オフィス・トライメライ 幕張研修所13
それから弥生さんは壁の時計に目を遣った。時刻は午後八時を回ろうとしている。
「夕飯にしようか。昼のファミレス行く? それとも何か買ってくる?」
「そうだね……。私はどっちでも大丈夫だよ」
私と弥生さんがそんな話をしていると鹿島さんが「良かったら叔母さんのお店行かない?」と言った。
「ああ。『鹿の蔵』ね……。良いかもねぇ」
弥生さんは少し考えるとバッグから財布を取り出した。そしてその中身をチェックし始める。
「千円あれば食べれたっけ?」
弥生さんは財布から顔を上げることなく鹿島さんにそう尋ねた。鹿島さんは「大丈夫だよぉ。千円あればお釣りくるくらいだし」と答える。
「じゃあそうしようかな。聖那ちゃん和食とかイケる人?」
「大丈夫だよー。むしろ普段は和食の方が多いくらいだし」
私がそう答えると弥生さんは「じゃあ決まりね」と言って背伸びをした。どうやら今日の夕飯は和食に決まったらしい――。
それから私たちはジャージから普段着に着替えた。そして研修所から歩いて一〇分ほどの所にある『鹿の蔵』という店に向かった。鹿島さん曰く、『鹿の蔵』は蔵田店長の奥さん……。つまり鹿島さんの叔母さんがやっている和食のお店らしい。
「あの店行くの何年ぶりだろ? 女将さん変わりない?」
店に向かう道すがら弥生さんは鹿島さんにそう尋ねた。
「変わらないよぉ。叔父さんのことで頭痛いって言ってるのもそのまま」
「ハハハ。だろうね……。あーあ、懐かしい」
二人はそう言うと思い出を振り返るみたいに顔を見合わせて笑った。その様子から彼女たちの付き合いの長さがうかがえる。美鈴さんも弥生さんも鹿島さんも……。みんな長い付き合いなのだろう。
だからだろうか。私は少しだけ疎外感を覚えた。私だけ彼女たちの輪に含まれていない。そんな気持ちになった。
たぶんそれは嫉妬だとか不甲斐なさだとかそんな気持ちだと思う。まぁ……。そんなことを言っても仕方ないのだけれど。




