第30.1話 主人公のいつもと違う豹変
森:「ちゅーもーく!【第1話 プロローング 永い一日の始まり】をもっと読みやすく………うん、可能な限り出来るだけ読みやすさ心掛けて改稿しました。第0話以外は、特に変わってません。内容も同じです。以上」
「シャコ、シャコ、シャコ」
『シャコ、シャコ、シャコ』
朝、命がけの筋トレから今日も生還して、食事を作る前に身を清める。
風呂に入って埃や鮮血を洗い流し、清潔な衣服に着替えて、朝の習慣に従って洗面台で歯を磨く。
文面にすれば、まるっきり夜の犯行から帰宅した殺人鬼か、前線から帰還した兵士の行動だがあながち間違ってない。
今回も、壮絶で、血なまぐさい、修行だった。
やらされたのは軽めの、重し(エカテリーナ&ジェニファーちゃん)付き縄跳び連続六重跳び夜通しマラソン(注意!:跳び損ねたらペナルティーあり)、だったのだが、途中で空からガラスが 降って来やがった。そう、氷でも雷でもなくガラスの雨が降って来やがったのだ。
どうも、異領域は大気中の魔力濃度が高すぎる為、物質の沸点氷点が無茶苦茶になることがあるらしい。
この前、粉雪の様に塩がパラパラ降った時に教えてもらってたんだが、その際は『ふーん』としか思わなかった。今回は、降り始めた直後に約2000メートルから重力加速したガラスの破片が脳天にぶっ刺さって、縄を踏み外した上ペナルティーを食らったんで、『ふーん』では済まなかったが。お陰で大分アリアちゃんの世話になりました。
「シャコ、シャコ、シャコ」
『シャコ、シャコ、シャコ』
異世界に召喚されて本日で五日目、【農家(辺境の)】の修行と称した自殺行為に身を投じて四日目になる。
まだ四日の筈なんだが、どうも睡眠を禁じられてるせいか、それとも修行の内容が非常識なせいか、ずっとずっと長い時間に感じる。
もはや、感覚が取り返しのつかない所まで狂ってるのかもしれない。
何となく、歯ブラシから右手を離して反対の二の腕をさすってみた。
伝わる感触は、十五年間も慣れ親しんだつるりとした肌触りにもちっと筋肉の不在を示す女々しい軟質、ではなく、爆発的な伸縮力を秘めた上腕二頭筋と上腕三頭筋の頼もしい弾力だった。
あれ?何時の間にか隣に知らないマッチョがいて、そいつの腕を掴んでしまったのか?
左に振り向くが、そこには誰もいない。
…………俺もそろそろ末期の様だ。
「シャコ、シャコ、シャコ」
『シャコ、シャコ、シャコ』
いや、そう言えば居るな。
左側じゃなくて真正面だが、知らねぇ奴が。
でも、ソイツはマッチョとは程遠い、ハッキリ言って絶世の美女の外見をしている。
腰辺りまで伸びた、綺麗な濡羽色の長髪。ツリ気味で悪戯っぽい黒曜石の瞳。小花の様にひっそりと咲く鼻と唇。
男性と肩を並べられるほど長身で、明らかにサイズの合ってないシャツを際どい感じに着こなしている。
そいつは、さっきから目の前で歯磨きをしている。俺の様に。
ついでに言えば、俺の様に眠そうではないが何処か疲れた面を下げて、こちらにガンを飛ば……ボーッとかったるそうにこちらを見ていらっしゃる。
一先ず愛殺でもしてやろうか。
「ふぉ?ふぉはへほらふ、お゛お゛!?(訳:お゛?ナニこっち見てんだ、眼球くり抜いて飲ませっぞ、あ゛あ゛!?)」
『ふぉ?ふぉはへほらふ、お゛お゛!?(訳:お゛?ナニこっち見てんだ、眼球くり抜いて飲ませっぞ、あ゛あ゛!?)』
洗面台の鏡に映ってる野郎が喧嘩を売って来やがった。
……………。
………。
……。
クチュクチュクチュ、ぺっ。
ガラガラガラ、ぺっ。
すーっ、はーっ。
「〜〜〜〜〜〜□◯△(おでん)っっ!?!?!?」
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[同日同時刻、ヘクサドラゴン王国、王都アヴァンの王城内訓練場]
その日も、城兵すら訓練を始めない早朝に三人分の人影が敷地に入場していた。
茶金色の髪に翡翠の瞳、そして男好きする豊満な体付きの少女。
圧倒的な存在感を放つ、短髪で褐色長身の少女。
粛々と折り目正しく歩む、気品に溢れる三つ編みの少女。
いずれも趣向の違う、目を見張るほどの美少女である。
世界違えど、その戦慄を誘う才能を損じなかった彼女等は、異世界召喚五日目で既に大抵の戦士を物ともしない実力を身に付けていた。
それでも尚早朝から鍛錬を欠かさない姿勢は、驚異の一言に尽きるだろう。
「ふあ〜っ。そろそろ必殺技のネタが尽きたんじゃねーか?」
「そうですね。そろそろ実用性重視の技や連携を模索するべきかと」
「何を言ってるのよ桜子!ロマンの前では実用性なんてゴミだよ、ゴミ!」
「はいはい、アンジェラさんは少し落ち着きましょうね?そろそろ春樹君のことも真剣に考えなければなりませんし」
「アイツの事だから、何処でも逞しく生きてると思うがな。問題はアタシの禁断症状が……」
「Haruki……」
とある事件で引き離された少年を思い出し、場に沈黙が降りる。
翡翠色の瞳は悲し気に潤い、細い三つ編みは何かを紛らわす様に弄られ、褐色の肌は粟立って鼻息が荒く………いや、これは辞めとこう。
しかし、不謹慎と咎められても、憂は二人の美貌をより際立たせてると言わざるを得なかった。三人目は………個人の好みによると言うことで。
「……おや?」
この調子だと碌な一日が始まらないと、話題を変えようとしたヘンタ……海老名杏花は、そこで訓練場に先客を見付けた。
汗を滴らせながらグラウンドを走るクラスメートの男子、柊誠也である。
元の世界で、初めは春樹への嫌がらせの実行人として嫌悪し、その後彼の家庭内事情を知って気に掛けていた薄幸少年。
気弱でクラスの不良のパシリだった彼は、この世界に来て変わった。
先ず、反省の印としてベタにも頭を丸刈りにした。
次に、クラスメートの誰よりも王国から施される訓練に意欲を見せた。それはもう、他の学友も鼓舞される勢いであるらしい。
天才過ぎて辺りと足並みが揃わない彼女達は、その訓練に参加してないので直接見てないのだが、今目の前で流れてる汗が全てを語るに足りるだろう。
つまり、
「異世界デビューしたのね、あいつ」
「見事な異世界デビューですね。坊主頭でですけど」
「異世界デビューだな。春樹のやつも言ってたが、あいつ意外とイケメンだったんだな」
感心した様子でそれぞれ一言感想を述べるが、三人はそれでも一応誠也に注意することにした。
折角頑張ってるところを邪魔するのは忍びないが、彼らはクラス一致でいくつかの行動ルールを決めていたのだ。
召喚された国が色々と信用出来ない故、最低でも三人グループで行動する事がその一つである。
しかし、少年に駆け寄ろうとしたその時、予期せぬ事態が発生する。
「ぐぅああああああああ!!??」
杏花が胸が張り裂けそうな苦痛の叫びをあげて倒れたのだ!
更に胸を押さえながら地面をのたうち回り、痙攣、海老返りする!
その余りに悲痛な叫び声に、遠くにいた誠也も驚いて振り返る。
新技の失敗で骨折しても顔を顰めるだけで済ましていた女傑の様子に、親友達が言葉を失う。
「ど、どうしたのよ杏花!しっかりしてっ!」
「まさか、昨日試した自爆攻撃の影響!?」
「海老名さん!?大丈夫ですか!!」
即座に上級の治癒魔術を展開する桜子に必死に肩を抱き寄せて呼びかけるアンジェラ。慌てた様子で駆け寄ってくる誠也。
だが杏花は辺りの喧騒に反応せず、ただ虚ろな眼差しで遠くの空を見上げながら「ショタが……ショタが、星になって……消えていっ……た」と呟くのだった。
森:「次は0時に会おう」




