第34話 新たな扉を開く……違う、そっちの意味じゃない
光を観た。
何処にも記録されてない、あまりにも遠い過去。
虚無をさまよう物質が一点に集まり、圧縮し、臨界点に達し、爆発したのだ。
即ち開闢の瞬間。そうして始まった大宇宙。
天と地が乖離され、光と闇が隔たれ、時は動き出した。
ある惑星は命を育み、彼らは空を拝んで夢を掲げた。
人類の進化。文明の発展。技術の進歩。深まる思想。
導き出された、世界の答え。
永遠と広大し続ける星々の絶海。
なるほど、定命の人の身からすれば、なんと大きな現実なことか。
だがいずれ、時の果に原初の推進力は停滞し、全ては再び一点に集結されることだろう。
そして万象はまた繰り返されるだろう。
那由多の天体を引き寄せ、この偉大なる機械仕掛けを動かす力の名は、重力。
万物は、上から下へと落下する。
万物は、上から下へと落下する。
万物は、上から下へと落下する。
万物は、上から下へと落下する。
万物は、上から下へと落下する。
万物は、上から下へと落下する。
万物は、上から下へと落下する。
万物は、上から下へと落下する。
万物は、上から下へと落下する。
上から下。
そう、俺はこの世の真理に至ったのだ。
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ハルキ君が「農家(辺境の)流修行・フェイズ2」を始めてから三日目の明け方、起きたての私にアリアちゃんがこんなメッセージを届けた。
『ハルキが変になった。救援求む。
by ラファエラ&カッサンドラ』
嘗て、大陸にその名を知らぬ者はいなかった英雄たちに頼られるなんてすごく光栄なことだ。
それ抜きでも、メープル・スプラウトに来たばかりに頃、二人には大変お世話になったので力になれるのなら何でも手伝いたい。
だけど……
私は、急ぎ足で畑道を進みながらもう一度手に持った伝言に目を落とす。
『ハルキが変になった。救援求む。』
書く手が震えてたのか、字が少し歪んでいた。
イヤな!
予感しか!
しませんっ!
事態を把握する前から悪寒が背筋を駆け上がる。
だって、ハルキ君怖いんだもん!
あの子と話すと、必ず一回は『あ゛?』って凄んで来るから怖いんだもん!
どうして?私の何がダメなの?なんで突き放すの?
私はただ、(色んな意味で)仲良しになりたいだけなのに。
怒りん坊な男の子も好み(捕食対象)だけど、あれはちょっと違うよぉ。
あんなの外見詐欺だよぅ!
遠くでハルキくんが「テメエが言うんじゃねええぇ!!」って、また恐ろしい形相で怒鳴った気がしたけど、気のせいだろう。
こうなったら腹を括って行くしかない。
ララさんとドラさんが揃って手を出せない状態なら、もしかしたら命の危険だってあり得るのだから。
ファイト!私!
そうやって自分自身に喝を入れてると、修行場である松林に到着した。
と言っても、それは外見だけの話で、実はブラスタートルントと呼ばれる魔物の群れである。
大分前にアルさんと一緒に品種改良したのを覚えてるな。確か、徘徊能力と攻撃性の削除、風味向上に成功したけど、その代わりに爆発力が五倍になったんだっけ。
また、遠くでハルキ君が「お前かー!またお前なのかーっ!」ともんどり打ってる気がしたが、きっと空耳だろう。
でも、念のためこのことは秘密にしちゃおう。てへっ。
ついでに木々の育ち具合をチェックして野道を駆ける。
そこで、ふとあることに気付く。
………林が、静かだ。
おかしい。
フェイズ2、平衡感覚を完全に狂わされた状態での綱渡り。
それをこんな火気厳禁な場所で行ってる筈なのに、そよ風で枝が揺れる音すら聞き取れるなんて。
ひょっとして、修行が継続できない状況に陥ってるってこと?!急がなくちゃ!
余談だけど、何故そんな無茶を通り越して無意味なことするの?と、ローちゃんとリッ君にうっかり尋ねたら、二人とも暫く閉口してから、『………何故だろう………何故だろう』と三十分間ばかり虚ろな目で呟いてた。
結婚してから初めて旦那様たちに無視された瞬間だった。
「いた!ドラさーん!ララさーん!」
不安が募る一方でようやく二人の姿を見つける。
双方無事のようだけど、私の呼びかけに振り返った彼女たちの顔には感情がなかった。瞳に光もなかった。
「どっ、どうしたのですか?ハルキ君は?」
生気のない様子に思わずたじろぎながらも聴くと、ドラさんもララさんも何も言わず、その代わり空のある一点を同時に指差す。
釣られて顔を上げると、そこには、
「フゥワハハハハハ! 俺はぁ、ついにぃ、自由ダァアアァ!!」
身だしなみを乱して、目隠しをされて。
ところどころ服が焦げて、髪も縮れて。
それでも、ものすごく満ち足りた、恍惚とした表情を浮かべて。
空を自由に飛んでるハルキ君がいた。
「……………………………ぇ?」
喉から声らしき音を出せたのは、約三十秒後だった。
「ぇぇえええええーっ!?!飛んでるーっ!?……あっ、なんだ、飛行魔術を掛けたんですね?」
「そんなのやっとらん」
「ぇぇえええええーっ!?!魔術なしで飛んでるうぅーっ!!?」
静寂な林に私の悲鳴が二度響き渡った。
「どっ、どどどっどうしちゃたの、アレ!?」
勢いでアレって呼んじゃったよ!
でも、そんなの気にする余裕もないよ!
こちらの動揺に、やはりお二人は何も答えず、揃って目を伏せて首を横に振る。
あっ、もう手遅れなんですね、残念です………じゃなくて!
「…………何かブツブツ言い出したと思えば、ああなったのじゃ」
「…………駆けつけてありったけの浄化魔術を浴びせましたけど、あのままでした」
「フゥワハハハハハ! これはもう、誰にも止められねぇぜえエェッ!!」
「「………はぁ〜っ」」
その人生に疲れきったようなため息に何も言えなくなる。
流石、流石だよ、ハルキ君……っ!
「じゃが、汝が来てくれたことで何とかなりそうじゃ。助かったぞ、ラーニャ」
「え?どういうことです?ララさんにも治せないなら、私何もできませんよ?」
「いや、何、汝には糸を使ってあの阿呆を回収してもらいたいのじゃ。どうもこちらの呼び掛けに応じぬのでな」
「へ?でも……二人とも飛べますよね?」
「なんか〜、アレに直接触れるのって〜気持ち悪いじゃないですか〜」
………それはひどいと思うのです。
「フゥワハハハハハ! ちょーハイでイっちまいそうだっぜぇえええええ!!」
前言撤回、激しく同意します。
「えっと、魔術で捕らえてみるのは?」
『咎を縛れ:セイクリッド・チェイン』
『夜に囚われよ:ダークバインド』
苦し紛れな私の提案が間髪入らず実行に移される。
でも、超高速で飛来した魔術の連射をハルキ君はヌルルンッと回避する。
ドン引きした。
私でも避けられそうにない魔術を躱した事より、そのスライムじみた動きにドン引きした。
「こんな感じじゃ。齢十数年の小童すら拘束できぬとは……何だったんだろうな、吾輩の人生」
「あーっ、もう!分かりましたよ!今、捕まえてやりますよ!」
「悪いの。こと捕縛能力に関して我々は汝に及ばぬのでな。まさか範囲攻撃で撃ち落とすわけにも行かぬし」
「ラーニャちゃんでも捕まえられなかったら〜、容赦なく撃ち落としますけどね〜。頑張って〜!」
「脅迫ですか!?」
それから、貧乏くじを引かされた気分で蜘蛛糸を張って、おかしくなっちゃったハルキ君の回収作業に入った。
でも、【異領域】の魔物でも察知できない私の糸を何故かすり抜けるのでかなり苦労した。動きと、表情が、とても、気持ち悪かった。
ドラさんとララさんに頭を深々と下げられながら念入りに縛っておく。
そこで、自分の糸から伝わる感触であることに気づく。
「ん?」
ハルキ君、前よりずっと美味しそう になってる?
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イカロスは空に挑み、太陽に翼を焼かれて海に落ちた。
だが!俺は地に叩き付けられることで天空を制覇した!
自分でも何を言ってるのか解らねぇ!
とにかく!地を這う運命だった人類の悲願は成就されたのだ!
諸人よ!ついにあの大空を制服したぞ!
「あー、では、これから第三回バルズーク家家族会議を行う。取り敢えずハルキ、さっきの気色悪い飛行能力はもう使うな。以上じゃ。解散」
「なんでだよ!!」
人類の進化は、喝采を浴びる前に悪魔に否定されるのだった。
皆が集まったバルズーク家の食卓。気が付いたら、一昨日のように全員分の注目を集めながらそこに座っていた。
何故か蜘蛛糸でぐるぐる巻きにされた状態で………え?何故?ちょ、これマジで抜けねぇ……っ。
「なんでって、こちらが『なんで』じゃよ。なんでいきなり空を飛ぶのじゃ。有り得んじゃろう。なんで、毎度毎度汝のやることなすことにドン引きせねばならぬのじゃ、付き合ってられぬわ、もう嫌じゃ」
「それはお相子さ♪」と喉まで出かけたけど押し黙る。
カッサンドラさん、常時貫禄を見せてるのにスゲーやさぐれっぷりだ。残業帰りの疲れ切ったOLって感じである。
頬杖をついて机に突っ伏してらっしゃる。
頬杖をついて谷間が大変なことになってらっしゃる。
いい………睨まれた。
「ま、まあ、気持ちは解りますけど……すっごく解りますけど、ちゃんとやりましょう。大事なことなんですから」
どういう意味なのか、共感してることを強調しながら彼女を宥めるラーニャさん。
ラファエラさんも意地で俺と目を合わせようとしないし、一体なんだって言うんだ。
ちょっと空を飛んだだけだろう。しっかりしろよ、ファンタジー。
それより、この糸、マジで取れねぇんですけど………
俺のこの姿を見て何を思い出したのか、妙に不安げなヘレンの隣で蠢いてる間に気を取り直したカッサンドラさんが姿勢を改めて会議の舵を取った。
「はあ、やむを得んか……よし、ハルキ、試しにそこで少し浮いてみておくれ。良いか、浮くだけだからな?妙な真似はするなよ?男集は不測の事態に備えて警戒せよ」
「了解だべ」
「解ったぜ、姉御」
「良いでしょう」
「それじゃ〜、私は〜、ちょっと用事を思い出しましたので〜」
「逃げちゃダメですよ、ララさん!気持ちは痛いほど分かりますけど!」
「ラーニャはラファエラを逃すな。よし、準備は良いな?始めてくれ、ハルキ」
……………。
「いや、だからいい加減この繭から出せよ!」
そういう感じで、やっとラーニャさんに拘束を解いてもらって皆の前に立つ………なんか、作業中やけにボディータッチが多かった気がしたけど。
「やっぱりそそるなぁ」と熱っぽく囁かれて、ケツ穴から寒気が走った気がしたけど。
瞬時にヘレンが髪を逆立てて殴り掛かって来たので、ナニをされそうだったか知らないけど。
きっと、全てが大きな勘違いなのだろう 。
震えが止まらない自分の体にそう言い聞かせて、イケメン二人の殺意の眼差しを受けながらフワリと浮き上がる。
そして、支持された通り前進、後退、宙返りなどを披露する。
「スゲーべ!ホントに飛んどるべ!」
「ん〜、魔力の動きを感じますね〜」
「だが、やはり魔術ではない。それどころか風すら立たず推進源も不明。他の者はどう見る?」
「………空を飛びながら(捕食)するのって、すごくロマンチックかも」
「ラーニャ!?何故です!私というものがありながら!」
「飛ぶぜ!オラァお前のためならどこまでも飛ぶぜ!」
「よし、貴様らは黙っておれ。ハルキ、汝は如何にして浮遊してるのじゃ?」
「気合だ」
「よし、貴様も黙っておれ」
それから、時折脱線しながらも考察や推察が飛び交ったが、最終的には、
「「「「「「なんで飛んでる(のですか〜)(のじゃ)(んべ)(のかな)(んだ)(のでしょう)???」」」」」」
一斉に揃って首を傾げるのだった。
おいおい。
「つーか、なんでそんなに騒ぐんだよ。ちょっと飛んだだけだろう。一晩で30センチ背が伸びるのと大して変わらねぇじゃねぇか」
「全然違うわ、どうして生身の人族が魔術も使わずに飛行するのじゃ」
「そりゃあ、ギフトってやつじゃね?」
「そんな訳があるか………いや、すまぬ。この類の知識について疎いのだったな」
謝罪を入れてから、カッサンドラさんは遅ればせながらギフトに関して詳しい説明をしてくれた。
まあ、今まで活躍の場面も調べる余裕もなかったので、仕方ないのだが。
ともかく、あまり効果を感じさせないこの不思議能力の全貌は、以下の様になる。
【ギフト】。
【全言語理解】は都合のいい物として、【万象鑑定】は忌々しいクソ野郎として認識していたそれらの正体は、魔力によって変質した己の「行為」らしい。
剣術を扱うと魔力が関与して【剣術】のギフトを得る、槍術を扱うと魔力が関与して【槍術】のギフトを得る。そういった感じだ。
その関与と変質の結果は、物理法則の凌駕、と、非常に夢の溢れる言葉だが、残念ながらそこまで劇的な補正はない。精々、地球の精密機器で観測すれば数値が何パーセントか狂う程度だ。
確かに、ギフト保有者とそうでない者とではアマチュアとオリンピック選手くらいの差は生じるが、逆に言えばまだその程度。重力を反転させたり、光より速く動けたりはしないなのだ。
まあ、それでもこの世界にはレベルやステータス値が実存するので、最終的には漫画でしか見ない超人技とか出来ちゃったりするのだが、それらは飽くまで人の行為を強化した物に過ぎない。
ここで、今回問題視された俺の飛行事件に繋がる。
【ギフト】には、その発現の過程上個人差があり、何より【種族】によって定められた枠が存在する。
要するに、【人族】は研鑽を積めば剣で大岩を切れるようになるが、どう頑張っても水中で呼吸したり空を飛べたりはしないと言うことだ。少なくともこの世界のロジックでは。
「ファンタジーは何処に!?」
「いや、ギフトでは不可能というだけであって、魔術さえ用いれば空中でも水中でも地中でも活動可能じゃぞ?汝は使えんがな」
「でも、魔力自体は作用してるからハルキ君のそれは間違いなく未知の魔力現象なの。三日前のこともあるし、最低でも原因の仮説が立つまで使っちゃダメよ」
「だ、だけどよ、この通りちゃんと制御できてるし、別にいいだろ」
「突拍子もなく暴走して〜、二度と地に足が付かなくなるかもしれしれませんよ〜」
「嫌いだ!俺をいじめるこの世界なんて嫌いだぁ!」
世界に抗議するために、空中で手足をジタバタさせた。
なんかデジャビュなシチュエーションだ。
ヘレンもガクリと残念そうに肩を落としちゃってるし………後でこっそりロープでも繋いで遊んでやるか。
そんな感じで、最終的に謎の飛行能力の使用禁止と、もう一度アルファさんの研究所でデータを取ることが決定された。
自分にとっても大変残念な結果だが、どうしようもない。
話によれば、俺の持つ【滅星拳法】には空中を足場にできる歩法も含まれてる筈なので、使い方さえ掴めばそれで擬似的に飛べるそうだ。
そっちの方がヤバくね?が本音だったが、せめてもの慰めとしよう。
今度こそ解散と思った物の、しかしながらラストで爆弾を落とす奴がいやがった。
「あのぉ、なんか、また今更ですけど、ステータスを調べれば何か分かるんじゃないでしょうか。【万象鑑定】さんに頼んでみては?」
デジャビュその二。
逆ハー女の提案に、テーブルを囲む一同が先ず俺を見て、次に自分達で顔を見合わせて、そしてまた俺の方を見て、ニヤッと笑った。
仲いいな、お前ら!
「待て!それ他意ありすぎるだろ!巫山戯るなよ?!テメェらぶっ殺すz『テッテレテッテテテー』 死ねぇーっ!!」
『鑑定結果:
【名前】: 森 春樹
【歳】: 15
【LV】: 25
【種族】:人族
【職業】: 農家(辺境の)
【生命力】: 179000
【魔力】: 198000
【攻撃力】: 87000
【防御力】: 91000
【敏捷】: 110000
【精神力】: 1000200000
【ギフト】:
<滅星拳法> <魔法> <男の娘> <豊穣の男の娘> <万象鑑定> <全言語理解>
以上がマスターの正式ステータスになります、でゴダんす』
「「「「「……………」」」」」
OH……………何を言いたいか解るけど、その前に一つだけ言わせてくれ。
「俺は無実だああああぁぁぁっ!!!」




