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珈琲と占いの店 地底人8

 香取美鈴の話


 私が生まれたのは横浜中区にある山下町と言う場所だ。そこは世間的にはお洒落だと思われている場所で近所の山下公園なんかはもっぱらデートスポットなのだと思う。


 そんなお洒落な街のドブみたいな場所で私は生まれた。横浜中華街の中国人居住区の下の下。そこのボロアパートの一室で私は生まれたらしい。……まぁ、これは私の生母から聞かされた話なのだけれど。


 母は中華パブで働いていた。そしていつも家に男を連れ込むような女だった。名前は趙美麗。美しく麗しい。そんな字を書く。そしてそれはある意味で名は体を表していたようにも思う。母はとても綺麗な女性だったのだ。美貌だけなら中華街一だったかも……。そう思うほどに。


 でもその反面、彼女は母親としては最低だった。家事なんてほとんどしなかったし、いつも私をひとりぼっちにして遊び歩いていた。今風に言えばネグレクトってやつだったんだと思う。


 思い返すとそんな彼女から教わったことは……。思い浮かぶ限り綺麗な発音の日本語だけだと思う。どういうわけか彼女は私にやたら丁寧に日本語を教えてくれたのだ。そして発音が上手いと普段とは違って猫かわいがりしてくれた。


『そうそう。上手いわメイリン』


 彼女はそんな風に言って私の頭を撫でてくれた。


 だから私は必死になって彼女から日本語を習った。私にとってのネイティブな言葉はあくまで中国語だったけれど、それを忘れるくらい必死に日本語漬けになった。たぶん幼い私はそれだけが母親から愛情を貰える手段なのだと分かっていたのだろう。まぁ……。今になって思えば母親は別の思惑で私に日本語を終えたのだと思うけれど。


 そして私が四歳の誕生日の日。母は私のアパートに帰ってこなくなった。

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