大量殺戮
20XX年 7月10日00:00 ベトナム ハノイ
昨日、日本にイランから輸送された100kt級核爆弾2発がベトナムに到着し、軍の管理下に置かれた。残り8発は1週間後以降となるが、爆弾が2発あるだけでも相当な戦力、抑止力になるだろう。その頃には日本も核武装していることだろう。
現在ハノイ周辺では中国軍との攻防戦が続いており、敵を食い止めてはいるが、こちらもかなりの犠牲者を出している。日本などの周辺国に支援を要請したが、日本は戦争でそれどころではなく、その他の国も中国とは戦いたくないようだった。つまり、ベトナムを守るのは自国軍しかいないのだ。
軍部では、早速核爆弾の使用について話し合っていた。政府と論争を繰り広げた結果、防衛線が破られ、危機的状況になったときのみ使用を許可するとした。しかし使用するときも首相の許可は必要だ。とりあえず今は通常兵器での攻撃を続行することとした。
02:00 ハノイ守備隊司令部
「今すぐにでも核を使用した方が良いのでは?」犠牲者が増える一方である守備隊では、核の使用許可を要請していたが、非常時以外は使用しないときた。今がその非常時のはずなのだが。せっかく核爆弾があるなら、部隊を一時後退させ、核で敵を一掃した後に部隊を再び前進させたほうが有効だろう。守備隊員の中には「核を使えば直ぐに核で報復を受ける」と心配している者もいるが、それは問題ない。中国は我々が核を持っているなんて知らないし、考えてもいないだろう。核を使っても、中国がそれを「核攻撃だった」と判断するまで時間がかかるはずだ。
我々が核を使用し、中国が報復しようとするまでには時間があるわけだ。その間に「これ以上進攻するのであれば、さらに核で対抗する」などと発表すれば良い。中国もさらなる核攻撃を恐れて報復を思いとどまるだろう。
結果、守備隊である作戦が成立した。一部の防衛線を薄くしようというものだ。わざと防衛線を破らせ、核攻撃の使用を許可させる。政府を騙す形になるが、ベトナムを守るにはこの方法が一番有効なのだ。
03:00 ハノイ郊外 首都最終防衛線
「タタタタタッ!」敵兵の掃射でまた味方が倒れる。辺りは血の海だ。ハノイだけで戦死者は1000人を越えていえる。何かしら援護がなければ全滅してしまう···。ここ首都最終防衛線では、兵士を総動員してハノイを防衛している。武器が足りないため、旧式のSKSカービンで武装している兵士すらいるほどだ。空軍は中国軍の最初の攻撃でほぼ壊滅状態となった。今は陸軍しかいない。
「少佐、司令部より"第2中隊を残してイエンフー通りまで後退せよ"とのことです」通信兵から報告が来た。「イエンフー通りだと?かなり後退するんだな。しかしなぜ第2中隊を残すのだ?被害甚大で全滅寸前じゃなか?」「···核攻撃を行うそうです」「何だと!」何かしらの支援は欲しいと思っていたが、核攻撃とは思ってもいなかった。というか存在すら疑っていた。ベトナムが核爆弾を入手することなんて不可能かと思っていたのだ。「じゃあ···中隊は囮ってことか!?」「···そういうことになりますね。しかしここは命令に従うべきです。今回の攻撃は中国をハノイ郊外からではなくベトナムから追い出すものですから」少佐は司令部から"核攻撃を行う際はこちらの指示に必ず従うように"と強く言われていた。政府だって核攻撃なんて出来れば避けたいはずだ。核攻撃を許可するくらい深刻な状況なのだろう。それに核の存在が中国にバレたら、核を戦線で使用することはできなくなる。戦況を打開するチャンスもなくなる。「···分かった。撤収の準備をしろ」罪悪感に刈られながらも少佐は後退を指示した。
04:00
囮部隊以外のハノイ守備隊の撤収が完了した。上空には複数の戦闘機に護衛されたSu-22爆撃機が高高度を飛行している。あの1機の爆撃機に100ktもの威力の水爆が搭載されているのだ。100ktの核による戦術爆撃というのも派手だが、無数に展開している中国軍に対してなら有効だろう。
「総員、塹壕に入れ!」兵士が塹壕に身を隠す。対放射能用の装備を身に付け、塹壕で核爆発の爆風をやり過ごし、その後、投下地点に突撃する。中国軍はベトナムが核を持っているなんて知らないから、対核攻撃用の装備もしていないだろう。投下地点に敵兵は一掃されるはずだ。
04:08
「爆撃機が"グエン"投下。総員爆発に備えろ」"グエン"とは今回投下する水爆の愛称だ。鬼司令官だったグエン大将の名前から取ったものだ。塹壕に隠れているものの、人生初の核攻撃のため皆不安げだ。
04:09
運命の時が来た。昇り始めた朝日よりも明るく、ピカーッと空が光る。まるで太陽が2つあるようだ。塹壕や地下に居ても解るほどの閃光の後、バァーン!とこれまで経験したことのないような爆音が聞こえる。それと同時に凄まじい爆風が襲う。ここは爆心地から10km離れているはずなのだが、軍用トラックも揺れるほどの爆風だ。
「総員突撃!突撃だ!」無数の歩兵や装甲部隊が塹壕や地下から飛び出し、真っ赤な炎を上げながら立ち上るキノコ雲に向かって突撃する。いつぞやのアメリカでの核実験で見た光景だ。しかし今回は生身の人間に使用されたのだ。
04:20
さっきまで激しい攻撃をしていた中国軍の気配は全くなく、ベトナム軍は前進を続ける。しかし直ぐに酷い光景が現れる。ここは爆心地から5kmの場所で、敵兵は被爆しても直ぐには死なない。しかし皮膚は焼けただれ、触っただけでボロボロと剥がれ落ちてしまう。ある者は鼻が溶け、目の穴が溶けて固まり、のっぺらぼうのようになっている。しかも生きたまま。まさに地獄絵図だ。中国人といえども酷すぎるので、見つけた者は皆楽にしてやった。また、あの重い戦車がひっくり返っている。信じられない光景だ。
爆風爆心地から3km、戦車はもはやひっくり返る前に溶け、車内から人骨がはみ出ていた。ここに来ると人間はもはや原形を留めていない。即死だっただろうから、5km地点の連中よりはマシに死ねたはずだ。
核攻撃の結果、1時間ほどで中国軍をベトナム国境まで追い返した。中国軍のいた地点には山ほど死体があるだけだった。
後の調査の結果、5万人以上の兵士、1000両の戦車、数百機の航空機を中国軍は失ったと推定された。ほとんど溶けていたので、推定しかできない。ベトナム軍も囮の部隊1000名ほど失ったが、中国軍を駆逐することには成功した。勝利はしたものの、大量の血で染まった勝利だった。




