箱
「……あれ、何?」
思い切って、梨花に、そう訊いてみる。
久しぶりに会った、転職前の職場の同僚。宅飲みをはじめて一時間。本当のことを言うと、最初からずっと気になっていたのだ。
きれいに片付いた部屋、無地のカーペットの隅に、無造作に置かれたダンボール箱。大きさは大人のひとかかえほど、あちこちに細かな裂け目の入った、無地の。色あせた伝票が貼り付けられたまま、開封された形跡もない。それが、
がた、がた、と揺れていた。
何かのドッキリかと、しばらく言及を控えていたが、いっこうに話題にする様子もない。まさか、ペットかなにかを閉じ込めているのか。それにしては、ガムテープの上から貼り付けられた宅配伝票が変だ。届いたまんま、ずっと置いてあるような。
「ああ、気づいちゃった?」
「気づいちゃったも何も、さ……」
あんなもの、気にならないほうが嘘だ。ずっと動いているんだから。
「……一年前かな。急に届いたの。開けるの、こわくってさ」
「怖いったって」
「なんだか、わかんないんだもん」
「あんた、前からそうだよね」
「ねえ、……」
かたん、といつのまにかコップを置いて。
ぎゅっ、と力をこめて目を、ぐいと近づけて、
「……あれ、開けてくれる?」
やられた、と思った。
なんだか、話がおかしいと思っているうちに、丸め込まれて。
その場で開けるつもりが、どうしてか、封をしたまま持って帰ることになっていた。見送りぎわに、半年前の旅行みやげを持たされて、何度も手を握って「ありがとね、」と重ねられて、酔った頭では反論もできず。
いつも、こうだ。梨花には、いいようにやられてしまう。
思ったより軽いダンボールを両手にかかえ、ハンドバッグと、みやげもののキーホルダーを手の甲にひっかけて持ち、電車はもう無いので片道30分を歩く。夜道を、女ひとりで。
がさごそと、絶え間なく動くダンボールの中身といっしょに。
酔っていなければ、どう考えたってこわくてできやしない。
「……まあったく。」
梨花は、いつも、こうだ。
「あんたも、そう、思うでしょ?」
つぶやきながら、歩く。
帰ったら、……ひとまず眠って、それから考えよう。ダンボールの箱は、部屋の隅にでも置いておけばいい。何もかも、その後で。
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