第35話 チート
『こ、これは俺じゃない!違う!俺は何もしてない!』
『はいはい、自分の知り合いにもよくいましたよ、“何もしてない”のにいきなりレベルが20以上上がったラッキーな人が。で?何人殺って、どこに死体を隠しやがった。早くゲロった方が身のためだぜ?』
『誤解だ!俺はそんなことやってないっ!信じてくれ!』
『ああ゛? バックレてんじゃねぇ!ネタが出てるんだよ、ネタが! おい、アレを見せてやれ!』
(横からスッ)
【名前】: 森 春樹
【LV】: 25
【生命力】: 179000
【魔力】: 198000
【攻撃力】: 87000
【防御力】: 91000
【敏捷】: 110000
【精神力】: 1000200000
『おうおう! 随分と羽振りのいいステータス値じゃねぇか。一体何人バラしたらこんなことになるんだぁ?是非とも知りたいもんですねぇ、え?』
『こ、こんなの知らない!!』
『へぇ、そうかい。もういい、話は終わりだ。このラッキーマンを牢にぶち込んどけ 』
『い、イヤだ!俺じゃない!離してくれ!俺は無実なんだあああぁぁ!!!』
この辺まで思考がトんだところで、謁見の間でヴィクトルクソ団長が言っていた事をハッと思い出した。
確か、レベルって生物を殺す以外に、効率は落ちるが純粋なトレーニングで上げられるんだったな。
なーんだ、んじゃあ何も心配する事はねぇな。
ほっと胸を撫で下ろす。
うん、安心した。
筋トレだけで能力値が二桁増えた事実をガン無視して、安心した。
それはさておき、さっきはニヤニヤしてた会議の皆さんは、
「「「「「「…………」」」」」」
声なし、動きなし、瞬きなし、呼吸なし……鼓動なし!?………よし、マジックで額に『肉』って書いてやるか。
「「「「「「なんじゃこらあああ!?!」」」」」」
チッ、生きてやがった。
この村に来て、こんな風にユニゾンに驚かれるのは何度目になるだろうか。
流石に見飽きたリアクションに困惑はない。
冷静に考えて、変人の集団に「お前はおかしい」と言われて動揺する必要があるのか否か。
うん、ねぇな。
はいはい、そんなに恐れ慄いて、今度は何に驚いてるんですかね。もう何を言われてもツッコまねーぞ。ふっ、この余裕よ。
「あ、でも、思えばそう大したことないか」
「ん〜、そうですね〜」
「不意打ちかーいっ!!」
……はっ!?
チキショウ、暴発しちまった!
ガッデム、何も言ってないのにラファエラさんがしたり顔してるぞドチクセウ。
「まあ、念のために聞くが、汝の【精神力】はレベル1の時点でこんなに高かったのか?」
「へ?あ、ああ、確か10億ちょうどだったけ」
「ふむ、して、同郷の方は?」
「いや、クラスメートは軒並みに高い数値だったが、こんな桁外れなのは俺だけだったな」
「む?そうなれば辻褄が合わぬが………いや、しかし……ならば何故………」
俺とラファエラさんの謎の攻防を他所に、カッサンドラさんが一応って感じに質問してきたけど、なんか予想した返答と違ったのかそのまま考え事に没頭してしまった。
こう、上手く噛み合わないパズルのピースと睨めっこしてる感じで、こちらは放置状態である。
いや、何の念のためか、全く要領を得ないんだが。おーい………
「……つーか、【精神力】だけで、他の項目にはコメント無しか?」
「こんくらいフツーだべ」
「フツーだぜ」
「普通ですね」
「あっ…………フツウ、なんだ」
「で、でも!私はステキだと思うへぶっ!?」
どうしよう、変人の集団に普通判定されちゃったよ。
しかも、上腕二頭筋を強調させながら清々しい笑顔でこっち見てるし、どういう意味だ。
何か怪しい、ステロイド教的な宗教の勧誘みたいだから止めてほしい。
後、視界の端でラーニャさんの頬にヘレンの右拳が突き刺さった気がしたが、そっちはなるべく関わらないようにしよう。決して、鼻息を荒げながら詰め寄って来た女郎蜘蛛に恐怖した訳ではない………震えるな、この足め!
そんな精神的ダブルコンボに打ちのめされてたら、どうやら考えが纏まったカッサンドラさんの声が上がった。
「ふむ、未だ不明瞭な点は多いが、一先ずの仮説は立ったぞ………汝は何をしておるのじゃ?」
「え?何が?全然大丈夫ですけど?これは武者震いってやつだし?それより、俺の【精神力】がどうしたって?」
「床が揺れてるのだが……壊すなよ? で、話を戻すがハルキ、これは何と言えば良いのか………うむ、ぶっちゃけ汝の魂はバカでかい」
「ホントぶっちゃけたな!?」
つーか、すげぇ話が飛んだぞ!?
「それが色々と小難しい理屈があってのお。この世の神秘に触れたような話で、我々もそこまで深く理解してぬ故な。宇宙の構造やら超次元やら……じゃが、農家(辺境の)であるからには何時かは対面せざる得ない真実故、取り敢えず聞け」
おい待てコラ。何だその不穏な発言は。
どう間違えれば農家がそんな神話的なハイカラワールドと関わるんだ。
迎えの筋肉ダルマを見る。なるほど、こう間違えるのか。
そんな訳で、心底面倒臭そうにカッサンドラさんは【ギフト】に続いて本日の説明会パート2を開始したのだが、俺はいろんな意味で後悔することになるのだった。
小一時間後。
………………………………
…………………
…………
……うん、これ、何て要約……解説?すればいいんだ?
取り敢えず、途中からヘレンが寝こけてしまって、ノーマークになったラーニャさんを仕方なく簀巻にしたハプニングがあったが、これはちょっと違う気がするな。
「は、ハルキ君、私を縛ってナニする気なの!?(ドキドキ)」
なんもしねーよ。
一言で表すなら、原型を見失う程の巨視的思想。
コシが出るほどこねくり回された理論。
難解な哲学書と意味不明な中二ノートを足して割った世界観。
カッサンドラさんの巨乳……あ、すまん、これも違うか。後半以降それしか見てなかったからうっかりしたぜ………
いやいやいや、もう少し頑張ろうぜ!?
これじゃあ長々と解説してくれたオッパイ、じゃなかった、彼女があまりにも不憫じゃねぇかよ!
よし、物質世界?概念世界?ワッターシ・ニホンゴ・ワッカリマセーン?は、さて置き、肝心な【精神力】と魂のくだりを踏まえておこう。
城でのクソ団長の解説によれば、一見判然としないこの数値は魔力の扱いの上手さと耐性を表すそうだが、どうやらそれは表面上の効果であって本質は異なるらしい。
ズバリ、人間とは物質的な『肉体』と高次元的な『魂』と『精神体』で構成されており、後者の形而上学的なパーツを数値化したものこそが、ステータス上の【精神力】なのである。
なんのこっちゃかって?
だーかーらー、この世には物理法則に準ずる物質世界があってー、その写し鏡のように別の次元、弦理論とかパラレルワールドとか全く関係ない高次元に概念世界というもんがあってー、そこで俺らの魂やら精神体やらがレッツパーリーしてるワケよ。
厳密には、概念世界と他の次元は別の物でありながら同一だそうだが、これ以上の詳しい説明は拒否する。意味分かんねーし。
後はまあ、大体カッサンドラさんのオッパイで説明が付くな。少なくとも俺の中では。
さて、本題に移って『魂』と『精神体』がどう違うのかというと、左が生き物の“根源”で右がその表層を成す概念体のことを指す、らしい。
魂とは、深層意識、人格、心、ある存在をそう足らしめる全ての起源……らしい。
一方で、精神体とは魔力と言ったエネルギー操れるもう一つの『身体』。魂を覆うような構造の為、その影響を色濃く受ける…………らしい。
この『らしい』とは、魂と精神体の知識自体が仮設に過ぎないからであって、決して俺の理解力の問題じゃない。決して。
人間が人間の根底を人間の思考力と尺度で完璧に分析するのは、ファンタジーが入っても無理だと言うことなのかもしれない。どう仕様もないこととして諦めるべきなのだ。よし、諦めた。
大事なのは、魂と違って精神体は変化するという点である。
正確には、不変なる魂を土台にして、その存在が成熟するにつれて精神体も成長を遂げるのだ。
“成熟”とは、即ち世界のシステムでのレベルアップ。つまり、レベルアップによる【精神力】の増加は精神体の成長によるものらしい。
逆に、レベル1での【精神力】とはそのまま剥き出しの魂の規模を表すのである。
ここで漸く俺の魂が馬鹿でかいという話に辿り着くわけだ。
「うんうん、なんとなーく分かったぜオッパイさん」
「おい貴様、今、吾輩をなんと呼んだ?」
「つまり体は大人中身は子供、これじゃあ名探偵にはなれんな、カッサンドラさん」
「いや、そんなの知らんがそれは最後の方の話じゃろう。その前は?この世界の構造は?一時間近く説明してやったのじゃぞ?ちゃんと聞いておったのか?おい、なあ、おい」
貴女の谷間が素晴らし過ぎて聞き流してました、キリッ、なんて言えるわけねーだろ。
悪魔美女がすげえジト目を突き刺してくるが、俺は極力賢そうな思案顔で話を進める。
「俺の魂が異常にでかいのは解った。だがそれがどうした?」
「………はあ、良い。そうじゃな、汝程の魂を持つと」
すると、オッパ……カッサンドラさんは色々と諦めたような溜息を吐いて急に険しい表情を見せた。
さらに眉間にしわを寄せ、何か言い澱む感じに口元を手で覆った。
「………」
………あれ?黙ったままだけど、まさか、なんかヤバイのか?
魂が大き過ぎると、その器である肉体が爆四散してしまう、とか?………うん、ない、ないなソレ。ないったらない。
きっと大丈夫だ。十五年間大丈夫だったんだ。だからこれからも大丈夫だ。
アレだ、せいぜいソ○ルソサ○ティに狙われるとか、斬○刀が超巨大になるとか、そんな感じの不都合だろう。うん。
「強大な魂を持つと………どうなるんなんじゃろうなぁ」
「おい!」
いや、おいっ!
おい!
ここまで説明しておいて、おいっ!
色んな意味でおいっ!
「いや、気持ちは解らんでもないが、実際微妙じゃからのう」
「あ〜、確かにそばでバルちゃんたちがいたら、そう思っちゃいますよね〜」
「何のことだ?」
いきなり話題に出た本人たちに視線を向けるが、三人は無言でより白熱したポージングをし出した。だからどう言う意味だ!
「いや、確かに強いぞ?と言うか、むちゃくちゃ強いぞ?龍神とか星霊とか聖獣とか、最上位の生命体は例外無く規格外な魂の保有者じゃし」
「魂とは言わば魔術への素質でして〜、魔術の強さだけで〜、生物として絶対の優劣が決まっちゃいますからねぇ〜」
「基本的に魔術に勝る攻撃も防御も技術も存在せぬしのう。俗説で我々悪魔族や天使族が崇められてるのも、偏に他より強力な魔術を扱える為じゃ。逆に言えば、魔術の一切を使えぬ輩は最弱どころの話では無い。仮に邪神と相対したとしても結果など自明の理………の筈なのじゃが」
「「「邪神も龍神も星霊も聖獣も、普通にぶっ飛ばして(やったべ)(やったぜ)(やりました)」」」
「オメェらが犯人かよっ!!」
大胸筋をビクンビクンさせながら自慢する筋肉トリオに、またもやツッコミを入れてしまった。
ヤッたんか!?その筋肉で邪神殺ったんか!?
確かに外見的には何だか殺れそうな気もするが、見掛け倒しじゃないにもほどがあるだろっ!
さっきの刑事さーん!この筋肉お化けどもです!
え?マッスルすぎて無理?………そうですか。
「まあ、それとは別に、そもそも魔術を使えぬ汝は高い【精神力】の恩恵を半分しか受けられんしな。そこを含めて微妙としか言えんのじゃよ」
「えー?まーたその話かよ。何で俺には頑なにチートが来ねぇんだよ、クラスの奴らで売り切れたのか?…………あれ?ちょっと待て、そう言や何で俺だけ魂がそんなにデカイんだ?」
「それは謎じゃな。初めは異世界人故に魂の規格が異なると思ったのじゃが、どうも違うらしいしのう。ハルキよ、汝は出征は不明と申しておったが、改めて心当たりはないか?」
「いや、そんなこと言われても」
全く心当たりございませんね。
孤児になった経緯もありきたりでロクデモナイ物だったし、そもそも親がそんな凄そうな奴らなら子供を捨てないと思うし。
地球にいた頃も、生まれるべき性別を間違えたこと以外は割と普通だったし………普通だよ?少なくとも辺りにいた奴らと比べたら普通だよ?
うーん、知らん。
長々と話したが、結局解ったのは魂が大きいという事だけか。なんか、肩透かしだな。
そう思ってたら、カッサンドラさんは何気に重大な情報を呈した。つーか、最初にこっちの方を教えて欲しかった。
「因みに、汝等がココに飛ばされたのも魂のせいじゃぞ」
「………は?えっ、今なんて?」
「いや、じゃから汝とヘレンを異領域に転移させた古代遺産の誤作動を招いたのは汝じゃ。10億の【精神力】はとんでもない魔力抵抗を生み出すからの、如何に古代遺産と言えど破損をま逃れんよ」
「OH………そう言や、召喚された時も何やら目論見通りに行かなかったって、あのクソ団長が言ってたが……」
「うむ、汝が召喚術式の何処かを意図せず消し飛ばしたのだろう。概ね、召喚までは成功したがその後の支配や隷属の魔術が失敗した、と言ったところか」
………やっぱ犯人は俺だった!?
いや、その件は全く全然これっぽっちも申し訳なくねぇが、そうかぁ、異世界初日で【異領域】で死にかけたのはそのせいだったのかぁ。
そして毎日この変態どもに殺されかけてるのもそのせいなのかぁ。あはは。
「後、我々の誰にも悟れぬヘレンの気配を汝が感知出来るのも、その魂のお陰であろう」
「ん?そっちも関係してるのか?」
「恐らく、な。【精神力】は幻惑や精神操作なども無効化するが、悪魔族の吾輩ですら惑わす性質なら最早普通の【精神力】では対抗できぬ。より深い、魂そのもの強さが必要じゃ。その一点に関しては、汝は吾輩よりも、否、下手すれば世界の何者にも劣らぬかもしれぬ」
その言葉を聞いて、完全に隣で二度寝をしているお姫様を眺めながら、彼女と初めて会った時のことを思い出す。
城の薄暗い地下監獄の石床の上で、夜空に取り残された星のように座していた幼姫。
彼女は、初対面の相手といつもしてるように、ジッとこちらを観察していた。
あの時、何故あんな場所に居たのか、俺は未だ知らない。だが、それは間違いなく誰にも予想できなかった出会いだったのだろう。
あり得ざる場にいた、見えるはずのない存在。
それでも、俺に見付かってヘレンは嬉しそうだった。
その後見付けた時も何処か嬉しそうにしてた。
なら、微妙だろうと宝の持ち腐れだろうと、この異常な魂を持ってよかったと思う。いや、そう断言できる。
「あ〜、でも〜、魂の防壁って攻撃魔術だけじゃなくて回復や補助魔術とかも無効化しちゃうんですよね〜」
「………」
「え?あ、あの〜、ハルくん?なんでそんな目で見るのです?こ、怖いですよ〜?半端なく怖いですよ!?」
「毎度思うんだけどよ、いい加減一言多いんだよこのクソロリババア!」
「まあ〜、なんですかその言いようはっ!いつも治癒魔術と浄化魔術かけてあげてるのに〜」
「事実を捏造してんじゃねぇ!テメェが唯一俺を治癒したのは修行初日の一回だろうが!後、浄化魔術なんてもらったことないわ!………ない、あれ?ある……?俺、なんでこいつに浄化されたんだっけ?」
「いいです私が悪かったですごめんなさい謝りますだから思い出さないでくださいっ閣下!!」
「え?なに……」
突然土下座するラファエラさんにドン引きする俺、その仲介に入るカッサンドラさん、未だマッスルポーズのままのマッスル三馬鹿、簀巻きのままモジモジするラーニャさん、なお幸せそうに寝てるヘレン。
ちょっぴり込み入った話をして、一時シリアスにもなったが、魂や世界のシステム云々を他所に俺たちは新く騒がしい一日をこうして始めようとしてた。
そもそも、この話し合いの発端は俺のファンタジーの法則を以てしても不可解な飛行事件だったのだが、果たして誰か覚えているだろうか。
恐らく、この変態超人達にとってはその程度の珍事は深刻でも何でもないのだろう。
だが、俺は知る術もなかった、この時点で自分が彼らの基準でもかなりトンデモナイことになってることを。
「………さて、遅くなったが、朝飯作るか」




