アンダーグラウンド幕張3
金曜日になった。父が仕事に戻って早三日。三日前はテンションが低かった母もすっかり平常運転に戻ったようだ。
「そういえば篠田さんに電話してみたよ」
朝食を食べながら母が思い出したように言った。そして「やっぱり忙しいみたい」と付け加える。
「そっかぁ。カワウソちゃんは元気かな?」
「ああ、元気みたいよ? なんか今はチェリーちゃんカワウソカフェに出勤してるんだって。すごいよねー。今はカワウソまで働ける時代なんだから」
「何それ……。めっちゃかわいいじゃん」
カワウソカフェに出勤。それだけで可愛さが爆発しそうだ。
「今度二子玉川来たら遊び来てねって誘われたよ。……なかなか東京まで行くのは大変だから行けるか微妙だけどね。聖那、あんた夏休み中に遊び行ってみたら? 前もって連絡入れとけば篠田さん会ってくれるかもよ?」
「うん! そうだね。友達も誘って平気かな?」
「どうだろ? もし本気で行くんだったら聞いといてあげるけど」
「じゃあ……。友達に行くか聞いてみるね!」
そんな話をしていると私のスマホにメッセージが届いた。逢川さんからだ。
『お疲れ様です。今日は八時半に迎え行くけど大丈夫ですか?』
それだけの短いメッセージ。逢川さんは仕事のことになると意外と事務的なようだ。
私もそれに習って『はい、大丈夫です。よろしくお願いします』とだけ返した。事務的な会話。すごく仕事っぽい。
「今日からバイトだったよね? 送迎付きなのよね?」
スマホをいじっている私に母がそう聞いてきた。
「そうだよー。八時半に迎え来るって」
「ふーん。まぁがんばりなさい。自分の遊ぶ金くらい自分で稼がなきゃだよー。そうやって社会人になってくんだからね」
母はそんな風に知った口を利くと自分が食べた朝食の器を持って立ち上がった――。
八時半になると逢川さんが家の真ん前に車を横付けしてくれた。グレーのワンボックスで助手席のドアには『オフィストライメライ』と書かれている。
「おはようございまーす」
私はそう言ってその車の後部座席に乗り込んだ。後部座席には弥生さん、助手席には美鈴さんが乗っている。どうやら今日は彼女たちも一緒に幕張に行くらしい。
「おはよう! 今日はよろしくね」
後ろを振り返りながら美鈴さんがニッと白い歯をむき出して笑った。
「それじゃ行こうか……。今日は本社にも顔出すからね」
逢川さんはそう言うと車を発進させた。




