着信
「……ねえ、昨日の。なんなの?」
「え、」
「昨日の。電話!」
席につくやいなや、隣の席の同僚から、低い、けわしい声で。
「ヘンな声色まで使ってさ。ああいうイタズラ、ちょっと……、」
なんのことだろう。PCの起動ボタンを押しながら、考える。昨日は残業なしで帰って、ずっと家にいた。電話なんて──、
けれども、同僚の、怒りのこもった目は、冗談とはおもえない。
「飲んでたの? だとしても──、」
「いや、エエト、」
小さな声で、私じゃない、とつぶやくと、あいてはよけい目をつりあげて、
「これ!」
スマートフォンを操作して、着信記録を。
ゆうべの23時58分、履歴の番号は、たしかに私の。
「でも……、」
自分のスマートフォンを見る。発信記録はない。画面を見せようと思ったが、同僚は、すでに、怒った顔のままPCに向かっている。始業ベル。まわりの目線を感じながら、わたしも仕事を始めようとする。その時、
スマートフォンの、着信通知。音は鳴らない。たまたま画面を見ていなければ、気づかなかった。数秒だけ着信画面が表示されて、消える。
『迷惑電話リストに登録されています。着信を拒否しました。』
電話帳アプリの機能。半年ばかり前、営業電話がうるさくて、迷惑電話リストを共有するタイプに変えたのだ。普段は、ほとんど意識していないが…、
ふと思いついて、着信拒否履歴の画面を見る。
一度も履歴を消していないので、すごい件数が溜まっている。その中でも、同じ番号から、何度も何度も。
詳細画面にうつる。この番号からの累計着信件数、271件。最終着信は、ついさっき。
……私の番号だ。
もう一度、通知が出る。着信画面。数秒で消える。着信拒否メッセージ。
すぐに、もう一度。
また、もう一度。
わたしは、ふるえる手で、『応答』をタップした。
https://twitter.com/kusunoki_umou/status/1432903551676731394




