オフィス・トライメライ 幕張研修所4
UGが閉店すると私たちは地上に戻った。辺りはすっかり日が暮れて薄暗くなっている。
「うー! 今日は疲れたねぇ」
弥生さんはそう言うと大きく背伸びした。そして「聖那ちゃんもお疲れ様」とくたびれた顔で笑うとポニーテールにしていた髪をほどいて手ぐしを掛けた。ほどいた彼女は普段より幾分可愛らしく見える。
「私は大丈夫だけど……。弥生さんこそ大丈夫? 私のせいで色々気を使わせちゃったし……」
「ううん。大丈夫だよ。聖那ちゃんは気にしないで! いつものことだからさ」
弥生さんはそう言うとメガネを外した。そして「実はね。私伊達メガネなんだ。何気に目は良いんだよ」と言って掛けていたメガネをケースに仕舞った。メガネを外すと一層普段のサブカル女子感がなくなる。……まぁ、難しく言ったけれど要はめっちゃ普通に可愛いってことだ。
「弥生さんって可愛いんだね」
気がつくと私はそんな失礼なことを口走っていた。そして「あ、ごめん」と咄嗟に謝った。我ながら失礼過ぎると思う。
でも弥生さんは私の言葉に「いや……。ありがとう。嬉しいよ」とだけ言ってスマホに視線を落とした。心の中で『謙遜とか否定せんのかい!』とツッコミを入れる。まぁ、実際可愛いので否定するのもどうかとは思うけれど。
「あー……。ごめん聖那ちゃん。社長からだわ」
弥生さんはそう言ってため息を吐くと「はい、春日です」と電話に出た。どことなく声が震えているように聞こえる。
「はい……。そうですね。――逢川さんは夜には連絡くれるって言ってました。――いえ。大丈夫です。お気遣いだけで。――そうですね。もし流れたときは待機ってカタチで。――夏木さんにもそう伝えます。はい」
通話中。弥生さんはまるで几帳面なキャリアウーマンみたいに仕事の要件だけ淡々と答え続けた。そこには人と人との繋がりの温度みたいなものはない。あくまで事務的要件だけ。そんな風に聞こえる。
「――えーと……。それは夏木さんに聞いてみないと分からないですが。――ええ、私はそれでも別に構いませんよ? 今日は母も成田ですし。――はい、父も今日は居ません。――分かりました。では夏木さんと相談してから返事させてください。失礼します」
弥生さんはそこまで話すと電話を切った。そして「ふぅー」とため息を吐くと私に向き直る。
「ごめんごめん。えーとねぇ……」
弥生さんはそう言うとばつが悪そうに頭を掻いた。そして「聖那ちゃん。今日お泊まりとか出来る?」と言った。




