見廻り
「……そろそろ、見廻りの時間じゃないか」
タカハシが、重たい声で水を向けてくる。
「行かないと、ダメかな。」と、ミズタ。
「今日じゃなくてもいいけど、……腐ったあとで行くのは、もっとイヤだろ」
「なんで……、」
「とにかく、」
立ち上がる。おれも陰鬱な気持ちで、ほかの5人に声をかける。
「さ、行こう。……今年だけだ」
厄年会の役員。どうして引き受けてしまったのか。そう思いながら、懐中電灯をとり、ダウンジャケットを着込んで靴をはく。携帯のバッテリーを確認する。
迷うような場所ではない。ちょっとした丘。古い遊歩道を通って頂上までいき、そこから、ほんの少し奥に入るだけだ。昼間なら、20分もかからない。
念のため、去年のメンバーが設定したポイントを、GPSアプリのマップ上で確認する。
区民館を出て、無言で歩く。
ぼそりと、だれかがつぶやく。
「あれ、どこから来るんだろうな」
知るもんか。
だれも先頭を歩こうとしないので、仕方なく、おれが前に出る。息を切らすほどの間もなく、着いてしまう。
なんのこともない古い木の根本。ちょっとした岩がふたつ、地面から突き出していて、祭壇かなにかに見えないこともない。
その間に、近所の中学校の冬服をきて、カーディガンをはおった女の子が倒れている。
無言で、全員手を合わせる。それから、おれが少しだけ近寄って、懐中電灯で顔を照らす。眠っているように見えるが、呼吸音はない。ためらいながら、首筋を触る。つめたい。脈はない。
死体だ。例年どおり。
「……よし。警察に連絡」
ふもとの駐在所で、警官が待機している。おれたちの役割は、ただの第一発見者だ。
「……あ、新聞社からメール」
「それは役場が対応することになってるから、無視していいよ」
何もかも、段取りどおり。
いつからここに死体が出るようになったのかは、知らない。少なくとも、俺が生まれるずっと前からだ。今みたいに見廻りをするようになったのは、戦後のことらしい。
この制服はまちがいなく、おれの母校でもある地元の中学校のものだ。中学校の創立以来、ずっとそうらしい。だが、死体の身元が特定されたことは、一度もない。
「……どこかから来たんだよな。やっぱり」
つぶやく。タカハシの耳に入ったらしく、「そうだな、」と頷きかけてくる。
少なくとも、ここに体があるということは──、どこかで、少女が行方不明になっているということなのだ。遠い世界のことかもしれないが。
もう一度、合掌する。来年はこなくてよいのだと考え、ほっとする。
こんな思いは、一度でたくさんだ。
https://twitter.com/kusunoki_umou/status/1286498853907292161




