり後ろを通って座っていたカワセミが、びくりと肩を震わせた。
「ああ……ごめんね。君がつらい思いをしたからって、同じことをしたら君だってそっち側の人間になるよ?」
「それでもいい。なんなら助けに行くのが遅れて、死んでしまえばいいんだ」
揺らがない意志を宿した瞳で、ノスリはウトウをまっすぐに睨んだ。
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