第28話 訪問詐欺にはご注意を 真相編
[真相①:同日午後16時04分 バルズーク家]
わたしは死体わたしは死体わたしは死体わたしは死体わたしは死体わたしは死体
死体に算数を教えてもいみがない、死体に国語を教えてもいみがない、死体に地理を教えてもいみがない。
わたしは死体わたしは死体わたしは死体わたしは死体わたしは死体わたしは死体
だから、ほっといて。
「ヘレンちゃん、その、先生クマじゃないんだから死んだフリされても……と言うかそんなあからさまな死んだフリは……あ、因みにクマに死んだフリは通用しないよ、知ってた?」
「……もう、ムリ」
「あらあら」
「ぴ〜よ」
頭から煙が出る。
算数もうイヤ。
ひよこになりたい。ルナちゃんが羨ましい。
今、家で勉強の真っ最中。
窓の外がとても眩しく見える、葉っぱの空に数字が浮かんでる。
………もうダメかもしれない。
わたしが机に突っ伏してる間、ラーニャ先生は教本を閉じて感心したように言う。
「それにしても、ヘレンちゃんって凄く賢いんだね。もうここまで捗るなんて思わなかったよ」
「そつぎょう?」
「あはは、それには流石に早いよ。このへんで休憩しちゃおうか。飲み物ほしい?」
「ジュース……おねがいします」
「はーい」
やったー、休み時間だ。
“おねがいします” 最近まではあまり使わなかった言葉だ。わたし、王女だし。
ハルキに習った礼儀、ちょー有効。
ハルキは、今まで誰にも言われなかった大切なことを色々教えれくれる。算数より全然大切なことだと思う。
でも、算数もハルキに習えって言われた………どうしよう。
「ぴよ〜、ぴよ〜」
ジュースを待ってる間に頭の上のルナちゃんを取って、モフモフしてる。
この子は、何故か会ってからずっとラーニャ先生に怯えている。
最初は小さな翼で先生と指差して(?)、『ヤベーです!お嬢、あの女、何かヤベーです!!』って叫んでる感じだった。
なんでだろう?ルナちゃん勉強する必要ないのに。
「ぴっ!?」
「あ……」
「はーい、ジュース持ってきたよ」
ラーニャ先生がジュースを持って来たタイミングにルナちゃんがまた頭の上に避難した。
先生は、厳しいけどこうやって優しい人だ。
怖がる必要なんてない、もっと恐ろしい人は他にたくさんいるのだ。
ここで、ふとドラさんに言われた事を思い出す。
『ヘレンよ、今日から汝がこのルナの面倒を見るのじゃ。愛でるだけでは無い、時に厳しく当たるのも良かろう。同族に恥じぬよう、強く立派なノヴァフェニックスに育てるのじゃよ』
………よし。
「ラーニャ先生、はい」
「あら?」
「ぴよっ!?!」
わたしはもう一度ルナちゃんを掴んで、今度は目の前の先生に差し出した。
ルナちゃんは、『ちょ、お嬢、何を!?ひっ!?来るなあ!』な風に金と銀のアホ毛を逆立ててるが、グッと我慢して手を引っ込めない。
ふっ、これぞ愛のムチ。恐怖に勝つのだルナちゃん。
「ヘレンちゃん、ルナちゃんの事見せてくれるの?ありがとう、でも御免ね?私、何故か動物にすごく怖がられちゃう体質なの。だから……」
「先生、いい人。だいじょうぶ、ルナちゃんは強い子」
「ヘレンちゃん……」
初めは寂しそうに遠慮したラーニャ先生は、わたしがそう言うと感動で涙を浮かべて、ルナちゃんを受け取ってくれた。
なんか、ルナちゃんの方も涙ぐんで、いや、本格的に泣いてるけど、見なかったことにしよう。
あ、でも、フェニックスの涙って凄く値段の高い薬になるんじゃ………
「ぴよ〜!?」
「わーっ!丸くてふわふわしてて可愛い!へえ、まさかあの子達からノヴァフェニックスが生まれるとはねぇ」
「あの子たち?」
「うん。ヘレンちゃんは見なかった?庭にいる真っ赤な鶏ちゃん、あれって実はフェニックスなんだよ」
先生は、感慨深そうに教えてくれる。
………時々に火を吹いてる所とか見た気がしたけど、見間違えじゃなかったんだ。
ドラさん達はどう呼んでたっけ。
「ひんしゅかいりょう?」
「あっ、よく知ってるね、ドラさんから聞いたの?元は不死鳥王って言うすごい幻獣だったんだ。それをあの形まで品種改良するってとっても難しいんだよ」
「おー」
不死鳥王って何か格好良さそう。
「ふふっ、でね、殆どの仕事は友達がやったんだけど、実は私もそれなりに手伝ったりしたんだよね〜」
「ラーニャ先生が?」
「うん!ここでの私の仕事は、主に動物の改良の手伝いと織物、布を造ることなんだ。皆の服や装飾品全部、私の作品だったりするんだよ」
えっへんと自慢気に胸を張るラーニャ先生。
私は、改めて先生の衣服と家のカーテンやテーブルクロスをよく見る 。
確かに柄や模様がとてもキレイ。上手だ。
キョロキョロする私を見て、先生は突然何か思い付いたかのように目を輝かせた。
「そうだ!今度ヘレンちゃんに新しい服を作ってあげるよ!」
「ふく?……もう持ってるからいい」
「ダメよ!せっかく可愛いんだからオシャレしなくちゃ!あと、裁縫とか編み物に興味ない?ぬいぐるみの作り方教えてあげるよ!」
更に名案とばかりに勧めてくる。やけにテンションが高い。
でも、オシャレなんて面倒くさいし。ぬいぐるみ作るのも、わたし王女だし。
そう思って断ろうとして、なんとなくハルキの顔が頭に浮かんだ。
「………ん、さいほうは……きょうみある、かも」
あれ?どうしてだろう、不思議と顔があつい。
つい俯いてしまう。
恥ずかしい……のかな?
ちょっと自分自身に戸惑ったけど、その間にもラーニャ先生の返事はなかった。
見ると、手で口元を覆って顔を背けている。耳が真っ赤だ。
「? 先生?」
「っ!な、何でもないから。ちょっとハートを射抜かれただけだから」
それ、死ぬと思う。
「ふー。さっ、授業を続けようか」
「えー」
落ち着いたかと思ったら、また勉強の再開だった。
えーっ、もっと休みたいーっ。
まだチャイム鳴ってないーっ。
死んだふり。
「だから永遠に休んじゃダメだってば!もう、ちゃんと授業の内容について来れるのにどうして嫌なの?」
「簡単すぎてつまんない」
「て、天才児の発言」
驚かれた。
でも、あれくらいは本当に見るだけで覚えられる。時間がいるだけ。
だから、座ってるだけは凄く退屈。外に出たい。
わがまま、かな?
先生は「野外授業かぁ」としばらく悩んだ後、またもやナイスアイデアと拳で手のひらを叩いた。
「そう言えば、ヘレンちゃんって六歳だったよね?だったら、品種改良のやり方を今見せてあげるよ」
「………むつかしい、の?」
「だいじょうぶ!見せるっても、私が手伝いでやってる部分だけだから。女の子なら誰でも出来ちゃう簡単なことだよ。私だって、ヘレンちゃんより小さい時に習ったんだから」
「んぅ?」
「オスの採精のやり方!」
自信に満ち溢れた眩い笑顔だ。
「オスの採精のやり方!」
なぜか二回言った。
その瞬間、ルナちゃんが悲鳴にならない声を出して、羽をむしる勢いでラーニャ先生の手から逃げ出した。
そして、遠い焦土でアリアちゃんにお腹を踏み付けられて腹筋をしてたハルキが噴水のように血を吹きながら大の字に倒れて、『ぐあああ゛!!ぬかったアアアーッ!!』って悶え苦しんでる……ような気がした。
さいせい………初めて聞く言葉だ。
でも、外に出られるのなら何だっていいかも。
なので、わたしは頷いた。
手短に裏庭のフェニックス(?)で実演することになって、なぜかヤル気満々になったラーニャ先生と一緒に裏庭に出る。
んーっ、済んだ空気が美味しい。真っ赤な葉っぱの空がキラキラ輝いてる。
とてものどかで、このまま芝生に寝っ転がったら最高の死んだふりができそう———
「「「「ピョーロロロ〜〜〜〜!!!??」」」」
———誰だ、わたしの眠りを邪魔するものは。
気付いたら、既に狐に侵入された鶏小屋状態だった。
いつもの様に野放しにされてた真紅と黄金のニワトリがわたし達、いや、ラーニャ先生を視認した途端暴れ出したのだ。
この子達は鳴き声がすごく綺麗で、毎朝ララさんと一緒に歌ってるのを見掛けるけど、今はその美しい所が全然ない。余裕がない。必死だ。
無言で先生を見上げる。
「さーて、じゃあ先ず捕まえる所から行くよ〜」
ん?動じてない?
それどころか肩を鳴らす先生。
けど、捕まえるのは無理だと思う。
だって、言葉が解るのかそれを聞いたニワトリ達は一斉に炎を纏って飛び立ったんだもん。
物凄い速度、本当にフェニックスだったんだ。びっくり。
「「「「ピョーロロロ〜〜〜〜!!!??」」」」
「え?」
でも、次の瞬間もっとびっくりする事になった。
なぜなら、そのまま飛び去ると思ったフェニックス達が同時に空中で見えない何かに固定されたからだ。
一生懸命羽ばたいてるのに前後上下左右にもビクともしない。時間が止まったかのような不思議な光景。
それを見て、横の人が満足気に頷く。
「はい、捕獲完了!」
「なに、あれ?」
「ふっふーん、答えはーっ、これでーす」
何かしたらしいラーニャ先生に戸惑いながら聞くと、これはまた得意気に胸を張って手の平をわたしに伸ばした。
「?」
「ほら、もっとよく見てみて?」
もっと良く見てみる。
むむむっ………あっ!
鼻がくっ付くほど間近で注視して、光の反射でやっと見えた。
細い指の間に絡まって漂う無数の糸。
髪の毛なんかよりずっと細く透明なそれらはまるで………
「クモの糸?」
「そう!私のだよ」
「へ?」
今なんと?
「あー、やっぱり解らないかー。実は先生、こう見えて蜘蛛系の獣人なんだよ。ちょっと特殊な」
「へー」
「普通はよだれとかで糸を練って吐いちゃうんだけど、私はこうやって手から出せるんだ。頑張ったんだからね!」
「……へー?」
ここがポイントです!大事なんです!と譲れない何かを力説する先生に首を傾げるけど、要するにフェニックス達が動けなくなったのはその蜘蛛の糸に拘束されたからか。蜘蛛の巣に張り付いた蝶みたいに。
だとしたら、自然と一つの疑問が湧き上がる。いつの間に、あと何処にそんな罠を張り巡らしたのかと。
もう一度、トラップの発見の訓練の時のように先生の手元の糸を辿ってみる。
でも、どうしても20センチくらいで先を見失ってしまう。
………なにこれこわい。
「はぁ、それじゃあ、大人しくしててね〜」
口元が強張る私に気付かず、少し息の荒いラーニャ先生はフェニックスを大人しくしに掛かった 。
楽器を弾く様に指を動かし始めたと思ったら、空中に浮かぶニワトリがその場で回り出す。
そして、回転するに連れて体が白い繭に包み込まれる。徐々に、しかし確実に。
もちろん、彼らも死に物狂いで抵抗するけどフェニックスの業火を用いてもその繭は破れない。
終いには、数体分の繭が完成された。皆、最後まで縋る様に恐怖に満ちたつぶらな目でわたしを見ていた。
その内の一つをラーニャ先生が申し訳なさそうな顔………ではなく、うっとりした表情を浮かべて手に取った。
なにこれ、ちょーこわい。
「はーい、それじゃあ採精するよ。まずは雄しべをこうやってね———
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注意:以降の内容は、保健体育の教科書を御参考にして下さい。
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———で、これでお終いね。どうヤルのか解った、ヘレンちゃん?………あれ?ヘレンちゃん?」
数分後、バルズーク家の裏庭には仰向けに倒れてつーっと涙一筋を垂らすフェニックス達と、周りをきょろきょろ探すラーニャ先生がポツンと一人佇んでいたのだった。
[同日夕食時 バルズーク家]
「で、今日はあの色ボk、ラーニャさんに何を教えてもらったんだ?」
「……レベルが、高かった」
「……は?」
「ぴ、ぴ〜よ」
閣下:「フゥワハハハハハハハ!!時期にブックマーク100件ダァ!!フゥワハハハハハハハ!!」




