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むこう

「いま、少し遅れなかった?」

 おもわず、そう口に出すと、となりで手を洗っている璃子がきょとんとして、「なにが?」と聞き返す。

「いやぁ……鏡が、」

 いいながら、そんなわけはないと思い直す。

「……これがあ?」

 璃子はぐっと身を乗り出して、洗面台のむこうの鏡に、指をつける。


 ──その、指が、やはり少しずれたような。


「……わッ!」

 レバー式の蛇口が、璃子の胸で押されて、水がとびちる。

「やっばー、もう!」

 びしょびしょになった制服の腹のところをハンカチでごしごしこすって、璃子は悲鳴をあげる。

 それで、うやむやになった。



 放課後、だれもいない教室で、手鏡をつつく。

「……やっぱり」

 何度も、指を鏡面にあてる。そのたびに、少しずつ、鏡像とこちらの指のタイミングがずれて、ぴったり重ならない。

 顔を近づけて、のぞきこむ。

 まばたき。ずれているような気もするが、よくわからない。じいっと、見つめる。表情が違うような気もする。よくわからない。

 眉根を寄せると、鏡のなかのわたしも、同じように。けれども、ちょっと違うような気もする。けわしい、頬にぎゅっと力を入れた顔をして、それから、ゆっくりと唇を、──

 ……おもわず、手鏡をとじる。

 大きく息をつきながら、立ち上がる。

 まさか。そう思いながら、教室をでて、トイレへ。電気をつけると、鏡には、ふだんどおりのわたしが映っている。

 そっと、鏡面に手をのばす。……と、みせかけて、寸前でひっこめる。フェイントだ。


 ……鏡のなかのわたしが、指を鏡面につけた姿勢で、硬直していた。


 やってしまった、という顔で、目をまん丸くして、かすかに震えている。

 唇がうごく。なんて言っているのかはわからない。

 叫ぼうとするが声がでない。そんなふうにも見える。


 ──とりかえしがつかないことを、してしまったのか。


 ぼんやりとそう考えながら、わたしはいつまでも立ち尽くしていた。

https://twitter.com/kusunoki_umou/status/1264030900649709568?s=20&t=mqrqRXxb2JwYy1goBngTgA

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