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終わりに向かうシュトルーデル

特に決まってはいないのだけれど、明日、終わりになるのだろう。きっと、お別れするのだろう。

何となくだが、そんな予感がする。本当に何となくだが、その『何となく』の予感を私は外したことがない。的中率は実に10割で新宿の母も驚くほどの好成績だ。

まあ、今回の様に喜ばしくないことばかりに働くのは好ましくないけれど。


何と言われるのだろうか。

今日の約束は野菜の美味しいお店を見つけたからそこで一緒に夕食をというものだった。ほど良く賑わった店内で、楽しく料理を味わった後で、向かいに座る私へと用意してきた言葉を彼は言うのだ。

その一言で和やかだった店の雰囲気は変わってしまう。2人の間に流れる空気の変化。彼の言葉が波紋の様に私の心に広がっていく。それだけで、彼と私の楽しかった時間が終わってしまう。


何を言われるのだろうか。

単純に『別れよう』だろうか。もしくは『もう終わりにしよう』だろうか。

彼は素直だけれど優しいから、私を傷つけないようにと、もっと回りくどい言葉を使うかもしれない。

『最近、2人の間に距離があるように思えるんだ』

『一度、2人の関係を見直してみないか』

『お互いに幸せになる方法を探してみよう』

どれもこれも違和感なく言いそうな言葉で嫌になる。それに対して私は何と応えれば良いのだろうか。何と応えられるのだろうか。


何も言われないという可能性もある。

たとえば、明日、待ち合わせ場所に行っても彼はいなくて、また遅刻かと思いながらも私は待つ。待って、待って、待って、それでも来ない。あまりにも遅いと思って彼に電話する。けれど彼は電話に出ない。

電車内だろうかと思って次はメールを送ってみる。文面は『今どこ?今日、約束してたよね?』という絵文字も顔文字も入ってない色気のないもの。送信してから1分、2分では返せないだろうから、5分は待って、10分も待って、15分が過ぎた頃にもまだ待っている。


そして私は段々不安になっていく。

もしかしたら、病気で寝込んでいるのではないか。動けないくらい熱が高くて苦しんでいるのではないか。来る途中に事故にあったのではないか。今も生死の境をさまよっているのではないか。それなのに私はこんな所でのうのうと待っていても良いのだろうか。様々な可能性が渦の様に私を取り巻く。


そうしているうちに時間は無情にも過ぎていき、空が青色から茜色へと変わってしまう。私は何度かけても繋がらない携帯電話を片手に途方に暮れるのだ。

終電の少し前、とうとう携帯電話の充電が切れてしまって、私は急いで帰りはじめる。早く充電しなければ。きっと何か急用が出来て連絡するのもままならなかっただけなのだ。私は私に言い聞かせながら歩いていく。用事が終われば、明日になれば、きっと連絡してきてくれるのだ。


そうして次の日、その次の日、そのまた次の日と彼からの連絡を待つ。待って、待って、待って、けれども電話もメールも来ない。最終的に私は待つのに疲れて、諦めてしまう。連絡を待つのを諦めて、彼との関係を諦める。

彼には似合わないけれど消極的で確実な終わらせ方だ。


ぐるぐるとした考えをそこで打ち切り、眠ることにする。睡眠不足はお肌の敵だ。直接顔を見るのは1ヶ月ぶりだから、少しでも綺麗な私でいたい。たとえ、明日で終わってしまうのだとしても。たとえ、彼が来ないのだとしても。

そして私は、電気を消す前に、電池式の充電器を鞄に入れた。


次の日、10分ほど遅刻してきた彼は、ほど良く賑わった店内で、人参のシフォンケーキを味わった後、向かいに座る私に用意してきた指輪を渡す。

そういう終わらせ方もあることを、夢の中にいる私は思いつきもしなかった。

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