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ショートショートショートショート!  作者: 楠羽毛
恋する人、愛する人
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20/23

指輪

「きみにあの星をあげる」

 合宿所の屋上。都会とはまったく違う空を、ふたりで見上げていた。ショウは、得意満面の顔で天を指さして、わたしにそう言った。

「どの星? わかんないよ」

 わたしは笑ってこたえた。満天の星空だ。天の川の、とくに星が濃いあたりを指しているようにみえるが、それ以上はわからない。

「ほら、──あの、21光年くらい向こうの。」

「わかんない!」

 ショウは子供っぽいところがある。10歳の子供のような真摯な顔をして、──じっさい、童顔で、体格も大きくないので、中学生に間違えられることもある。わたしは、絶対に年下には見られないのに。

「とにかく、……あれは、ぼくの星なんだ。この前、権利を買ったから」

「へえ?」

「いい星なんだよ! 地球型惑星で、ちゃんと大気もあって……」

「それで?」

「とにかく、あれを君に──、」

 わたしが相手にしないでいると、ショウは一瞬だけ睨むように目を細めて──、それから、ふっと力をぬいて、言い直した。

「……ぼくの恋人になってよ」


 そうして、私たちは正式に付き合いはじめた。


*


 合宿から帰ってすぐ、ショウは大学をやめて、遠くへいってしまった。家庭の事情、だとか。わたしたちはすぐに会えなくなり、──映像通話は、なぜかショウがいやがるので、──電話とメールだけでやりとりする関係になった。

 そうして1年がたち、2年がたち、

 わたしは卒業して、システムベンダーの営業職になった。下っ端は毎日いそがしく、ショウと連絡をとる余裕はなくなっていった。月に何日かの休日は、ぐったりと寝ていた。

 頭の片隅に、別れ話をしなければ、という思考はあった。そもそも私たちは付き合っているといえるのだろうか、とも。そんな思いさえ、忙しさに紛れていった。

 金曜日の夜、1時。

 職場を出て、歩いて30分のアパートへ歩いている途中、着信があった。ショウからだ、と認識する前に、反射的に出ていた。

 もしもし、と言う前に、ショウは早口でしゃべりはじめた。なにを言っているのか、よくわからなかった。……早口すぎて、というより、──寝不足の頭には、かれの溢れ出るようなおしゃべりは、ほとんど理解不能で。

 ただ、……すぐに来てよ、と言っているのはわかった。

「どこに?」

 必死でといかえす。通話に、少しずつノイズがまじってきていた。電波が悪いのだ。いわれるままに、走る。アパートの反対側。高架下をぬけて、入ったことのない路地裏を。古びたビルのあいだ、ぽっかりと空いた土地。そこに、ショウはいた。

 あのときと、まったく同じ笑顔で。

 かれの後ろには、──大型トラックの倍くらいの大きさをした、脚のはえたコンテナのようなものがあった。

「……時間、かかっちゃって。家の都合で」

「家の、って」

 わたしは、かわいた口で聞き返した。もう一度、かれの後ろのコンテナを見直す。コンテナの底部には、スカートのように広がった、銀色のパーツがついている。

「その……母星の」

「え?」

「あの星、」

 わたしたちの頭上に、すっと指をさして。

「……あれを、正式に君のものにする手続きを、してきたんだ。だから、」

「なに、言ってるの?」

「結婚、しよう」

 はぁ、とまぬけな声がわたしの喉からもれた。口をひらく前に、ごう、と大きな音と、つんと鼻をつくにおいの風が顔を叩いた。コンテナの銀色のパーツが、はげしく光って、大きな唸り声をあげていた。

「ねえ、わたし──、」

「乗って!」

 ショウは強引にわたしの手首をつかんで引っ張った。

 ふりはらおうか、と一瞬だけ迷ってやめる。おとなしくついていくと、コンテナの前面に、ぽっかりと入り口があいていた。さっきまでは、そんなものはなかったはずだが。

 こわごわと、入り口をくぐる。中はとても明るくて、……まるで、空間をねじまげたみたいに、広かった。あたりを見回そうとした瞬間、ごうっと足元がくずれるような感覚がして、わたしは膝をついた。

「大丈夫?」

 ショウの腕にすがって、なんとか立ちあがる。

 眼の前に、窓があった。空間の外周ぜんぶに広がっているような、大きな窓だ。断言してもいい。さっきまでは、なかった。

「ほら、見て!」

 外を見る。


 青い地球。写真で何度も何度も見た景色。もう、日本がどこかもわからない。地球のうしろには、まっくろな宇宙空間と、きらきらとさんざめく天の川の星ぼし…、


「これ、」

 頭が真っ白になっているところに、小さな声。

 横をむくと、ショウは真剣な目をして、両手で何かをさしだしてきていた。

 リングケースに入った、指輪だった。

 わたしは絶句して、それから、しばらくショウの目をみて、

 しかたなく、笑った。


 ショウは、昔からこういう奴なのだ。

https://twitter.com/kusunoki_umou/status/1364049859314089985?s=20&t=khp69Tt5z3880A88WXNLhg

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