オートサービス香取5
しばらくして美鈴さんが戻ってきた。そして「ごめん。タイヤ交換入っちゃった!」と言った。
「またかよ」
すかさず弥生さんがぼやく。どうやらこれはいつものことらしい。
「聖那ちゃんごめんねぇ。一時間もあれば終わるからちょっと待ってて! すぐにお客さん来るって言うからさ」
美鈴さんはそう言って両手で拝み手を作ると苦笑いを浮かべた。
「大丈夫だよー。お仕事大変だね」
「いやぁ……。まぁね。親父居ればいいんだけどさ……。じゃあちょっと待っててね!」
美鈴さんはそう言うとすぐに階段を駆け下りていった。本当に忙しない子だな……。と思った。
「ごめんね。メイリンって親父さんと二人暮らしだから整備手伝ってるみたいなんだ」
不意に弥生さんが私に謝ってきた。その様子は本当の姉妹のようだ。
「ううん。大丈夫だよ。……それよりメイリンって美鈴さんのあだ名?」
「ん? ああ、あだ名って言うか……。本名かな? あの子のお母さん中華系だからさ」
そこまで話して弥生さんは『しまった』という顔になった。どうやらあまり他言して良い内容ではないらしい。
「そうなんだね。大丈夫、聞かなかったことにするよ」
「……いや、なんかごめんね。別にあの子隠してるわけじゃないんだけどさ。勝手に私がバラすのは違うよね」
弥生さんはそう言ってばつが悪そうに左の頬を指先で掻いた。
「あの子もねぇ。良い子なんだけどさ。家庭環境複雑でさ。だから中学時代はかなり荒れてたんだよ。あ! コレも内緒だった!」
再び弥生さんは口を滑らせた。思っていたよりもこの子は口が軽いらしい。
「フフフ、でも……。二人とも仲良しなんだね。私幼なじみとか居ないから羨ましいなぁ」
「そうかなぁ? まぁ……。仲悪くはないよ。ずっと一緒だったから今更仲が良いっていうのも変な感じするけどね」
弥生さんは少し照れたように言ってコーラを口に含む。
「本当だよー。私、中学んときにこっち越してきたからさ。それまでは大宮に住んでたんだ」
「へー。埼玉の大宮?」
「そうそう! だからこっちに幼なじみ居なくてさ……」
ふと大宮に居た頃のことを思い出した。あの街は成田よりもだいぶ都会だった……。そんな気がする。もちろん郊外に行けば田園地帯もあるけれど、成田ほど『山!』って感じはしなかったはずだ。
大宮に居た頃にはたくさんの友達がいた。団地が同じだったみっちゃん。一緒に通学したるりちゃん。クラブ活動が同じだったえみちん。みんな仲の良い友達だった。
「やっぱり地元離れたときは寂しかった?」
「そうだね……。引っ越しした日は泣いたかな。中学一年まではけっこう連絡取り合ってたんだけどね。今はSNSでたまにいいねするだけだよ」
「そっかぁ。それは……。なんか寂しいね」
そう。なんか寂しいのだ。忘れるでもなく、付き合いが続くわけでもなく、ただただお互いの状況が画面越しに共有されるだけ。そんな関係がとてもむなしかった。まぁ、だからと言って今更大宮に遊びに行く気にもなれないのだけれど。
そんな話をしていると下の階から電動工具の音が聞こえ始めた。どうやらお客さんが到着したらしい。




