第24話 世界中のお母さんの悩み事………の一つ
朝日の差し込む静かな部屋。
人々が新しい一日に挑むべく身支度するだろうこの時分、しかしこの場所には似つかわしくない緊張感があった。
張り詰めた空気に自然と背筋を伸ばすテーブルを囲う人物。俺は、その面々を一人ずつ順番に見渡す。
先ず、俺のすぐ隣に座る黒髪褐色の幼女ヘレン。逃亡防止のため、俺に左手をガッチリ掴まれながらむくれた顔をしている。
往生際悪くこちらの隙を伺ってるが、ふっ、馬鹿め、ヤンキー共から逃げるべくあらゆる縄抜けの術を解得した俺を欺けるとでも?
こちらから見て左側にカッサンドラさん、その横にはラファエラさんがいて、二人共困惑しながら顔を見合わせている。
彼女達の反対側には、赤毛の鬼神バルズークさんが『どうしてオラ、ココにいんだろ?』といった表情でキョトンとしていた。
「ぴ〜よ」
「もっちゃ もっちゃ もっちゃ」
おっと、そう言えば新参者もいたな。
アリアちゃんにピヨす…じゃなかった、ルナちゃん。二匹は、たらふく朝飯食って眠そうにしていた。元からかも知れないが。
そんな彼らをもう一度睥睨した後、一息置いてから重圧感ある音声で告げる。
「みんな揃ったな。それでは、第一回バルズーク家家族会議を開くとしよう」
「いきなり私たちを呼びつけて〜、ハルくんは一体何を言ってるのでしょうか〜?」
「ラファエラさん、俺は真面目な話をしてるんだ。他人の発言中に下らない横槍は控えてもらおうか」
「えっ、下らないって、私はだた状況の説明を 「黙って聞けってんのが分からねぇのか、あ゛?」 すみませんでした!!」
食卓に頭と叩きつける勢いで平謝りするラファエラさん。
それを目尻に、文句あんのか?とカッサンドラさんとバルズークさんを威圧すると、二人共顔が三重にぶれて見える速度で頭を横に振った。
彼らの反応を恨めしく見るヘレン。
諦めろ、最早この場にお前の味方などいない。
「ふむ、異論はないようだな。それでは、今回の議題の説明を行う。各自、傾注するように。これは、つい二時間程前の出来事なのだが———————」
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コトコトコト
「おっ、そろそろ頃合いか」
鍋の煮立つ具合を確認した俺は、空気の椅子から立ち上がって火を止める。
そして、一通りの調味料を加えてから再び空気の椅子に腰を下ろした。
深夜の修行にて新たに開眼した極意だ。
空気って………座れたんだな!
座れる、読める、息できる。空気こそが社会の影の功労者かもしれないね。うんうん。
まあ、空気の多様性はさておき、今日も昨日と同じように寝ずの修行から帰って朝飯を作ってるが、最早【異領域】とキッチンを行き来することが俺のメープル・スプラウトでの日常になりつつある。
昨日まではカッサンドラさんやラファエラさんが付き添ってくれてたんだが、今は修行中アリアちゃんしか話し相手がいない。話し相手つっても、俺が一方的に気合の雄叫びと断末魔を上げてるだけなのだが。
『ッ、ふんっうおおおおおお!!!』
『もっちゃ もっちゃ もっちゃ』
『ゐ血魔ン露苦千破ッ百惨十二——ッ!!!ゐ血魔ン露苦千破ッ百惨十惨——ッ!!!』
『もっちゃ もっちゃ もっちゃ』
『死ぬっ!無理だってえぇ!!もう殺してくれえええ!!』
『もっちゃ (治癒魔術) もっちゃ』
『ありがとうベイビー!!哀シテルゼェ——!!』
………うん、苛烈な交流のお陰でアリアちゃんとは、それはもう阿吽の呼吸での意思疎通が出来るようになったよ。
どんな日常!?シンデレラでも王子の脳天にガラスヒールぶっ刺すレベルだろソレ!?と、言うツッコミはよしてくれ。それ、もう俺した。
「もっちゃ もっちゃ もっちゃ」
「あ、いや、別に文句ねぇよ?お前の治癒魔術には助かってるしな。ああ、メシもうすぐできるから待っててくれ」
窓から首を入れてきたアリアちゃんから何となく抗議の意志を感じたので労ってやった。
こいつもいつの間にかバルズーク家の食卓に加わってるが、今更気にしまい。
ちなみに本日の朝食は和風で、よく分からん魚の塩焼きにご飯、味噌汁、煮浸しの定食でございます。
味噌と醤油、ありました。パンドラの倉庫に樽1ダースくらい。
昨晩の夕食の用意をしてた時に見付けたブツだ。
色んな意味でびっくりして、バルズークさん達に出処を尋ねれば、それらは俺が【発酵加速器】っつー機能と名称がそのまんまの料理魔具で片手間に使った物だと言われた。
…………。
あっるぇえー?おっかしいなぁ、全く記憶にないぞぉ?
「記憶がトんでやがる……やっぱり、眠気はねぇが確実に寝不足の症状か。しかし、まだ二徹なのにもうキテるとは……いや、流石の俺も二徹で筋トレしたことねぇからなぁ」
ヤンキー共に(強制的に)サバイバルデスゲームに誘われて、一週間ほど寝ずの番を強いられた在りし日を思い浮かべながらぼやく。
え?二徹じゃなくて二重人格のせいだろって?
URL間違えてないでしょうか?ここのジャンルは、サイコホラーじゃなくてファンタジーですよ?
そんな感じに特に誰に対してでもなくツッコミを入れてると、台所に近づく小さな気配を感じ取った。
誰かと疑問に思う必要もない。吸血鬼並みに朝に弱いくせに、毎日おはようを伝えに来てくれるお姫様だろう。
昨晩、闇夜の中で俺は彼女と向き合おうとした。
ヘレン・フォスコ・ヘクサドラゴンと言う存在、そしてそれに纏わるだろう事情に少なからず踏み込もうとしたのだ。
結果、対話して得られた情報は無いに等しかったが、少なくとも彼女が周囲の様々な思惑に振り回されてる印象を受けた。
荒れ狂う海に放り出されたイカダの様に嵐を彷徨い、最後に俺の元に辿り着いたのだ。
そして、ヘレン自身はその状況に困惑して、心の底では間違いなく傷付いている。
俺なんかが彼女の事情心情に首を突っ込むのは、甚だありがた迷惑な話なのかも知れない。
でも、これはある意味仕方のない事なのだ。
何故なら、ヘレンがあの時見せた表情は孤児院のアイツらの嘗ての物だったのだから。
大人達から否定され、自身の価値も解らなくなってた、小さなあの子のような。
誰かに助けを求める行為すら忘れてた、小さなあの子のような。
そんなの、見なかった振りなんて出来ねえし、したくもねえ。
昨晩口にした決心に後悔はない。
例え数多の危険に巻き込まれる事になったとしても、例え自分自身の目的を猶予させることになっても。
強いて言うなら……
「やべえ、どうしよう。めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。どうやって顔会わせたらいいの?」
………………
…………
……
…
あっ、ちょっ、無言でパソコンの電源切るのやめてぇ!!
いや、空気ブチ壊してる自覚はあるけどね!?
でも、しょうがねぇじゃん!
今、俺、賢者タイムなんだもの!
枕元で散々アイツに歯の浮くようなセリフ吐いて、一晩中激しい運動した後で賢者タイムなんだもの!!
………決してエッチぃ意味じゃないよ?
うん、やっぱ、んな阿呆な下ネタ吐く主人公なんてシリアスに格好つけるべきじゃないよね。
俺自身、昨晩の自分を見たら『四六時中バカしてるクセに急にどうしたんだ?』って思うよ。
そもそも、言いたかった事ちゃんと伝わってるのかな?思わず熱くなって色々思わせぶりなセリフ言った様な気がするけど。
要は、俺に頼ってもいいんだぜって言いたかったんだけど、これでヘレンに「ん、で、昨日なに言ってたの?」とか聞かれたらどうしよう?スゲー気まずくない?割と本気で死ねるんですけど。
あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛
「……ハルキ」
「ふうぇい!?」
一人で頭を抱えて苦悶してたら、いつの間にか接近されてたヘレンに声を掛けられて、驚いて妙な声を出してしまった。
顔を上げると常時無表情な幼女の視線と打つかる。
直前までの思考もあって不意に言葉に詰まるが、何とか平常を取り繕って答えられた。
「よ、ようヘレン。お早う。今日もいい天気だな!」
「………」
これで言うのも何度目かになるが、今滞在してるメープル・スプラウトの農村は、その中心にそびえ立つ神樹と呼ばれるスカイツリーどころじゃないビッグツリーの葉と枝によって隙間なく覆い尽くされてる場所だ。
つまり、空も天気のクソもないのである。
ベタすぎるが一度は口にして見たかった常套句に対して虚しさを覚えていると、ヘレンは無言のまま空気の椅子に座ってる俺の膝に乗っかってきた。
え?何?どうしたん?
「おはゅすぴー」
「どんな挨拶だ、こら」
寝た。
他人の体に伸し掛かって極自然に寝やがったぞ、こいつ。
ったく、人の気も知らないで幸せそうに鼻ちょうちん膨らませやがって。
「結局、一人勝手にドギマギしてただけかよ。はーっ」
「もっちゃ もっちゃ もっちゃ」
「ぴ〜よよ」
アリアちゃんとヘレンの髪に巣食ってたルナちゃんに『ドンマイ』な感じの暖かい視線を送られながら、俺は掌で額を叩くのだった。
それからは、これもまた日課になってるヘレンの寝癖直しを行い、暫く経って目覚めた彼女と一緒に朝食の支度に取り掛かった。
起きたてでまだ意識が混濁してるのか、それとも別の理由か、ヘレンは特筆すべき変わった点などなくいつも通りに振舞ってた。
だか、ここに住み始めて初めて炊事の手伝いに申し出てくれた辺り、僅かながら彼女との距離を縮められた気がする。
フライパンの中身を菜箸で突っつきながら背後で食器を扱うぎこちない音を耳にしてると、孤児院でちっこい奴らと協力して料理していた時間を思い出せて、思わず頬が緩んだ。
…………ある時点までは。
「ねぇ……皿、どれにするの?」
「ああ、そうだな。取り敢えず、その大きな皿と茶碗を一人づつに出してくれ」
「ん」
「後、コップ、そしてフォークとナイフとスプーンを一通りな」
「わかった」
「さて、人数はバルズークさんを入れて五人。これで食器は総数何個あるのでしょう?」
ああ、つい先日までやってた事なのに懐かしいなぁ、このやり取り。
数の関わる作業とかする時、こうやってよく低学年のちびっこ共に算数の問題投げ付けてたなぁ。後、漢字とか英単語バージョンも。
そまま出せばただ顰めっ面を返すだけなので、先に正解した奴に俺の手作り菓子をやるルールとか決めてたっけ。
お陰でウチの奴ら意外と学力高いんだよねぇ。
………最近、クイズ王も真っ青なスピードで早押ししてくるので正直怖ぇけど。
それはさて置き………あり?返事が返ってこねぇな。ひょっとして無視された?
振り返って見て見ると、食器棚の前で踏み台に乗ってジッと自分の両手の平に無機質な視線を送るヘレンがいた。
どうやら、無視された訳ではなさそうだ。
両手を見詰めるヘレンを見詰める俺。直感に準じて一旦コンロの火を消す。
………………
…………
……
…
あ、あれ?えらく長く考えてるな。
「えっとー?ヘレンさん?じゃあ、フォークとかは良いからさ。皿とコップと茶碗の3点、それを5人分で食器幾つだ?」
難易度を落として再び問題を出して見るが、彼女は昨日と別の意味で虚ろな表情でこちらを一瞥してから両手に視線を戻して、グーにしてから一本づつ指を立てた。
やはり両手パーで止まって、手相でも読んでるかの様に眺める。
そして、約一分後ようやく満足気に顔を上げた。
取り敢えず、俺は固唾を飲んでおいた。
「なぞはめいきょういりに」
「ならねぇよ!後、それを言うなら迷宮入り!」
「……めいきゅういりに……」
「迷宮入りで済むんなら、世の中コ○ン君要らねぇんだよ!」
事態に混乱して訳の解らんツッコミを入れてしまった。
えーっと、ちょっと待とうか。落ち着こうぜ?
色々あって忘れがちだが、ヘレンは確か六歳くらいの幼女だ。
六歳、つまり小学校一年生。
小学校一年生の数学、と言うより算数ってどの程度だったっけ?
自分の知ってるチビ共は掛け算割り算も暗算で解くし、ちょっとおかしな事になってるので置いといて、なら俺?
小一の時、算数の時間で何習ったっけ、俺?
『囚人番号6699番!黒板の二次関数を解きに来い!出来なかったら鞭打ち100回の刑に処す!』
『せんせい、ぼく、しゅうじんじゃなくて生徒です。九九もしてないのにそんなのムリです。あと、目がヤバイです』
『口答えするな!10ns以内に答えなければ鞭打ち200回だ!』
『せんせい、なのせかんどってなですぃいッタアァ!?ちょ、やめっ、8.03!8.03と-3.3です!』
『………なで分かったクソガァァァ!!』
『ざけんじゃねぇ!てめぇむち打ちたいだけだろう!!』
うん、これ以上思い出すのは危険かもしれない。
兎に角、日本とこの世界の教育課程がどうだろうが、目の前で気まずそうに目を逸らす生徒を見れば何をすべきかは一目瞭然だった。
「勉強をさせ…」
何を勘付いたのか、ボソッと漏れた俺の呟きの途中に猛ダッシュで逃げるヘレンだった。
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「ちがうの、わるぎはなかったの、指が足りなかっただけなの。しんじて」
事のなり行きを説明し終えた後の第一声は、被告人の必死な弁解だった。
けれど、さり気なく俺に掴まれてる手首を捻って逃げ出そうとしてる点で、情状酌量の余地は皆無だ。離さん。
そんな俺らをカッサンドラさんとラファエラさんがやや呆れ気味に見守っていた。
「あの〜、要するに〜、ハルくんはヘレンちゃんに手習いをさせたいと言う事ですか〜?」
「ったりめぇだ。ガキにとって教育はカルシウムの次に大事なもんなんだぞ。ヘレンには立派な大人になってもらいます」
「偶に汝からは、母性に似た物を感じるのう。まあ、確かに此処ではヘレンは手持ち無沙汰にしておったから、妥当ではないか?」
「うんうん、そうだべ。勉強は大事だべ」
「ああ、けど、俺は修行と炊事で流石にそこまで手が回らねぇ。ここで、最大最強の難題が一体誰に家庭教師をやってもらうか、だ、が」
これまでの熱弁が嘘だったかのように、声から力が抜け落ちる。
そして、本日三度目にテーブルを囲む面々を見渡した。
視界に入ったのは、己の種族の冒涜の権化のような天使に、脳味噌まで鍛え上げたような筋肉魔人に、歩くエロ本。
俺は、無力感と悔しさの余り拳を机に叩きつける。
「ダメだっ!!教育に良さそうな人材が一人もいねぇ!!」
「「「ちょっと、待てい(だべ!)!!」」」
一斉に抗議の声が上がった。
あ?何か文句あんのか、バカども。
「私のどこが冒涜なんですか〜!私みたいな〜、優しくて綺麗で可愛くて性格がよくで健気で謙遜で賢くて…」
「おい………いい加減にしねぇと殺すぞ?」
「調子に乗ってました!!」
一騎撃沈。
「勉強ならオラに任せるべ!ヘレンちゃんに一杯教えられるべ!」
「ほうほう、そうかい。2x9は?」
「筋肉!」
「テメェはすっこんでろやっ!!」
二騎撃沈。
「わ、吾輩は他の二人の様には行かぬぞ!汝が知る様に吾輩は博識じゃ。物事を教えるのも得意じゃ!そもそも、歩くエロ本とはなんじゃ!吾輩の言動の何処がそんな如何わしい…」
「たぶん、ここの事だと思いますよ〜」
「あっ!?ちょ、ラファエラ何処を!??」
「死なば諸共〜!」
「いやぁ〜あぁんっ、なのじゃ!」
最も手強そうだった三騎目は、同志ラファエラに主砲を鷲掴みにされ、ものっ凄く艶のある断末魔を残しながらテーブルの下に引き摺り込まれて行った。
暫くの間、罵声と筋肉数学の力説とエロい悲鳴が食卓を占領したのだった。
「……むざいほうめん?」
「なんでオメェは、そうちょっと気になるカテゴリーの難しい単語を知ってるんだ。ダメだ。最低でも数学、国語、地理、歴史は習ってもらう」
「いじわる」
「まあまあ〜、誰もが通る道ですからしょうがないですよ〜、ヘレンちゃん。それより〜、ハルくんはどうする積りですか〜?私とバルちゃんは兎も角、ドラちゃんは真面目さんで教えるのも上手なのですよ〜?よく、子供っぽ過ぎるイタズラ仕掛けますけど」
「そうかもしれないが……って、あれ?どこ行ったんだ、あの二人?」
「ドラちゃんが色々と色々に一杯一杯でしたので〜、バルちゃんに任せて寝室に詰め込んどきました〜」
……カッサンドラさん、イっちゃった…………
清々しいエンジェルスマイルで言い切ったラファエラさんを見て、思わずそんな事を考えてしまった。
思考が良からぬ方向に迷走しかけてることに気付き、慌てて首を振って本題に戻る。
確かに、能力的な面では、地球から来た俺を含めてこの中であののじゃ悪魔が一番先生をするのに適任かもしれない。最悪それも有り得る。
しかしながら、教育者に求められるのは知識量以前に一般常識と人格だ。
平たく言って、濃過ぎるんだよ!ここのメンツ!
悪い奴らじゃねぇのは知ってるが、未だ幼いヘレンにどんな影響が出るか心配でしょうがねぇ!
「濃いって、よりにもよってハルくんが言うんですか」
「あん?どっからどう見ても俺がダントツ常人の常識人だろうが」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!」
徹底的な否定を表すラファエラさん。
まあ、この人も非常識だから気にしなくてもいいか。
でも、どうしたものか。
「ピカイチな頭脳とか持ってなくても良いんだ。そう、普通。普通な知識を普通に教えることが出来る普通に優しい普通な人っていないかなぁ……いないだろうなぁ、ここ、メープル・スプラウトだし」
「いますよ〜?」
「だよなぁ、一歩外に出れば巨大怪獣と天災がナカヨシに降ってくる所に普通な人って、いるんかい!?!」
余りにもあっさりと肯定されたので反応するのに遅れたぞ!
「って、それ、本当に普通な人なのか?それは、あんたらにとっての“普通”じゃない“普通”で、詰まり“普通”に“普通”と言えない変な人ってオチじゃねぇだろうな?」
「“普通”じゃない“普通”な“普通”……??と、とにかく、ハルくん落ち着いてくださ〜い。辞書に載ってる“普通”で通る普通な方ですよ〜」
「………その辞書は普通か?」
「もう〜!どこまで疑ぐり深いんですかあ〜。さすがに怒っちゃいますよ!」
「でもよ……初対面で挨拶代りに自分の翼ぶっちぎって血塗れになりながらのたうち回る奴らの隣人だぞ?また新しいトラウマを刻み込まれそうで怖えぇよ」
「誰を指してるのか存じませ〜ん。……しかし〜、ん〜、確かにこの村に住める実力がある時点で〜完全に一般人とは言い切れませんが〜、う〜ん……とにかく!普通なんですぅ〜!ハルくんも実際に会えばわかりますよ〜、あっ、モブいなって!」
どう形容したら良いか悩んで、最終的には投げやり気味にそんな人相を言い捨てられた。
かなり失礼な事言ってる気がするが、ラファエラさん、その人のこと嫌いなのだろうか。
「で?結局のところ、誰なんだよその人」
「は〜い。ハルくんは〜、今メープル・スプラウトには十人中四人の【農家(辺境の)】が居ることはご存知ですか〜?」
ああ、確かここに来た初日にバルズークさんからそんな説明を受けたな。
この農村メープル・スプラウトは【農家(辺境の)】隠れ里であり、その広大な農地をたったの十人で耕していて、更に今は何らかの事情でその半数以上が出払っているのだとか。
ん?そう言えば、まだこの人達以外の誰にも会ってないな。
今更だが、村に住まわせてもらってる以上村長とかに挨拶しなくて良かったのか?
遅ればせながら首を傾げる俺をラファエラさんが引き戻した。
「その内のお嫁さんの一人で〜す」
「………やっぱり変人だろうがっ!!」
「どうして今、私をジッと見詰めてから言ったんですか!?」
「もういい!俺がやるよ!ロスした時間はもっとキツイ修行で補う!さっさと新しい筋トレメニュー組み直せバカヤロウ!!」
「ちょ、今より厳しいのしたら死にますって!マジで死んじゃいますって!ハルくん待ってくださいぃー」
この後、自棄になった俺をラファエラさんが何とか宥めて、一先ず実際会ってみてから決めると言う方向で話が収束した。
そして、あの殺人筋トレの殺傷力より高めようとする俺に余程焦りを感じたのか、「彼女にも予定がありますから今すぐは無理ですが、出来るだけ早く会えるようにしますから!いいですね?早まっちゃ駄目ですよ!?出てきちゃ駄目ですよ、閣下!!」と、全く見覚えのない忠告を言い渡して窓から飛び出て行ったのだった。
「……ハルキと一緒ならよかったかも」
「ん?どうした、ヘレン?」
「なんでもない」
「そうか。どうやらすぐ会える訳じゃなさそうだから、ちょっと遅いが俺はアリアちゃんと修行しに行くよ。お前はルナちゃんと大人しくしてるんだぞ」
「ん、いってらっしゃい」
「ぴ〜よ」
「おう!行ってきます」
そうして、ちょっと遅れて俺も俺の一日を始めるのだった………夜寝てねぇがな!




