再会
十年ぶりの背中。しばらくためらってから、黒いスーツの後ろ姿に声をかける。
「ひさしぶり!」
夜の住宅街。飲み屋の並ぶ大通りから、駅へむかう抜け道。わたしは残業を終えて、アパートへ帰るところだ。
振り向いた顔が、あっと驚いたふうなのをみて、安心する。他人のような目でみられたら、どうしようかと思っていた。
「げんき? 10年ぶり、かなあ」
歩み寄ると、あいても安堵したように、口角がさがる。昔の顔にもどったみたいに。ほんのりとお酒のにおい。飲み会の帰りだろうか。
公園前の自販機で、コーヒーを買う。酔って、財布を落としそうになる彼を手で制して、ふたりぶんのお金を入れる。いいから、と笑うと、どうも、とはにかむ。熱いコーヒーの缶を渡す瞬間、つめたい指のさきが肌に触れる。
つとめて明るい声で、昔のことを話す。
同窓会には、忙しくていけなかった。まだ新人で、決算の繁忙期だったから。みんなで映画を見にでかけたとき、急に気分が悪くなって帰ったことがあった。成人式にもこなかったね。中学校では、忘れ物ばっかりして。
「ねえ、シュウ君」
ちょっとした沈黙をつかまえて、わたしは笑いながらいった。
十年前、どうしても聞けなかったことを。
「……あのころ、私のこと、好きだった?」
ちいさく、頷くかれの顔をみて、
わたしは満足して、にっこりと笑った。
それだけ。
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