コンタクトレンズ
「……つけたら、しばらく、座っていて下さい。慣れるまで」
はじめてのコンタクトレンズ。そうっと、目にあてる。びくりとふるえるまぶたを気合でおさえて、眉に力をこめながら。
直前で、指がとまる。やっぱり、こわい。
深呼吸。
「やめとく?」と母。眼鏡も似合うじゃない、と、さっきも言われた。小学生のころからずっとかけている、四角いメタルフレームの、かわいくない眼鏡。
気に入っていないわけではない。けれど、やっぱり。
もう一度、右目に指をぎゅっとさしいれる。なんのことはない、ちょっとしみるような感じが一瞬だけして、ソフトレンズが指から離れる。一瞬、違和感で頭がまっしろになる。
思い出す。
『眼鏡、外したほうがかわいいんじゃない』
ただの気まぐれだったのだと思う。どういう会話のなりゆきだったのかも覚えていない。ただ、あのひとが、そう言ったのだ。
それで、決心がついた。
思いきって、左目にも。眼球にそっと触れてから、まばたき。何度も、何度も。
顔をあげる。心配そうな母の顔が、にじんでうつる。目が慣れていないのか、それとも、涙があふれているせいか。
リラックスして、数秒。だんだんピントがあって、視界がよくなってくる。
ガラス張りの壁。そのうしろは、広い歩道。日曜の昼だ。三軒むこうに映画館があるので、人通りは多い。
ふと、知った顔が目にうつる。おもわず、凝視してしまう。
あのひと。と、知らない連れ。ふたりのあいだの距離。
ぼとりと、涙がおちる。よかった、と思う。今このときで。母に心配をかけずにすむ。
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