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銀河の彼方  作者: A.杉本
20/25

20 銀河警察

「射程まで、あと三〇秒」

「来るぞぉ」


 ラルフは舌舐めずりをした。敵の脱出コースをインターセプトしたバハームートは、圧倒的に有利な立場にある。そしてそれは敵もわかっている。となれば……。


「言いたかないが、もう少し落ち着いてくれんかね」


 クルーゼルが思考に口を挟む。


「あんたに言われたくないね。ミサイル撃つときに『ひゃっほう!』って叫んだのを忘れたとは言わさない」

「忘れた」

「あのなぁ」

「艦長、グリーンスリーブスから救援要請です」


 入ってきた通信に、ラルフは顔をしかめる。


「何をバカな。いったい何やってんだ? ライサの奴は」

『敵艦、ミサイルを発射!』

「来たっ! CMW発射用意!」

『数四、ふ角三五、速度五二。接触まで九〇秒!』

「数が多いです!」


 ハッサンが既に蒼ざめた表情で、ラルフに叫ぶ。


「それがどうした! 一、二本多いくらいでわめくな!」


  ■  ■  ■


「ノイズメーカーを二本も撃つ必要があったんですか?」

「脱出コースの出口に陣取られたままじゃ困るんだ。ちょっとどいてもらわんとな」


 ノイズメーカーをミサイルと思わせて、避けてもらう作戦である。


『敵艦ミサイルを発射!』

「なに、もう? しかしそれはまた、随分早いな」

『数四本、一一七の九一二。速度五五。接触まで、あと六十六秒!』


 キャンベルの表情が厳しくなった。フレウが楽観論を述べてみる。


「先手を取られて慌ててCMW撃ったんでしょう。それも四本も撃たれて……」

「しかし、それにしても反応が早かった。射程もまだ遠い」

『敵ミサイル、接触まで四十五秒。ノイズメーカー爆発まで、あと二〇秒」

「有視界、用意。爆発でミサイルをロストした場合に供える」

「射程外から、CMW以外を撃つことなんて有りえるんでしょうか?」


 キャンベルがいつになく厳しい表情しているので、少し心配になったフレウが声をかける。


「わからん。だが、反応の早さが気になるんだ」

『……三、二、一、接触!』


 銀河警察の武装艦の放ったCMWが連続して爆発した。四本中二本を誘爆させることに成功する。残り二本。だが、彼らのミサイルも全て爆発したわけではなかった。


『敵ミサイル爆発! ノイズ発生! 敵艦をロスト!』

「やはりCMWでしたね」

「全部とは限らん。爆発を抜けてくる奴はないか?」

『現在、確認中』

「ノイズメーカー二本とも抜けました。爆発まで、あと一〇秒です」


 フレウの言葉が響く。どういうわけか、キャンベルの顔は今までで一番厳しい。


「加速だ」


 突然、深くかぶった艦長帽のひさしの向こうから、ボソリとキャンベルがつぶやいた。


「は? しかしコースからはずれる可能性が……」

「もちろん、そんなことはわかっている。加速だ」


 有無を言わせぬ口調に、フレウは釈然としない表情で指示を飛ばした。


「シュマイケル、加速です。あなたの腕を見せてください」

「さっきから、ずーっと見せてるだろうが」


 不機嫌そうなシュマイケルに、フレウは指を立てて強く言い返す。


「これから、もっと見せてもらいます!」


 やれやれとシュマイケルが首を振ったとことで、警報が鳴響く。


『ミサイル発見! 数二。一発目接触まで、十一秒! 二発目接触まで十九秒!』

「そんな射程外なのに……」

「慣性で飛んでんだ。こっちの脱出コースはバレてるから、そのコースに乗せてきた。生きてんのは、近接信管だけだろう。全速だ! 一発目をやり過ごしたら直ちに減速する!」

「減速?」

「そのまま加速して突っ込んだら、たぶん後から来てるミサイルにやられる。しかも、こっちのノイズメーカーの爆発とタイミングが……」


 キャンベルの表情に緊張が走る。


「あ! こっちのノイズメーカーがあと六秒で、向こうのミサイルが七秒ってことは……」

「自分のノイズメーカーで、敵のミサイルをロストしちまう……」


――慌てて撃った? とんでもない! こっちの動きを計算して射ってる!


「信管抜きで、やり合う相手じゃねぇぞ」


 キャンベルは唇を噛み締めた。



  ■  ■  ■



 ギレットは本国に連絡を取ったあと、あらゆる手を尽くしてベルディナードのスターヘヴン委譲に関する情報を集めた。いくら地球の進出を気にしたとしても、巨大宇宙ステーションを簡単に渡せるとは思えない。何か必ずそれに見合う代償が有るはずだ。

 しかし、よほど堅い箝口令が敷かれてると見えて、自分より情報を持っているものは、皆無だった。ようやく情報が出たのは、なんとカーミアン政府の中枢からである。

 だが、送られてきた何十枚もの文書は、ベルディナードがほとんど全ての権利を地球に委譲することを再確認するだけのものでしかなかった。

 何度も読返し、やっと見つけ出したベルディナードに有利な点は、ステーションのメンテナンス業務の全てを、ベルディナードが責任を持つということだけである。


「本当にただでくれてやる気か……」


 ギレットは目を細めてつぶやく。そうなると出るべき答えは一つだ。メロウ議長の提案の丸飲みである。事態収拾に協力しなければ、地球にアルカルが差し出される可能性すらあった。


「ヘリオンはそうも行くまい。軍事政権の哀しさ、か」


 ギレットはヘリオンの本国とアダムズのやり取りを想像して、無表情に論評した。



  ■  ■  ■



 アダムズは通信モニターにかじりついたままだった。もう既に、補佐官、国民議会副議長、産業省長官など五人の人間と話し、今六人目と話すために回線が空くのを待っている。

 そしてその苦労にも関わらず、事態はあまりかんばしい進展を見せなかった。


「首相か、最高議会議長の辞任」ネックはこれである。


 今の首相は軍部の重鎮、バロウズの娘婿だ。そして国民議会議長はそのバロウズの姪に当たるラプサナである。つまり二大大国の要求は、今最もヘリオンの力の象徴である人物の、権威を直撃することになる。

 もちろんカーミアンもベルディナードも、そんなことは百も承知だろう。アルカルだけでなく、ASA十三連合全体に敵対する言動を示してきたヘリオンに、これは間接的な制裁の意味もあるに違いない。だから尚更のこと、無条件に「はい、そうですか」と受け入れるわけにいかないのだ。


 しかし、このまま拒み続けることもできないのは事実だ。なにより連合艦隊に進駐する

大義名分を与えてしまっては、事態が悪化の一途をたどるだけである。

 どこかで、必ず妥協しなければならなかった。


「君がアダムズ君か。確か十年ほど前に何かのパーティで一緒になったな」


 敬礼するアダムズに、如才なく話し掛けたのはシミ・ギャラガー提督である。閑職に退いて久しいが、人脈は幅広い。提督は耳の上にわずかに残る白髪を撫でつけながら、人の良さそうな目に笑みを混ぜて、アダムズを眺めた。


「覚えて頂けたとは光栄です、提督。無礼を承知で突然連絡申し上げたのは、我がヘリオンに決断せねばならない時が迫ってるからです。それも数時間先に」

「地球のステーションが、墜ちたそうじゃな」

「ご存知でしたか。では説明を省きますが、事態は既に真の責任の追及になく、責任を取 ったという形を求める段階に入っております。我が艦の戦闘活動が認められていますが、私はどのような背景があったのか存じ上げません。

 しかし問題は「そこにいた」ことであり、カーミアン、ベルディナードはその責任を取らなければ、領宙に艦隊を派遣する意志を固めております。まずいことはベルディナードがこれまでと違い、自ら血を流して見せたことです」

「スターヘヴン譲渡とは、思い切ったもんだの」


 まだ、ベルディナードも連合も公式発表をしていないはずである。情報が子供まで知っているほど流れまくってるのか、それともギャラガーの耳が早いのか。アダムズはこの老提督の表情を読み取ろうとしたが、努力の甲斐なくどちらとも判断がつかなかった。


「――両国の要求は、首相か国民議会議長の辞任です。これまでの経緯からすると、受け入れざるを得ません」

「つまり、そろそろバロウズの時代に、引導を渡す時が来た、ということじゃな」

「……」


 アダムズは返答に窮した。ギャラガーの顔をまじまじとみつめ、一つ咳払いをする。事態をよく知ってるらしい言い方といい、急速に不安感が増した。


「全く存じ上げませんでしたが、バロウズ将軍とかなり親しくしてらっしゃるようで」

「もちろん彼のことは、よう知っとるよ。ようくね」


 柔和な表情は全く崩れないまま、通信は切れる。アダムズは何も写していないモニターの前から、凍りついたように動けなかった。



  ■  ■  ■



『ノイズメーカー爆発! レーダー使えません! ミサイルをロストしました!』

「もう最初のミサイルとの接触まで、何秒もない」


 フレウが生唾を飲み込む。


「騒ぐな! 有視界に切り換えろ」


 キャンベルは命令を出しつつ、艦長帽のつばをつまんで、帽子を整えた。

 この艦が脱出コースをはずれるわけにはいかない。いかないからこその先制ノイズメーカーだ。


――作戦としては、極めて定石だ。やつらはそれを読んだのか?


 有りえることだ。今やそのノイズメーカーが、ミサイルのロストを招き、こちらの足を引っ張ってる。

 もし、ノイズメーカーの爆発がもっと早かったら? ミサイルに気付かずやられていたことは間違いない。偶然でここまでやれるわけはない。計算されていたのだ。

 次の瞬間、艦が大きく振動した。


『爆発を確認! 背面隔壁に異常発生! H―六で火災発生!』

「減速! 脱出可能な速度、ギリギリまで下げろ!」


――間に合えっ!


 キャンベルは間接が白くなるほど、手を握り締めた。

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