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 ガルザは、マジマージの国へ行く。

 マジマージの国で、マジアーマーの事を学ぶのだそうだ。

 つまりは修行を始めるのである。ガルザが自分でそう決めたのだ。


「君も一緒に来ないかね」

「いいえ、私はここに残ります」


 チョコザインに尋ねられ、私はベッドの上で首を振った。

 部屋の中には二人だけ、私の目が覚めてから数日後、改めてチョコザインからガルザの事を説明を受けたのだった。

 体調も良くなってきて、もうベッドから起き上がって動くこともできるが、大人達はまだ無理をしちゃいけないと言う。まあ、そりゃそういうものだろうが、正直ジッとしてる方が体に悪い気がする。


「女神セレスティーナ様は神託で――」チョコザインがそっと語りだした。「――<ナンテーネの国に戦士が現れる。力に怯える子供を導き、救いなさい>とこの様におっしゃった。最初に君達に出会った時、私はその子供が君のことではないかと思ったのだ」


 私は胸の前で手を組み、目を伏せる。女神様ありがたや、ありがたや、である。


「君は不思議な子だ。なぜ、ここまでの目にあって、その様に振る舞えるのか。この神託の事も、君は理解しているのだね」


 それは私がロリババアで、たまたま色んな知識があって、今回の騒動も元はといえば私が女神様に直で色々チクったせいだからです!

 なんて事は口が裂けても言えないが、私はチョコザインの言葉を否定も肯定もせず顔を上げて、その顔を見つめた。チョコザインは、その綺麗に澄んだ瞳を瞬いた。


「チョコザイン様、一つお願いがあります」


 私の頼みにチョコザインは驚いた。

 最初は許してくれなかったが、私がそれはそれはしつこく食い下がったので、しぶしぶ了承してくれた。というか、させた。


 今回の騒動に決着を着けるべく、私は立ち上がる。

 目指すは地下牢、イカ男の元へ!





 さて、平和なこの世界にも、悪い人を収容する牢屋はある。

 だが、この神殿の地下牢というのは、地下室の開いてる部屋を急遽そのようにあつらえた場所のようだ。


 チョコザインと共に、地下の階段を降りていった。

 石造りの階段は一歩踏むごとに、硬い音がしてそれが地下にこだまする。

 蝋燭の灯がちらちらと揺れて、その火に照らされた影が踊るようについてくる。


 しく、しく、しく。


 すすり泣く声が、足音に混じって下の部屋から聞こえてくる。


 私は眉根を寄せながら、ぐるぐるとプランを練っていた。肝心なのはイントネーションだ。私はイカ男のことを知っていて、これからその知識を使って、事を進めなくてはいけない。


「ここだ」


 階下につくとすぐそこに扉があった。

 鉄製の扉は重々しく、頑丈そうでちょっとやそっとの力では破ることはできないだろう。

 見張りの人は階段の上にいたけれど、ここに他の人影はない。


「開けてください。こいつと話があります」

「それは無理だ。いくら何でも、直接会わせるわけにはいかん」


 しく、しく、しく。と湿っぽい泣き声は続いている。


「……でも、扉越しだと話もできなさそうなのですが」

「う、うむむむ」


 多分、このイカ男ずーっとこの調子だったんだろうな。

 チョコザインが、渋い顔して扉を見つめる。

 そしてしばらく、考えを巡らせてから懐から鍵を取り出した。


「では、少しだけだ」


 私は組んだ指をポキリと鳴らして、頷いた。


 チョコザインが慎重に扉を開ける。私が中へ入ると、地下室は思ったよりきれいで、やっぱり清潔だった。真四角の部屋の中は、蝋燭の灯で明るいしベッドが一つと書き物机と椅子が置いてある。


 人の気配に、部屋の角にあるベッドの奥に縮こまった、白いものがぶるりと揺れる。


 私は両手を腰に当て、息を吸い込んだ。確かこういう喋り方だったはずだと、記憶の糸を手繰り寄せながら、でたらめに怒鳴り声をあげる。


「あー! 情けなか情けなか! 海ん男がいつまでーもメソメソ! そげん暗いとこに蹲っちおるからいかんとね! こっちば、はよ出てきんしゃい!」


 以上。お母ちゃんになったつもりで、私はえせ博多弁でまくし立てた。

 チョコザインが後ろでポカーンとしているのがわかる。


「ば」白いものがぶるぶると揺れた。


「ばばばばばばってん! ばってん! おいみたいな奴にはここが似合いの場所やけん」

「ええから!」

「びゃっ! はいぃ」


 私の作戦が功を奏したか、、しおしおと部屋の隅から出てくる白いもの……大きさは猫より少し大きいぐらいの丸っこいイカである。デフォルメされたぬいぐるみの様なイカだ。


 根暗なクラーケン略してネクラーケン。

 そう、これこそがイカ男……海辺の知将水のネクラーケンの正体なのだ!

 本来臆病で繊細なこのイカは、魔王の力によってあの人間の姿に変身していたのである。



 昔、いや最近の事かもしれない……地上の世界に憧れたネクラーケンは、夢と希望を胸に上陸したピュアなイカだった。

 しかし、地上の生活は辛いものだった。小さな白いイカはその姿を笑われ、犬に追われ、猫に襲われ、カラスにはたかられた。そうやって追い詰められ末に誕生したのが、悪のネクラーケンなのである。と、アニメでは説明されていた。ひどい話である。


 そしてこのネクラーケンの弱点は、この彼の故郷を思い出させる方言なのだ!

 自分のなまりを馬鹿にされたのが、彼の心の傷ゆえに、愛憎入り交じる故郷への念が彼の心を刺激するのである。あとついでに彼は、故郷のお母ちゃんにも弱い。


 えぐえぐ、と泣きじゃくるネクラーケン。

 理知的でスラッとしてた男の姿だった時の面影はどこにもない。


「ほらもう、そんなに泣くな……あ、泣かんでもよか」


 膝をつき、取り出したハンカチで泣き顔を拭う。丸い両の目からは、大粒の涙が後から後からこぼれてくる。

 ネクラーケンは、うなだれたままちょこんとしていた。

 私は言い聞かせるように語りかける。


「あれは、心の隙をついて入り込む。甘い言葉でだまして、気づいた時には操られるんだ。お前、言ってたな『私はもう前の私と違う』って。でも、お前が本当になりたかったのは、あの姿か?」


 私の言葉を聞き、ネクラーケンは、大きく体を揺らして「ちがう」と訴える。




 アニメでは、魔王の力によって洗脳され、本来の姿とは別の姿へと変えられた人が多く登場する。

 彼等はみな一様に凶暴になり、心を歪められ、欲望に忠実なり、魔王の手下となる。


 例えば、ある村におしゃれ好きな少女がいたとして、そこに魔王の力が加われば、彼女はうぬぼれに溺れ村の人を苦しめる、ド派手で悪趣味な恐ろしげな姿へ変貌させられてしまう。


 村は彼女に支配され、その少女以外の女性は、ダサダサビームを浴びて、人前に出られないほどダサくなってしまう。そして村では毎日少女を崇めるためだけの美女コンが行われ、こき使われる村人たちは、ゾンビのようにクタクタになってしまうのだ。


 世界中にそんな異常が広まっていけば、人々の心に恐怖が芽生えるだろう。

 おまけに大地は割れ、緑は枯れ、水は荒れ、と各地で天変地異まで起こるのである。

 負の感情で力を得る事ができる魔王はますます強大となり、まさに負のスパイラル。


 そんな変異に怯える人の中で、マジアーマーに覚醒したガルザがどんな目にあったかは想像に難くない。


 ……それにしてもアニメじゃ、愉快な騒動だったが、現実になったら少しも愉快じゃないな。ダサダサビーム。まあ、それはともかく。


 そんな風に魔王に洗脳された人たちが、ユウマ達に倒されると毒気が抜けて元の姿に戻り、ポカンとした顔で「あれ? 私は今まで何を?」なんて具合に正気に返るのだ。


 まさにネクラーケンが、今その状態なのである。


「……お、おいは、悪かこと一杯っ、しよったけん。……んぐっ、やめよ、思っち、やけど、体ば言う事、きかん……なって……」

「そうか」ネクラーケンは覚えているのだ。


 普通より更にその上の支配を受けたネクラーケンは、己の人格さえも乗っ取られかけたのだ。……そういう感覚は、解らないでもない。だからこそ、恐ろしかっただろうと思う。


「楽しか、楽しか、笑っとったと……ほんなこつ、おいは思ってなか……な、なしてこげんことになったとやあ……」


 後は言葉にならず、ネクラーケンは号泣した。泣きつかれて眠るまで、何度も、何度も、「ごめんなさい」と謝り続けた。私の傷のことも、何度も、何度も。




「解りましたか、チョコザイン様」


 地下室を後にして、私は苦い気持ちでチョコザインに言った。

 チョコザインの中には、まだあのトゲがある。

 だから、知ってもらわなければいけなかった。


「あんな力じゃ、誰も幸せにならないんです……」


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